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先輩後輩の関係だから

「先輩泣きすぎですよ!」


「ほんと! 今日は私達の卒業式なんだからお兄ちゃんじゃなくて私達が泣いてしかりべきじゃ無いの?」


 涙声の担任の最後のあいさつも終わり、自由時間の校舎で、俺の未だに止まらない涙を優しく拭ってくれるひまりと咲ちゃん。もしや天使なのか?


「お母さんとお父さんは?」


「ああ、あの二人は他の親御さんとか先生方に挨拶しに行ったよ」


 大人とは大変なもので、二人は涙をさっさと拭い、「お世話になった人たちに挨拶してくる」と行ってしまった。


 特に学校行事等は仕事柄中々参加できなかったこともあり、他の人に代役を頼んだりしたらしいし、先生方にも沢山迷惑をかけたと言っていた。もしかすると、俺も行ったほうが良かっただろうか。……いや、行ったら何かしら関われる予感がするな。


「あれ? 先輩なんか自分も行けばよかった、なんて顔してますね」


「あ……うん。よくわかったね」


「もう先輩のことなんでもわかっちゃいますからね!……というか、いまから先輩はしないといけない事があるでしょう?」


 ん?しないといけないこと?何かあったか?今日は卒業式。となれば、咲ちゃんとひまりに用があったとしても、俺に用なんてなかったような気がするが……


 隣のひまりに目線を向けると、若干咲ちゃんに呆れた目を向けた後、肩をすくめるだけで、一体なんだか。


「ほら! 私のお父さんとお母さんに挨拶しに行きましょう!」


「へ?」


 咲ちゃんの親御さんに?


 咲ちゃんを追いかけるように、靴箱の外に行くと、まだ若くみえる夫婦が咲ちゃんに手を振っているのが見えた。さっき俺が多分咲ちゃんの手紙の際に両親だろうと予想した二人だった。


 二人は娘が男を連れてきたというのに特に驚いた様子もなく、何なら俺を視界に入れた瞬間、楽しそうにい顔を深めた。


「お母さーん! お父さーん! 先輩連れてきたよ!」


「あらー? 早かったわね?」


「咲、その後ろの方が?」


「はい! この人が高町和人先輩!」

 

 咲ちゃんは上機嫌に手を差して紹介する。お母さんはゆるい感じの優しいお母さんという印象だ。そしてお父さんは若くみえるのに、頼もしい。そりゃあ、この両親に育てられたら咲ちゃんもいい子になるよな、と思う。


「自己紹介遅れてすいません。高町和人と言います。妹が娘さんのお友達でして……」


「和人くん。娘から色々聞いているよ。最初は突然娘が年上の男の話をしだすものだから、初めはひどく驚いたものだよ」


「そうねえ。でも話を聞いてるうちに、咲は和人くんのことすっごく信用してるみたいだから、どんな子か気になってたの!」


 電話じゃあ本人は見れないから、と二人で笑う川谷夫婦。た、助かった……娘をたぶらかした罪で一発くらいは殴られるかと思ってた。こんないい子に寄ってくる年上の学生……俺だったらぶっ飛ばすくらいしてしまうかもな。


 俺はほっと胸を撫で下ろし、少し安心していると、咲のお母さんはとんでもないことを言いだした。


「ねえ、そう言えば和人くんって、咲とどれくらい進んでるのかしら?」


「ちょっとお母さん!?」


 ん?この人、突然何言い出すんだ?


「進んでる……とは?」


「え? 咲と和人くんって、付き合ってるんじゃないの?」


 どういうことだろうか。咲のお父さんもうんうん顔を振っている。咲ちゃんは顔を真っ赤にしてしまって頼りにならない。こういう話題に慣れてない初心な子だし……


「えー……俺と咲ちゃんはお付き合いはしてません!」


「だから言ってるじゃん! 先輩と私はあくまで先輩後輩の関係でしかないって!」


 俺がそう断言すると、それに乗っかるように咲ちゃんも声をあげる。この様子では、家でも言われているのだろう。


「本当……? そうなのか。咲がいきいき話すものだから、てっきり付き合ってるのかと……」


 咲のお父さんがあっけにとられた表情をする。お母さんの方もそういった様な表情をしているところを見ると、俺と咲ちゃんが付き合っているという情報は、当然の事実として川谷夫婦の中に存在していたということ……?


「というか、流石に付き合ってたらもっと早く挨拶に伺いますって」


「まあ、それもそうか……ごめんね。僕らの早とちりだったみたいだね」


 にこやかに咲ちゃんのお父さんは言う。

 そうこうしていると、俺達の親も、こちらに向かってくる。


「ああ、高町さん! お久しぶりです!」


「川谷さん! 今年も色々お世話になって……」


「全然いいんですよ! こちらこそお兄さんに良くしてもらって!」


 「いやいや、うちの息子なんてこき使ってやって下さい!」なんて盛り上がっている親たち。てっきりウチの親と咲ちゃんのところのご両親が会うのははじめてと思っていたが、咲ちゃんとひまりは昔からの友達。よく考えたら会ったことはあるか。


「そうだ、咲ちゃんとひまりで写真を撮りませんか!」


「良いですね! せっかくの卒業式ですしね!」


「こんな事もあろうかと僕一眼レフ持って来たんです!」


 勝手に決めて自由に進んでいく大人たち。咲ちゃんとひまり、俺は目をあわせて肩をすくめると、ゆっくりその足を進めた。


 校門前の立て看板の前は、少し時間が経っているのもあり、だいぶ人が少なくなっていた。その看板がよく見えるように隣にひまりと咲ちゃんで立ち、はいチーズ。二人揃っていい笑顔だ。涙の卒業式もそれはそれでいいが、二人には春の花のような笑顔が一番似合うな、と詩的なことを考えていると、突然声を掛けられる。


「和人くんもどうだい? 入ってみないか?」


「え……? でも……」


「先輩、私、一緒に撮りたいです!」


「お兄ちゃんなら歓迎するよ! ただ私の背の低さが目立たないように!」


 二人の卒業式なんだから、二人だけで写真を撮ったほうが良いんじゃないかと思ったが、俺が入ることに、二人だけではなく、川谷さん夫妻も賛成している模様。

 うん。そうだな。俺も確かに二人と写真撮りたいかも。


「はい、チーズ!」


 一眼レフを覗き、その画を見る。そこには、眩しいくらいに笑顔の輝く三人の姿が写っていた。


「ああ……これ……」


「うん? もしかして、もう一枚撮りたい?」


「いえ、違うんです。ただ……」


「ただ……?」


「去年の俺が卒業式に撮った写真より、ずっと大切な写真になりそうです」


 それを聞いた咲ちゃんのお父さんは「なにそれ」と笑って、まあ。と一言置いた。


「大切な人がいたら、自分自身より大切に感じるもんだよ。僕もね、中学の頃の自分の写真なんか見るより、この写真を見てる方が何倍も幸せだよ。君もいつか実感するさ。その時には僕にも教えてほしいなあ」


 そう優しく話す咲ちゃんのお父さんは顔を上げ、お母さん同士で話しているウチの母、川谷さんの奥さんそれに、何やら話して盛り上がっているうちの父と、卒業生二人に声をかける。


「そろそろ時間ですし、そろそろ引き上げましょう!」


 その声で、帰る準備を始める一同。ほぼ荷物のない俺に、咲ちゃんのお父さんはまた声を掛ける。


「そうだ、まだ自己紹介をしてなかった。僕は川谷聡太郎、妻は幸子。これからもよろしく! いつでも遊びに来てもらっても構わないから!」


 こうしてひまりと咲ちゃんの卒業式という濃い、濃い出来事は終わりを告げた。

読んでいただきありがとうございました。


次は3時頃投稿します!

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