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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:〈上〉〈下〉発売中)  作者: 五十鈴 りく
おまけ

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おまけ✤『隙間を埋めて』

(2026.2.10発売)書籍版下巻で完結するので、記念におまけSSです(*´▽`*)

WEB版と書籍版で物語に差異はありますが、共通しているネタです。

WEB版のラストのすぐ後の話ですね。

※さすがにWEB版本編をすっ飛ばしてここだけ読んだ場合はネタバレします。本編読了後にお願いします。

 それは、逃げるようにして王都を出たすぐのこと。

 まっすぐに伸びた公道を馬車が走っていた時、物珍しそうに景色を眺めていたルーシャが不意にブラッドに首を向けた。


「あのね、ちょっと訊きたかったんだけど……」


 改まってそう言われた。


「うん?」


 何事かとブラッドは軽く身構えたが、ルーシャが訊きたかったのは意外なことだった。


「いつ頃私のことを好きになってくれたの?」


 ルーシャはなんとなくブラッドから目を逸らすと、ごまかすような早口になる。


「だ、だってブラッドはミリアムさんのことが好きなんだって思ってたから。全然わからなくて」


 ミリアムの存在を知る前は、ルーシャはブラッドが男好きだと勘違いしたままだったのだ。

 そのせいもあったのか、ルーシャは自分に向けられる感情に対して鈍感だった。わりと露骨だったとブラッドは自分で思うのだが。


「……はっきりいつって言われると困るけど、多分ルーシャよりも俺の方が先に好きになったんだと思う」


 警戒心が解けてからでも、ルーシャがブラッドに向けてくる好意は友人の扱いと変わりなかった。それを随分もどかしく感じていたのだから。

 それなのにルーシャは首を傾げた。


「それはないと思う。私の方が先でしょ?」

「なんでそう言いきるんだ?」

「あの時……お店の二階でジャックさんとの話を聞いたくせに何も言わなかったじゃない。だからブラッドは私に興味ないんだなって思ったの」


 あの時。ジャックがルーシャに好きだと言った。

 思い出しただけで不愉快極まりないが。


「あれな、下手なこと言うと歯止めが利かなくなるから何も言わなかっただけだ。立場上、言えなかったし」


 ずっとモヤモヤしているのを懸命に隠していたのに、ルーシャはブラッドが無関心だと思ったらしい。

 それがバレないように気をつけていたのは確かだけれど、こうも成功していたとは。

 ブラッドが無関心ではなかったのだと知ったルーシャは、ちょっと照れつつもどこか嬉しそうだ。


「そうなの?」

「むしろドン引きされるくらいにはいろいろと言いたかった」

「ドン引きって」


 なんて言ってルーシャは声を立てて笑っているが、生憎とこれは冗談で言っていない。

 それまでの人生で自分に独占欲というものがあるなんて知らなかったほどなのだから、あの時は自分でも戸惑いが大きかった。


「でも、ジャックさんのことがあったから、それで私も誰が一番好きなのかって自覚したの。他の人じゃ駄目だって」


 ルーシャはそんなふうに考えてくれていたらしい。

 これもブラッドからはわからないことだった。どうしよう、嬉しい。

 馬車に誰もいないのをいいことに、ルーシャをギュッと抱きしめる。膝に乗せようとしたらそれは抵抗された。ルーシャの性格上、スキンシップは少しずつ、気長に慣らしていかないといけないようだ。


「それにしても、お互いにどう思ってたかって、口に出してみないとわからないもんだな」

「本当にね」


 ルーシャが微笑みかける。それがとても満ち足りた表情に見えた。


「ねえ、これから時間をかけてでいいから、ブラッドのことを聞かせて? 私、ブラッドのことをもっと知りたいの」


 思えば二人は出会ってからまだひと月程度でしか経っていないのだ。

 ただし、時間は関係ないと言える。ブラッドは幼馴染のミリアムよりも出会って間もないルーシャに惹かれたのだから。


 ブラッドのことを知ろうとしてくれるルーシャを愛しく思う。

 自然と笑みが浮かんだ。


「例えば?」

「そうね、子供の頃の話とか、騎士になってからのこととか」

「じゃあ、ルーシャのことも教えてくれ。ばあさんと二人でどんなふうに暮らしてたのか」


 共に過ごせなかった時間を、こうして会話で補っていく。それはとても大切なことだから。


「いいよ。おばあちゃんって話のネタに困らない人だったから。町でひったくりが出た時なんて、自警団の人を呼んでたんじゃ間に合わないからって、近くにいた人たちと一緒になって先回りして捕まえたとか、すぐ無茶苦茶なことしたし」

「それはまた賑やかそうだな……」


 そういえば、あのジャックとさえ仲良くなるような人物だったのだ。どこにでもいる優しい老婦人というだけではなかったのだろう。


「そうなの。出歩くと私の方があちこちでおばあちゃんの話を聞くくらいだったから」


 笑っているけれど、少し寂しそうにも見えた。ルーシャがどれだけ祖母のことを好きだったのか、普段の言動から滲み出ている。だかその祖母を亡くしてどれだけ悲しかったのかもよくわかる。


 これからはブラッドがその祖母に代わり、ルーシャの欠けた心の隙間を埋める。

 彼女にとってそういう存在でありたい。


お付き合いいただき、ありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
物理的な距離はぐいぐい縮まったので、心の距離もじわじわ縮めないとですね! WEB版本編を飛ばしてここから読んでしまったら、確かに猛烈なネタバレ! あちゃーw
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