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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:2025.12.10発売予定)  作者: 五十鈴 りく


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39◇Lucia

 最初、部屋は別々の予定だったのだが、ナタリーが不安そうにするから同じ部屋がいいとルーシャから頼んだ。


「ええ、構いませんよ」


 女主は穏やかに答え、要望を呑んでくれた。


 客間で、ルーシャはナタリーと向い合う。

 ナタリーは緊張しすぎて顔色が悪かった。人見知りなナタリーにとって、今日はとにかく目まぐるしかったのだろう。ルーシャは申し訳ない気分になった。


「ごめんね、ナタリー。大丈夫?」


 すると、ナタリーは力いっぱいかぶりを振った。


「だ、大丈夫。役に立たなくてごめんね」

「そんなことないよ。ナタリーが一緒に来てくれて心強いもの。ありがとう」


 手を握ってそれを言うと、ナタリーはほっとしたように目を潤ませた。


「わたし、役に立ててる?」

「うん、とっても」

「よかったぁ……」


 泣き出したナタリーを抱きしめ、ルーシャ自身も不安が和らいだ気がした。

 自分の心配ばかりしていても仕方がない。今は支えてくれている人たちに感謝しながら過ごそう。


 そんなやり取りを女主は口を挟まずに眺めていて、それから大声を出しているわけではないのによく通る声で言った。


「お茶を運ばせますね。少しは気分が落ち着くでしょうから」

「ありがとうございます。お世話になります」


 ルーシャが礼を言うと、女主はルーシャをまっすぐに見て微笑んだ。とても上品で感じのいい女性なのだ。


 名前を訊ねても、気安く呼んでいいのかもわからない。向こうはルーシャの名前も素性も知って接しているのだろうけれど。

 ルーシャが戸惑っているうちに女主は部屋の外へと出ていった。




 代わって部屋を訪れたのはレーンだった。

 カバン型の衣装ケースをふたつ手にしている。レーンの髪色は現在オレンジだが、地毛はロトと同じ鳶色なのだ。

 服はぴったりとしたシルエットのパンツだが、ジャケットが黒なだけマシかもしれない。


 思えばこの格好でこの館にいるのだから、皆に変な目で見られているのではないのか。


「店長、この館は? あのご婦人も誰でしょう?」

「ああ、ここは兄の館よ。彼女はエレイン。あたしの兄嫁なの」

「それって……」

「ブラッドの姉さんってことね」


 すごく似ているというのではないが、どこか通ずるものがある。だからか、好意的に見てしまったのは。

 レーンにブラッドはどうしているのかを訊ねたかった。けれど、レーンは今、それを話しに来たのではないようだった。


「明日は正装しないといけないから、あなたたちに合いそうな服を店から選んできたの。こっちはルーシャ、こっちはナタリー」


 そう言って、衣装ケースをそれぞれ二人の前に置いた。


「えっ、わたしのまであるんですか?」

「そうよ。だってここまで連れてきておいて、肝心なところで留守番なんて嫌でしょ?」

「それもそうですね……」


 ルーシャが衣装ケースを開いてみると、中には赤いドレスが入っていた。シンプルだけれど艶やかで、白い花の刺繡があしらってある。ワンショルダーが大人っぽい。とても綺麗だけれど、ルーシャに似合うだろうか。


 ナタリーの方は肩の隠れるローブ・デコルテの青いドレスだった。こちらは白いフリルやパールで飾られている。間違いなくナタリーには似合うだろう。


「さすが店長、見立てが完璧ですね。このドレス、ルーシャに絶対似合います」


 そうだろうか。ナタリーが笑顔で言ったから、レーンも笑った。


「でしょう? 二人とも明日は綺麗にしてあげるから」

「はい、お願いします」


 ナタリーは女の子らしく、綺麗なドレスを前に緊張が解れたようだった。ルーシャは、明日というひと言でとても重たい気分になったのだが、それは言わなかった。


「具体的には私、何をしたらいいのでしょう?」


 その身内と顔を合わせ、それから――。

 レーンはその先を言おうとしなかった。ルーシャが怖気づくと思うのだろうか。


「その話は明日にしましょう。まずは顔合わせからよ」

「はぁ……」


 ルーシャが会うべき祖父がすんなりとルーシャを身内と認めるかは知らない。

 とにかく今はいつもの日常が恋しかった。家事をしない日があるなんて信じられない。落ち着かない。


 ブラッドと過ごした数日はルーシャにとって大事な時間だけれど、ブラッドがルーシャの事情を知っていたのなら、ブラッドはどうだったのだろう。


 もしルーシャの機嫌を損ねて追い出されたら、ロトたちに叱られただろう。結構気を遣っていたのではないかという気がしてきた。


 自然体に見えて、それでもブラッドは〈契約〉にこだわっていたのだから。


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