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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:2025.12.10発売予定)  作者: 五十鈴 りく


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37◇Lucia

 ルーシャは突然の事態に、荷造りをする手が震えて仕方がなかった。

 自分の家族は祖母だけだと思って生きてきたのに、まだ祖父がいるのだという。それも貴族だ。


 〈リスター〉という家名の貴族は、ルーシャが知る限りでは公爵だったように思うけれど、他にもいるのかもしれない。

 父方の祖父母については祖母もそれほど詳しくはなさそうだった。だから、ルーシャもそこは気にしても仕方がないと諦めていた。


 嬉しいかと問われると、よくわからない。

 身内がいたことは嬉しいけれど、庶民のルーシャが気に入られるとは思えなかった。一度だけ会ってそこをはっきりさせればいいだろうか。

 けれど、身内から冷たくされたら、やはり傷つくかもしれない。


 今は戸惑いが大きくて、まともに頭が働かない。

 ただ――。


 多分ブラッドは最初から、ルーシャが貴族の血を引くと知らされていた。

 だからこそ、ルーシャの護衛として派遣されたのだと今なら納得できる。


 彼がたくさん心配してくれた本当の理由はなんだろう。

 全部が全部、仕事だとか、そういうことではなかったはず。


 少なくとも、ルーシャはそう思いたかった。




 支度を終えて一階の部屋に戻ると、そこにジャックはいなかった。

 もしかすると、もう会うこともないのだろうか。それはルーシャ次第なのかもしれないが。


「あの、出かける前に祖母のお墓に参ってもいいですか?」


 一度町を出たら戻るのが容易ではない気がした。だからせめて、祖母の墓に報告してから行きたい。

 これにはロトがうなずいた。


「わかりました。そう長く時間は割けませんが」

「ありがとうございます」


 そこでレーンが先に部屋を出ていく。


「あたしも一度家に戻るわ。ナタリーにも支度するように言ってきたから、連れてくる」

「ああ、急げ」


 レーンは苦笑し、それから一度ブラッドを見た。ブラッドはずっと無言だった。じっと静かにベッドに腰かけたまま動かない。

 体はもう大丈夫なのか訊きたいけれど、声をかけてほしそうに見えなかった。


 それでも、どこかで落ち着いて話がしたい。ブラッドの本心を聞かせてほしい。

 けれど今は二人きりになるという、ただそれだけのことが難しかった。




 ルーシャはロトとブラッドにつき添われて墓地へ行った。

 短い祈りの中、祖母に報告する。


 祖母はどこまでのことを知っていたのだろう。知らないととぼけていたかっただけなのかもしれない。

 知っていたからこそ、ルーシャに自分を大事にするようにと言い聞かせていたのか。

 今となっては何もわからないけれど。


 ルーシャが墓地から出る頃には黒塗りの四輪馬車が用意されており、その馬車の中にレーンとナタリーが先に乗っていた。

 ナタリーは、うるうると目を潤ませている。


「ルーシャ、大丈夫?」


 自分以上にうろたえているナタリーを見ると、不思議とルーシャの方が落ち着いた。


「うん、大丈夫。ナタリー、つき合わせてごめんね」

「いいの、わたしにとってルーシャは大事な友達だから」


 もしルーシャがこの町に戻らなかったら、ナタリーはどうするのだろう。

 とても大人しいナタリーだから、誰かとペアを組むにも慣れるまでが大変だ。レーンにはナタリーの性格をわかってくれる人を選んでほしい。


 ルーシャが馬車に乗り込むと、扉が閉まった。不安がないと言えるわけがない。

 ナタリーがルーシャの手を握った。ルーシャもその繊細な手にすがるようにして握り返す。


 レーンは困ったようにそんな二人を見ていた。




 ロトとブラッドは馬車には乗らないらしい。

 何かあった時に対応しきれないので、騎馬に乗ってついていくとのことだ。

 ルーシャからブラッドの姿は見えなかった。本当についてきてくれているのかさえわからない。


 それから、馬車に乗っていたのは半日くらいだ。その間、窓の外を見ることもさせてもらえなかった。事情が事情なので仕方がないとは思うけれど。


 到着した建物についても詳しい説明はなかった。ここは王都のどこかだろうとだけぼんやり考えた。

 そのルーシャの血縁者のところに直接向かったわけではなく、ここでしばらく待つということらしい。


 レーンが周囲を気にしながら馬車を降り、それからルーシャとナタリーをエスコートして降ろしてくれた。


「店長、ここは?」

「シッ。お喋りは後」


 敷地の中だけれど、油断はするなということらしい。

 ルーシャはナタリーと顔を見合わせた。


 この館は、庶民のルーシャからすると十分大きかったし、立派だった。落ち着かないながらにルーシャはここで匿われることになるらしい。


 中はどちらかというと落ち着いた趣味のいいインテリアだった。シンプルなタイルの廊下を歩いていると、この館の女主といった風体の女性が迎えてくれた。


「さあ、こちらにどうぞ」


 とても優しげな美人だった。茶色の髪を結い上げ、モスグリーンのドレスを着ている。年齢は二十代半ばくらいだろうか。


「ありがとうございます」


 ルーシャたちが気後れしていても、その女性はあたたかな目をして微笑んでくれた。それがまた不思議と落ち着く。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最高に面白かったです!!! 完結近し、と察し、ではこの辺りでチマチマ味わおうと覗いて――ダメだぁ! あまりの面白さにここ(公開全部)まで一気読みしてしまいました。(∀`*ゞ)テヘッ♥ これま…
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