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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:2025.12.10発売予定)  作者: 五十鈴 りく


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28◆Bradley

 ルーシャを送り届けてすぐ、ブラッドが連絡するよりも先に、ロトのバングルが熱を持って震えた。

 何か用があるのだ。ブラッドは樫の木に寄りかかって通信する。


「ロト兄、何かあったのか?」

『ああ、ブラッド』


 ロトの声がした。いつもの落ち着いた声だ。ブラッドもロトの声を聞くとどこか安心する。

 けれど、気を抜いている場合ではないらしい。


『彼女のことを知る人間は多くない。だが、国王陛下と王太子殿下のお耳には入れてある。それで、王太子殿下はついにリスター公爵に彼女のことを話されたそうだ。公爵は半信半疑で、本人に会うまでは信じないと仰ったらしい』

「まあそうだろうな」

『公爵は、はっきりとした物言いをされる厳しい方だ。本人を前にどう振舞うのか、それも正直なところわからない』


 ルーシャはどうなのだろう。

 たった一人の肉親である祖母を亡くした今、もう一人祖父が残っていると知ったら――。


 戸惑いつつも喜ぶという気はする。

 そして、相手が気難しい爺さんだろうと、ルーシャは気に入られる。あんなにまっすぐな娘はいないから。


「大丈夫だ。ルーシャは頑固ジジイとも上手くやれるよ」

『頑固ジジイとまでは言っておらん』


 ロトがコホン、と咳ばらいをして仕切り直す。


『それで何が言いたいかというと、公爵に伝えたがゆえに情報が漏れやすくなったということだ。彼女がどこの誰なのか漏洩していないはずだが、嗅ぎつける者がいないとも限らない。お前には今まで以上に気を引き締めてもらわねばな』


 あの公園での出来事があってから――ジャックの仕業だったが――レーンの店の周辺にブラッドのような私服の兵を潜伏させている。同士討ちをされてはいけないと、レーンがそれとなく警護の兵がどれだか教えてくれてあるのだが、人の目を集めてはいけないのでブラッドから声をかけたことはない。


「わかった」


 そう答えながらも、ルーシャとの別れが近づいていることを自覚せずにはいられなかった。

 ルーシャが公爵家に引き取られた後、ブラッドは何事もなかったかのように以前の暮らしに戻ることができるだろうか。

 戻れたとしても、それには長い歳月を必要とするような気がした。



     ◆



 ロトに言われた通り、気を引き締めながらルーシャを迎えに行くと、ジャックが店の中にいてルーシャと話し込んでいた。レーンはジャックに対して警戒心が足りない。ロトから連絡が行っているはずだが、警戒に値しないというのだろうか。


 ジャックはルーシャといると顔を赤らめている。危害を加えることはないというのか。

 もしかすると、ジャックの存在はルーシャの身辺警護の強化になると、打算で追い払わないのか。


 とにかく気に入らないので、ブラッドはさっさとルーシャを搔っ攫うようにして連れて帰ったのだが。




 そのせいか、翌日に一人で歩いているとジャックに絡まれた。


「話がある」


 陰険な顔つきで言われた。

 嫌だが、こちらも話がなくもなかった。この際だから一度話をしてみるべきかもしれない。


「ここでか?」

「どこでもいい」


 ジャックはルーシャがいないと急に態度が悪くなる。別に愛想よくしろとも思わないが。

 どこでもいいと言うので、ブラッドはジャックと近くの家の塀にもたれかかりながら話した。ここからならレーンの店が見える。


「それで?」


 促すと、ジャックは顔をしかめながら腕を組んだ。


「お前はルーシャさんが〈特別な人〉だということを知っているのか?」


 ギクリとした。その動揺をジャックは見逃さなかった。


「知っているのか、どうなんだ?」

「……あんたは?」


 ジャックはルーシャの素性を知っている。

 ため息をつきながらジャックは長い髪を肩から払った。


「ウェズリーさんからそれとなく話を聞いた。にわかには信じがたい内容だったが」


 ルーシャの祖母は知っていたのだ。娘の子の父親がどういう身分なのかを。

 母親にだけ話していたとしても不思議はない。ルーシャの祖母はそれをずっと隠し、墓まで持っていくつもりだったらしい。

 それでも、ジャックにだけそれとなく仄めかしたと、そういうことか。


「……だからあんたはルーシャにこだわるのか? ルーシャが特別だから」


 ルーシャのことをよく知りもしないくせに好きだと言ったり、おかしいと思った。大方、研究とやらに費用がかかるからルーシャを捕まえておきたいと、そんなところなのか。


 しかし、ブラッドがこれを言った時、ジャックはブラッドを呪いそうな目をした。


「興味を持ったきっかけとして、それがまったくなかったとは言わない。でも、ルーシャさんを見ていたら、そんなものは関係なくなった。ウェズリーさんに育てられただけあって、ルーシャさんは心根の優しい素晴らしい女性だ。特別であってもなくても同じだ」


 ――イライラする。

 ルーシャが実は優しくて気立ての良い子だと、そんなことは知っている。ジャックに言われたくない。


「それ、口外するなよ。ルーシャが危険にさらされる」


 釘を刺すと、ジャックもイライラしたように返してきた。


「当然だ。真相が明るみに出たら、お前ごときにどうすることもできない事態になる。お前こそ身の程を弁えろ」


 心底腹の立つヤツだ。

 それでも、ここで揉めると目立つ。ブラッドはグッと我慢した。


「……話はこれで終わりか?」

「続けたいなら続けるが? お前がルーシャさんのそばにいるのは気に入らない」

「話は終わりだ。じゃあな」


 気に入らないのはお互い様だ。ブラッドはジャックに背を向けたが、粘りつくような視線だけは感じた。


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