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渇望  作者: ヘルム
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【■■県.■■市.■■町.■■■.■丁目■番■号】

【■■県.■■市.■■町.■■■.■丁目■番■号】

【2023/9/29.13:21】


 出灰達が和泉洋平の隠れ家と目されている建物に到着しても、雨は降り続けている。強風のせいで木々同士が触れる音が騒がしい。

 その建物は、山の麓にある住宅地から離れた場所にある2階建の4LDK、床暖房と、とてもヤクザの所有物だとは思えない。登記簿によると元々は一般家族の所有であったが、父の事業が失敗、抵当に入れていた建物は競売にかけられ、■組の組長が買い受けたという流れらしい。

 組員が管理している、という言葉通り庭の雑草もきれいに刈り取られ、周囲の雑木もいくらか伐採された跡がある。

 出灰はシグザウエルP226のスライドを引き、薬室に弾を装填する。

 廿山が音を立てぬよう扉を開き、出灰から建物に侵入する。

 その瞬間、廊下の奥から全身にまとわりつくような臭いを感じた。生理的に受け付けない生き物の臭いだ。

 玄関に靴はなく、泥の跡もない。ただ薄暗い廊下が続いている。

 音を立てぬよう慎重に、拳銃を構えながら進む。

 廊下の途中からキッチンに入るが、人はいない。

 異臭の原因であろうリビングに続く扉、その前で二人は目を合わせた。

 出灰が蹴り開けた。

 開放的な大きな窓からは、豪雨のせいで水位が増した人造湖と、そこにつながる川、灰色にぼやけた木々が見える。

 その窓に向かって男が座っている。眠っているのか、机

 ドアを蹴った音に反応する様子もなく、ピクリとも動かない。

 壁にぴったりと背をくっつけ、じりじりとにじり寄る。

「ああ。だめだ」

 廿山が呟いた。

 首から流れ出た血が白いシャツを赤く濡らし、力なく下がった腕を伝って床に血だまりをつくっている。

 その男は、頭部がなかった。いや、切断されていたのだ。




 その後、出灰達は建物内をくまなく捜索したが『オブジェクト』は見つからなかった。

「この人が……和泉洋平ですかね?」

 そう呟く出灰は血だまりに触れぬよう、死体から十二分に距離をとっている。『死体に触れぬように』との指示があったからだ。

 シャツや腕を伝う血はなかば乾いているが、床や机の血だまりは冷たくなっているが蒸発した様子はない。

「DNA鑑定の結果を待つほかないな」

 その言葉に出灰はため息をついた。

「面倒ですねえ。死体を調べられないってのは……」

 首の切断面は何度も刃を入れたらしく、皮膚がズタズタになっている。また、刃物とノコギリを使ったことが肉と骨の様子からわかった。どちらもこの建物にはなく、持ち去ったのだろう。

「首を切った理由ってわかります?」

「報復、脅迫、挑発」

「まあそこら辺りでしょうねえ。わざわざ死体を残すってことは……」

 出灰は死体の指を見た。爪も指も、血に汚れてはいるがキレイなものだ。抵抗の跡も、拷問の跡もない。手首や足首も拘束された時にできるうっ血なども見られない。血の飛び散り方からも暴れたような跡もない。なにか薬でも盛られたのかも知れない。

「これからどうします? DNA鑑定の結果が来るのを車で待ちますか?」

「いや、少なくともコイツを殺した奴がここにいたはずだ」

「……聞き込み?」

「そうなるな」

「廿山さんも手伝ってくださいよ」

「それは私の仕事じゃないな」

 出灰は再びため息をついた。

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