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渇望  作者: ヘルム
4/6

【■■警察署.取調室】車内より

【■■府.■■市.■■区.■■■■.■丁目■番■号】

【■■警察署.取調室】

【2023/9/29.12:24】


「お前ってインタビューするとき口調変わるよな」

 出灰がエンジンをかけたとき、廿山はそう言った。

「そうですか? そんなつもりはなかったんですけど」

 アクセルを踏み、車を発進させる。頑丈な石壁と鉄柵に囲まれた駐車場を出ると、平日の昼間だというのに、向かいの居酒屋から騒がしい笑い声が聞こえてきた。

「緊張かな。まだインタビューには慣れないのか?」

 廿山は肘を窓際に置き、窓を伝っていく水滴を眺めながら言った。

「そうじゃないんですよね。こう……ああいうのって何度か聞き返されるじゃないですか。私らだけじゃなくもっと上の人達に見られる可能性もあるかも」

 車は大通りにでて、左折する。昼前であるためか、汚いビニール傘をさした通行人がちらほら見える。

「そういう時に実直な姿勢をみせておけば……評価されることがあったり……するかも」

「ねぇよ。財団の評価は結果だ。逆に言えばそれさえ出せば昇給も目指せるわけだ」

 赤信号で、ブレーキを踏む。フロントガラスを滝の様に雨が流れ、ワイパーにはじkれる。

「……そりゃいいですね。早く言ってくれればもっとよかった」

「入職説明会で言われなかったのか?」

「あんな眠たくなるの覚えてるわけないですよ」

「……それが原因で死ななきゃいいけどな」

 青信号になったのでアクセルを踏む。排水溝に水が流れるように、車が流れていく。

「今回の任務って私十分な情報渡されてないんですよ」

「ああ、言ってたな」

「教えてくれません? 死にたくないから」

 車は交差点を高速道路に入るために右折し、ビルとビルの間に通された螺旋状の坂道を上っていく。

「……昇進する上で、もうひとつ評価される指標がある」

「なんです?」

「『話さないこと』だよ。何があっても。……お前は確か……新卒組じゃなかったよな?」

 車が高速道路に入ったので、ぐっとアクセルを踏み、車を加速させる。

「ええ、そうです。スカウトですよ。優秀なんで」

「……まあ、ペラペラ話すようなヤツはそもそも選別ではじかれるからな。お前も最低限は大丈夫なんだろう」

「ああ! それには自信がありますよ。警察っていうのは色々なものを知りますからね。口が固くなければ務まらない職業ですよ」

「ああ、個人情報とか」

「いや、上司の汚職とか不倫とか」

「……一般のヤツに記憶処理剤が出回らなくて本当に良かったよ」

「そう! 記憶処理剤! それですよ。どうしてヤクザがあんなの持ってるんですか。」

 出灰はいらだたしげにハンドルをバンバン叩いた。

「おい、車揺れたぞ。ハンドルを叩くな」

「廿山さんもですよ! 『話さない』ことを話すってことはなにか情報持ってんでしょう!」

 追い越し車線を進み、次々と車を追い越していく。

「そりゃな」

「それでも私には何もできないんですけどね!」

「じゃあ興奮するなよ……」

「ストレスたまってるんですよ!」

 ひとしきり叫んだ出灰は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐きだした。

「いいんですよ、別に……。……この世にはどうしようもないことの方が多いんですから」

「躁の次は鬱か。忙しいな」

「ああ……そういえばあの人、名前なんでしたっけ。インタビューしたチンピラの人」

「国本浩一」

「国元、可哀想な人ですよね。■組はもう終わりですよ。国元以外構成員がいませんからね。もうこの町では生きていけないでしょうし。力のないヤクザほど役に立たないものはありません」

「まともに働くこともできんしな」

「……他の組員は何を思って彼を生かしたんでしょうね」

「あの組も……終わり始めてたからな。高齢化の波はヤクザにも来てるし、半グレやら外国勢力やらでシノギも狭くなっていってる」

「■組もそうだったんですか?」

「あの組のことは知らんが……それに近い状況は起こってたんだろうな」

「年寄りばっかでしたもんねぇ」

 ビル街から離れて行くにつれ、周りを走る車がなっていく。

「あの記憶処理剤……多分、和泉洋平から手に入れたんでしょうね」

「それ以外ないからな」

「『オブジェクト』の一部が流出した可能性は可能性ってあると思いますか?」

「……気にする必要はないさ」

「なにか確信がでも?」

「『話せない』。探るのやめろよ」

「『それ』が原因で死にたくないんですよ」

「……その心配はいらない」

「それ自体が危険な『オブジェクト』ではないんですね」

 廿山はちらりと出灰の表情を見たあと、ため息をついた。

「ああ、それと疑問がひとつ」

 助手席からの視線も気にせず、出灰は続ける。

「大まかに把握している、と命令書にありました。……じゃあわざわざヤクザに勝ち込みする意味あります?」

「大まかに、だぞ」

「そう、その方法がわかんないんですよね。GPSとか、監視カメラか……どっちにしろもちょっと正確にわかりますよね」

「『話せない』」

「……もうそれで構いませんよ。考えをまとめるために口にだしてる節がありますし」

「だったら一人でブツブツ言ってろよ」

「それやったらうるさいって言うでしょうに」

「うるさい」

「ほら言った」

 バックミラーにも反対車線にも車の姿はなく、出灰達を乗せた車だけが雨に濡れた高速道路を走っている。目的地は■■県■■市、■■府と■■県の県境にある盆地だ。


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