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渇望  作者: ヘルム
1/6

【■■■.■■■■■■■.■■■■研究所】

【■■■.■■■■■■■.■■■■研究所】

【2023/■■/■■.■■:■■】


 その二人は窓一つ無い通路を進んでいく。どちらも白衣に身を包み、年若い研究員の手にはジュラルミンケースがしっかりと握られている。

「そんなに緊張しなくていいよ」

 壮年の研究員が優しく言った。

「……別にそんなつもりはありませんが……」

「それにしては瞬きの回数が多いね」

 その研究員は目を瞬かせた後、少し顔を赤くした。

「気づきませんでした。そんな癖があったとは……」

 二人は通路を進み続ける。明るく照らされた、機密性の高い通路には、外部の音も内部の音も通さない、二人の足音だけが反響する。

「そういえば、この中身って何なんです?」

 沈黙に耐えかねたためか、緊張を紛らわせるためか、若い研究員は

「知りたいかい?」

 壮年の研究員は目をのぞき込んで笑った。

「それはもちろん」

「だろうね。……だが言うことはできんよ。君も財団に所属しているなら……」

「……ヒッ!」

 突然、唯一の光源である照明が消えたのだ。当然、通路は自分の手も見えない程の暗闇になる。

「落ち着いて……。非常電源に切り替わるはずだ。しばらくここで待とうか、もし『それ』が傷ついてしまったら事だからね」

「は、はい」

 若い研究員は『それ』を一層強く握りしめた。

 その時だ。金属と金属がこすれあう、キィ―――ッという音が暗闇に響いた。甲高い不快な残響が耳に残る。

「誰か!! 誰かそこにいるのか!!」

 その声で、若い研究員は扉が開けられたことに気づき、そして扉を開けた人物がいることに思い至った。

 壮年の研究員の言葉に、答える者はいない。

「どッ、どうしますッ!?」

「声を上げるな……。誰かいるんだろう!?」

 銃の断続的な発火炎が二人を照らす。

 向けられた、今まさに火を吐き出す銃口。

 こちらを虫のように見つめる複数の暗視ゴーグル。

 ジュラルミンケースに当たり、弾かれる弾丸。

 白衣を突き破り、肩や下腹部を食い破っていく弾丸。

 ゆっくりとした時間の流れのなか、若い研究員はそれらを無感情に、鮮明に、認識した。

 倒れ伏した時に、ようやく痛みが襲ってきた。

 涙でにじむ視界のなか、側頭部から血を流す壮年の研究員が見えた。その奥には吹き飛ばされたジュラルミンケースが転がっている。

 若い研究員は、届くわけもない『それ』に手を伸ばした。

 ドクドクと、心臓が血液を押し出し、それが傷から流れ出す。

 発火炎が再び瞬いた。

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