【■■■.■■■■■■■.■■■■研究所】
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【2023/■■/■■.■■:■■】
その二人は窓一つ無い通路を進んでいく。どちらも白衣に身を包み、年若い研究員の手にはジュラルミンケースがしっかりと握られている。
「そんなに緊張しなくていいよ」
壮年の研究員が優しく言った。
「……別にそんなつもりはありませんが……」
「それにしては瞬きの回数が多いね」
その研究員は目を瞬かせた後、少し顔を赤くした。
「気づきませんでした。そんな癖があったとは……」
二人は通路を進み続ける。明るく照らされた、機密性の高い通路には、外部の音も内部の音も通さない、二人の足音だけが反響する。
「そういえば、この中身って何なんです?」
沈黙に耐えかねたためか、緊張を紛らわせるためか、若い研究員は
「知りたいかい?」
壮年の研究員は目をのぞき込んで笑った。
「それはもちろん」
「だろうね。……だが言うことはできんよ。君も財団に所属しているなら……」
「……ヒッ!」
突然、唯一の光源である照明が消えたのだ。当然、通路は自分の手も見えない程の暗闇になる。
「落ち着いて……。非常電源に切り替わるはずだ。しばらくここで待とうか、もし『それ』が傷ついてしまったら事だからね」
「は、はい」
若い研究員は『それ』を一層強く握りしめた。
その時だ。金属と金属がこすれあう、キィ―――ッという音が暗闇に響いた。甲高い不快な残響が耳に残る。
「誰か!! 誰かそこにいるのか!!」
その声で、若い研究員は扉が開けられたことに気づき、そして扉を開けた人物がいることに思い至った。
壮年の研究員の言葉に、答える者はいない。
「どッ、どうしますッ!?」
「声を上げるな……。誰かいるんだろう!?」
銃の断続的な発火炎が二人を照らす。
向けられた、今まさに火を吐き出す銃口。
こちらを虫のように見つめる複数の暗視ゴーグル。
ジュラルミンケースに当たり、弾かれる弾丸。
白衣を突き破り、肩や下腹部を食い破っていく弾丸。
ゆっくりとした時間の流れのなか、若い研究員はそれらを無感情に、鮮明に、認識した。
倒れ伏した時に、ようやく痛みが襲ってきた。
涙でにじむ視界のなか、側頭部から血を流す壮年の研究員が見えた。その奥には吹き飛ばされたジュラルミンケースが転がっている。
若い研究員は、届くわけもない『それ』に手を伸ばした。
ドクドクと、心臓が血液を押し出し、それが傷から流れ出す。
発火炎が再び瞬いた。