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アデーレの場合 2

 アニスが三歳になった頃、私はとうとう我慢ができず夫に訴えた。もっとお金を使わせて欲しい、遊びたい、王都に行きたい、と。


 すると夫は言ったのだ。


「お金は出さないが遊べばいい。お前は男に貢がせるのが得意なのだろう? 結婚前のことは知っている。あの頃のように適当に遊んで貢がせればいいじゃないか」


 夫は私への興味などとっくに失っていた。もしかしたら最初から無かったのかもしれない。とにかく、問題を起こさなければ恋人でも愛人でも作っていい。自分の懐が痛まなければそれでいいと。


 あっけないほどあっさりした回答に私は驚いたが、ならばもっと早くに言ってくれればいいのにと夫を恨みもした。


 これまでも多少遊んではいたものの、夫への配慮もあり大っぴらにはしていなかった。しかしそれが必要ないというのであれば遠慮などしない。


 私は多少衰えたとはいえまだまだ健在の美貌を武器に、かつてのような複数の恋人を得た。王都より劣りはするがドレスや宝石を手に入れ、近場の領地へ旅行したりと楽しい時間を恋人達と遊んで過ごすようになった。


 やがてアニスが十歳になる頃、私は一人の男性と出会った。


 彼の名はラルフ。夫ドレイクの歳の離れた弟だった。母親が違うらしく、線が細いところは似ているが彼の方が女性受けしそうな甘い顔立ちをしていた。


 最近まで王都にいたという彼の恰好や所作は田舎領地では非常に目立ち、彼自身の魅力もあってすぐに注目の的となった。今の恋人達に飽き始めていた私も彼に興味を持ち、彼も私の美しさを称賛した。


 私達はすぐに親しくなり、恋人同士の時間を楽しんだ。彼は未婚だったので若い女性に人気だったが、それを放って私の元へ来てくれる優越感は何にも代えがたいものだった。


 やがてラルフは自分の身の上やこれまでのことを少しづつ私に話してくれた。そして、「兄の妻であるあなたに言うべきことではないけれど」と前置きして夫との過去を語ってくれたのだ。


 ラルフは後妻の子で、父親であるシモン子爵との関係は非常に良かった。子爵は彼をとても可愛がり、いずれは子爵家を兄のドレイクではなくラルフに継がせると常々言っていたそうだ。


 ところが、そのシモン子爵が急死した。医者の見立てでは心臓の病ということだった。


 慌ただしく葬儀が行われ、成人したばかりの兄ドレイクが子爵を継いだ。しかもドレイクはラルフを邪魔者扱いして家から追い出したのだという。


 その後、成人したラルフは兄ドレイクの元を訪れ、父が後継者としていたのは自分だと主張したが鼻で笑われたそうだ。


 父の死についても疑問を持って調べていたが、最近になってある薬の存在を知ったという。それは白い粉末で無味無臭。遅行性の毒で、飲んでから数時間後に心臓の動きを止めるという恐ろしいものだった。


 これは父の死因にぴったりと一致する。間違いない、兄はこの毒を使って父を殺害したのだと彼は確信した。


 しかし、証拠は何もない。どうすることもできないのだとラルフは言う。


 私は夫がそんな恐ろしい人だったことに恐怖した。もしかしたら秘密を知った私も殺されてしまうかもしれない。


 震える私を彼は抱きしめ「大丈夫、私がいます。私があなたを守ります」と誓ってくれた。私達の愛は恐ろしい敵を前に一層確かなものになっていった。


 私は夫が怖かったので家に帰らないことが多くなり、また家に居ても夫と顔を合わせなくて済むように行動した。


 それからしばらくして、ラルフは私の手を取ってこう言った。


「これ以上、あなたを危険な兄の元に置きたくない。どうか私達の未来のために、力を貸してはくれませんか」


 私はもちろん彼に協力した。


 彼はあの「白い粉」を手に入れたのだ。私はそれを預かり、夫の水差しに入れた。

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