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アデーレの場合 1

 私の名はアデーレ。

 しがない男爵家の長女だ。


 父は城勤めの文官だが、特に秀でた能力がある訳でもなく出世の見込みもない。ただひたすら真面目に仕事を続けているだけのつまらない人だ。


 母も同じく男爵家の出身で、こちらも至って普通の地味な女。夫を支え、家庭を守ることが妻の役割なのだと本気で思っているような人だ。


 私には兄と妹がいて、家は兄が継ぐことが決まっている。だから両親は私の嫁ぎ先を探していたが、どうせあの人達の人脈では同じ男爵か良くて子爵、下手をしたら商家などの平民もありえるだろう。本当に嫌になる。


 家は貧乏という程ではないが、父の収入と頼りない資産で成り立ってる。その為、日々の生活はとても慎ましいものだった。


 私はそんな地味な生活が我慢ならず、こんな貴族の底辺にいたくないと常々思っていた。そう、私は高位貴族と結婚して、贅沢に楽しく暮らしたいのだ。


 幸い私は美しかった。母に似ず、はっきりとした顔立ちながらも少し下がり気味のまなじりが表情を柔和に見せ、世間ではたおやかな美人だと評判なのだ。


 年頃になり、パーティーへの出席が増えると私の周りには男性が群がった。誰も彼もが私の美しさを誉め、私の気を引きたがった。私はただ優しく微笑めばそれで良かったのだ。


 私は注意深く相手を見定め、結婚相手の候補を探した。残念なことに、寄ってくる男は低位貴族が多く、高位貴族であっても婚約者持ちであったり次男や三男といった爵位が望めない者ばかり。


 遊び相手として適当に付き合い貢がせたりはするものの、なかなか本命と言える相手を見つけられないことに私は苛立った。


 そんな時に出会ったのがデニス・メルドークだ。


 彼とはあるパーティーで知り合った。お互いの目が合い、私がいつも通り優しく微笑むと、彼はたちまち私の虜になった。


 彼は私の美しさを褒め称え、私のすべてが彼の理想なのだと熱く語られた。私はここまで熱烈なアプローチを受けたことはなく、悪い気はしなかった。


 しかも彼はあの有名な侯爵家、メルドークの人間だという。私でもその名前を知る有力貴族だ。私は遂に理想の相手を見つけたと思い浮かれてしまった。


 しかしそれが勘違いだと知ったのはそのすぐ後だった。なんと彼は既婚者で、しかも入り婿だった。


 なんということだろう。私の失望は大きかったが、彼は金回りも良かったのでその後もしばらく関係は続いた。


 しかし、それからしばらくして私は両親から結婚相手が決まったと告げられたのだ。


 どうやら私の遊び相手の婚約者の女性から抗議があったらしい。私が他家の婚約者のいる男性をたぶらかしている、と。両親はしきりに私の行動を非難した。


 私にはデニスをはじめ複数の恋人がいたが、真面目な両親は私の現状を知り慌てふためいた。抗議のあった家には謝罪し、これ以上問題を起こす前にとすぐに私を結婚させることにしたらしい。


 なんて迷惑なことをしてくれたのだろう。


 私の結婚相手は元城務めの文官でドレイク・シモン。

 父とさほど変わらない歳の男だった。


 しかし父と違ってそこそこ出世したらしく、退職金もしっかりもらって早々に退官し、これから領地に戻るという。


 結婚はこれまで一度もしていなかったが、領地へ戻るのを機に嫁をもらおうという気になり、同僚から父が私の結婚相手を探しているという話を聞きつけてこの結婚が決まったそうだ。


 私は逃げることも出来ずに田舎へと嫁がされ、書類にサインをしただけで結婚は成立してしまった。結婚式なんてものはない。夫が言うにはそんなものは無駄らしい。


 夫はお金は持っていたがケチだった。必要以上に生活にお金をかけることをしない。私は非常に不満だったが、どうすることも出来なかった。唯一良かったのは夫がハゲで腹の出た好色ジジイではなかったことくらいだろう。


 やがて私達の間には女の子が生まれ、名前をアニスと名付けた。髪色や瞳の色は夫に似たが、顔立ちは私に似たため将来は安心だろう。夫も子供には甘く可愛がってくれた。


 夫は退官後も仕事を続けていた。詳しくは知らされなかったが、領地経営以外にどうやら貴族相手にお金を貸しているようだった。また時折王都からも来客があったが、こちらは何をしているのか聞いても教えてくれなかった。


 夫は通常は妻が仕切るはずの内向きの屋敷のことでさえ私にさせようとはせず、私が何をすることも求めなかった。娘のアニスも乳母に任せきりだったので特にすることもなく、私は暇だった。


 田舎で開かれるパーティーはつまらないものばかり。だからといってシモン家主催で茶会やパーティーを開きたくても夫は予算をくれない。


 そして何よりドレスも宝石も自由に買えないことが我慢ならなかった。私はこんなはずではなかったという思いを常に抱えてストレスを貯めていった。


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