表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

デニスの場合 2

 彼女の名前はアデーレ。

 男爵家の令嬢だった。


 彼女と出会った瞬間の衝撃は忘れない。私の理想を体現したような容姿、しぐさ、言葉、彼女のすべてに私は惹かれた。


 彼女も私に好意を寄せてくれ、私達はすぐにお互いを想い合う仲となった。


 私が独身だったら、すぐにでも結婚を申し込んだことだろう。しかし、私には妻が居た。


 アデーレには不自由な思いをさせてしまったが、私は彼女が居てくれるだけで幸せだった。


 けれど、運命の出会いだと思ったのも束の間、彼女は私の元から突然去っていってしまった。


 王都で彼女を見かけることはなくなり、噂では子爵家との婚姻が決まって随分と田舎の領地に嫁いでいったと聞いた。


 私は深い喪失感と悲しみに襲われたが、どうすることも出来なかった。


 そして私が悲しみに沈んでいる中、リリスが懐妊したという知らせを受けた。


 私は義務を果たしたという安堵感だけで、それ以上の感慨は持たなかった。


 その後も私は特に何をするでもなく、リリスとの関係も変わらないまま時は過ぎていき、やがてリリスは娘を出産した。


 リゼリアと名付けられた娘は、髪も瞳もリリスの色を受け継ぎ、私の要素はどこにも見当たらなかった。もちろん愛情など湧くはずもない。


 私は二人とは極力関わりを持たずに生活した。公式行事や同伴が必要なパーティーなど、リリスの最低限のパートナー役は務めたが、それ以外にあまり顔を合わすことはなかったし、リゼリアに会うこともなかった。


 私達は家族という言葉からは程遠い関係だった。


 それからいくらかの時間が経った。


 私はとあるパーティーでアデーレと再会した。アデーレは未亡人となっていた。


 なんでも、結婚相手は親子ほども年が離れていたそうで、その夫が病で亡くなり、最近になって王都に戻ってきたという話だった。


 アデーレはあの時と変わらず美しかった。私達は再会を喜び、二人の想いも再燃した。


 私はリリスとの間に愛情を見いだせなかったが、アデーレへの愛情は確かなものだと感じたし、彼女も私を愛していると言ってくれた。


 そして、彼女は驚くべきことを打ち明けてくれたのだ。


 彼女には娘がおり、なんとそれは私との子だと言うのだ。


 私と別れた時、お腹に子供が居たが彼女自身はまったく気づかなかったらしい。その後すぐに結婚することになり、その時になってようやく自分の体の異変に気付いたが相手には言い出せず、そのまま結婚し出産したそうだ。


 幸いにも結婚相手も私に近い髪色や瞳の色だったため、怪しまれることはなかったのだという。


 なんということだろう。私とアデーレに子供がいたとは。


 それからすぐに私達は親子の対面を果たした。アデーレの言う通り、私の髪色、瞳をした娘は名をアニスと言い、私を見ると「お父様!」と言って嬉しそうにほほ笑んだ。


 私はアニスを抱きしめ、初めて子供に対する愛おしさというものを感じた。リゼリアには抱かなかった感情だった。


 私はアデーレとアニスの為に家を用意した。メルドーク家の所有ではあったが、どうせ使うものもいないのだし構わないだろうと二人を住まわせ、私は彼女達のもとに通った。


 私はアデーレやアニスと過ごす時だけが心穏やかにいられる時間だった。


 私にはメルドーク家から毎月使える予算があったため、二人にそれなりに好きなことをさせてやることができた。金には不自由しなかったので、この点はリリスと結婚して良かったことだろう。


 貴族社会で離婚は醜聞だ。めったなことではしない。お互い割り切って恋人なり愛人なりを作ることはめずらしくもないことだったが、もちろん表向きには不貞行為は法律で罰せられるため、これは暗黙の了解とされている。


 リリスは家の体面を考えるだろうから離婚なんて真似はするはずもない。私は義務も果たしてメルドーク家には立派な後継者まで生まれたのだから何も文句はないだろう。


 私はそれからも長い時間をアデーレと過ごし、屋敷へ戻ることは少なくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ