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デニスの場合 1

 私の名はデニス・メルドーク。


 先日、妻のリリスが倒れた。


 しばらく領地で療養するというのでここしばらく顔を見ていない。まあ、以前から顔を合わすことも少なかったので何も変わらないが。


 侯爵の地位は今も妻にあるが、仕事ができる状態ではない為、今は娘のリゼリアが執務にあたっている。妻と同様、女のくせに可愛げのない娘だ。


 まあ、色々と非常に気に食わない。そもそもは私が侯爵になるはずだったのだ。


 私はメルドーク家ほど領地が広くはないが、由緒ある侯爵家の長子として生まれた。下に弟はいたが、いずれは私が家を継ぐことになっていた。


 しかし、もともとあまり勉学が得意ではないこともあって、父について領地経営を学んでいたが仕事には積極的になれずにいた。


 父は私のそんな様子に家の行く末を案じたのだろう。私の結婚相手に対して「共に領地経営が出来る者」という条件をつけた。私の不足を妻で補おうと考えたのだ。


 しかし、領地経営ができる女性などそうそういるものではない。元から爵位継承が決まっているのならともかく、嫁ぐだけならそんな勉強などしない。


 爵位が下がればなおさらだ。私の知る女性達だって領地経営など無縁なものばかりで興味を持つものなどいなかった。


 私は良い関係になった女性は何人もいたものの、この条件を知ると皆逃げていった。おかげで一向に婚約者ができないという腹立たしい状況が続いた。


 しかし、ある時才媛と名高いリリス・メルドークの噂を耳にした父はすぐさまメルドーク家に自ら出向き、粘り強い交渉を続け、ついに私との縁談をまとめてきてしまったのだ。


 リリスならば山のような縁談話があっただろうに、よくメルドーク家が了承したものだと思う。


 父がどのような話をしたかは分からないが、ともかく私はリリスと婚約し、結婚後は共に領地を盛り立てていくはず、だった。


 私とリリスが婚約してから1年後、リリスの兄が事故死したのだ。領地の視察中に起きた落盤事故に巻き込まれたとのことだった。


 後継者の突然の死にメルドーク家では大変な騒ぎとなったらしい。リリスの兄にはまだ子供はおらず、直系嫡出子はリリスのみ。


 リリスの両親は数年前の流行り病で既に亡くなっており、リリスの兄が爵位を継いだばかりだった。


 リリスは婚約中とはいえ嫁ぐ前であったから、幾度とない両家の話し合いが行われ、メルドーク家親族の強い意向もあって、結果、リリスがメルドーク家を継ぐことが決まった。


 ここで私との婚約が解消となるかと思いきや、婚約は継続された。私は婿に入ることとなり、我が家は弟が継ぐこととなったのである。


 私は突然の事態に唖然とした。これまで当たり前だと思っていた自分の爵位継承がなくなったのだ。こんなことがあるだろうか。


 しかし、私の意志とは関係なく話は進み、やがて私はリリスと結婚してメルドーク家に入ることとなった。


 私は納得がいかなかったが、誰も私の言葉など聞くものはいなかった。


 リリスの美しさは社交界でも有名で、婚約が決まった際は友人達にとても羨ましがられたものだった。


 しかし、周囲からの羨望は気分の良いものだったが、正直なところリリスは私の好みではなかった。


 リリスは確かに美しかったが、その表情は非常に冷たく、人を寄せ付けないような固い雰囲気を持っていた。私にはそれがどうにも好きにはなれず、受け入れ難く思っていた。

 

 そう、私はもっと女性らしい、柔らかくたおやかな女性が好きだった。


 リリスは仕事ができた。メルドーク家領主の仕事量はすさまじく、初めの数か月は私も手伝おうと努力はした。


 しかし、私が今まで扱っていたものとは何もかも勝手が違い、私には何もすることが出来なかった。


 そもそも規模が違うのだ。メルドーク家の領地の広さも事業規模も、私の居た領地とは比べ物にならないほど大きかった。


 さらに事業の取引相手というのが国外にも及んでいて書類は外国語のもの多く、私は読むことすらできなかった。


 私は努力はしたのだ。しかし、努力しても出来ないものは出来ない。私は早々にあきらめることにした。


 幸い、リリスには先々代からの仕事の補佐役という人物も付いていたし、私が多少何かしたところで足しにもならないだろう。ならば邪魔をせずにいた方が良いというものだ。


 急な爵位継承だったこともあり、引継ぎや挨拶などリリスは常に仕事に追われ、同じ屋敷内にいても私とはすれ違いの生活が続いた。


 私は夫としての義務だけは果たしたが、リリスに対して特別何の情も生まれることはなかった。


 そんな時、あるパーティーで私は一人の女性と出会った。

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