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フレデリクの場合 2

 私を出迎えたのはアニスという少女だった。


 彼女は満面の笑顔で私を迎え、自分はリゼリアの妹だと名乗った。


 リゼリアがまっすぐでさらさらな髪質に母譲りの髪色と瞳をしているのに対し、アニスはゆるいウェーブの髪に父親似の髪色と瞳をしていた。


 リゼリアに妹がいたことは初耳だったし、最初は突然のことに驚いた。しかし、アニスは姉と違って非常に明るく表情もとても愛らしかった。


 私達は話がはずみ、二人でしばらく話をした。この屋敷に来てこんなに楽しかったのは久しぶりだった。


 あまりに楽しくてここへ来た目的をすっかり忘れていたが、私はリゼリアのことを思い出した。


 気は進まなかったが婚約者の義務だ。私はアニスにリゼリアに会わなくてはいけないと言うと、彼女はとたんに不機嫌になった。


 そして「お姉様はここにはいらっしゃらないわ」と言う。どうやら侯爵のいる領地へ戻っているらしいのだ。


 婚約者の私に一言くらいあっても良さそうなものをとリゼリアの薄情さに腹が立った。訪問の伺いを立てなかったとはいえ、わざわざ会いに来た私に失礼ではないか。


 リゼリアに会うという目的が果たせなかった私に、アニスはもっと自分と話そう、一緒にお茶をしましょうと誘ってきた。その方がきっと楽しいと言う。


 確かにその通りだと思い、私とアニスはそのまま長い時間話し込んだ。


 アニスは明るく、私の話を驚いたり感心したりと非常に興味をもって聞いてくれた。リゼリアからは到底得られない反応だった。


 私はとても気分よく話ができとても満足だったし、アニスは私の話がもっと聞きたいと言った。


 私はアニスに会うためにメルドーク家を訪れるようになり、アニスが屋敷を離れた後も度々二人で会って話をするようになった。アニスはリゼリアに嫌われているので一緒に住んでいないらしい。なんて可哀そうなことだろう。


 アニスは貴族令嬢とは思えないほど喜怒哀楽がはっきりしていた。貴族社会ではあまり褒められたものではないことは分かっていたが、あのリゼリアのようなすまし顔より何百倍も魅力的だと私は思った。


 アニスにせがまれて流行りのカフェやレストランへ行ったり、買い物や観劇など様々な場所へ出掛けたりもした。リゼリアとは一度もなかったことだが、彼女は興味を持たなかったのだから仕方がない。


 こうして私とアニスはお互いの距離を縮め、次第に惹かれあっていったのは自然の成り行きだったと思う。リゼリアへの後ろめたさはもちろんあったが、私は真実の愛に出会ってしまったのだ。


 私達は将来を誓い合ったが、私が婚約中であるという障害があった。アニスは「お父様なら私のお願いは何でも叶えてくださるわ」と何も心配する必要はないと言った。


 それからしばらくして「お父様が私達の結婚を約束してくれた」とアニスが言った。「お姉様と私が代わるだけだもの。何も問題はない」と。私達は二人で手を取り合って喜んだ。


 しかし、それからいくら待っても私とリゼリアの婚約が解消されることはなく、アニスとの婚約の話も進展しなかった。なのですぐにでも私と婚約できると思っていたアニスのいら立ちはとても大きかった。


 彼女をなだめるのはとても大変だったし、その後も私達の婚約は進む気配がなかったので「きっとお姉様がわがままを言ってお父様を困らせているんだわ」とアニスの怒りは更に増していった。


 いい加減アニスをなだめるのに疲れていた私だったが、リゼリアが私との婚約解消をそんなに嫌がっているのかと思うと少しだけ気分が良くなった。


 ある時、アニスのご機嫌をとる為に王都で話題の舞台を見に行った。アニスは夢中になり、その後も乞われて何度も同じ演目を見に行くことになった。


 そして幾度目かの観劇後、アニスはとても興奮した様子で「いいことを思いついた」と言い出したのだ。


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