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ジルバートの場合 1

「それで、結局その女は見つかったのか?」


 報告書に目を通しながら私に聞いてきたのは王太子のミシェル殿下だ。


 私はここしばらく、ある事件の調査を命じられて奔走していた。


 まだまだ面倒な仕事が山積みだが、今日は王太子殿下へこれまでの調査報告を行っている。


 もちろん報告書は都度提出していたのだが、直接話が聞きたいというご要望があったのだ。面倒だが仕方がない。


 今回の事件は本当に前例のないものだった。

 まず、発端は貴族の出生・死亡を管理する部署からの報告だった。


 内容は「最近、突然死の届が異様に増加している」というもの。


 気付いたのは下級官吏の一人だったが、気のせいなどでは済まさずに上司へ報告した。

 これは近年の意識改革と教育の成果と言えるだろう。仕事は増えるが喜ばしいとである。


 一つ一つは特に不審な点のない自然死として届けられていたが、年齢と件数を集計すると確かに異様といえる数字となっていた。上司もこの異常事態を認め、さらに上へ報告することにした。


 城の諜報部は速やかに動き、医師の協力と綿密な調査を行った結果、病死とみられていた死因の数件が、薬物によるものではないかという可能性が浮上した。由々しき事態である。


 さて、王家には医師のほかに専属の薬師がいる。その優秀な薬師を輩出する古い一族がいるのだが、この一族には王家にのみ使用される秘薬の製法が代々受け継がれているという。


 今回の死亡理由や死亡後のある特徴などから薬師へも問い合わせをしたところ、王家の秘薬を使用した時の症状に酷似しているということが判明した。


 もちろん薬師は王家へ報告して指示を仰いだ上での報告だった。本来であれば秘匿されるべきことではあるが、王家では事を重大であると判断し、ただちに解明と解決を命じたのである。


 そして王家の秘薬が絡むことから王太子であるミシェル殿下が指揮を執ることとなり、側近である私が現場責任者のような立場に立つことになった。まったく面倒なことだ。


 私ことジルバート・ココットは、これでもそれなりに由緒ある侯爵家の次男である。ミシェル殿下とは幼い時から友人として育ち、現在は側近として城勤めをしている。


 私としては、もっとのんびりとした役職や仕事がよいのだが、王太子付きではそうもいかず、人使いの荒いミシェル殿下にこき使われて現在に至っている。


 さて、少々脱線したが、事件の話に戻ろう。


 王家の秘薬にも種類があるそうなのだが、その中の一つが「眠れる秘薬」だ。無味無臭の白い粉末で、服薬するとその数時間後に眠りと共に静かに心臓が止まるというものだ。


 使用されるのは王族が不治の病にかかった場合や罪を犯した場合など様々だが、使用頻度は少ないものの、苦しまずに死ねるという点で長く使用されてきた薬であるという。


 もしこの薬が外部に漏れたら、暗殺なんてし放題ではないだろうか。恐ろしい話だ。


 この薬を知るのは王族と一部の上層部、あとは薬を調合する薬師一族のみだ。もちろん、これまで一般には出回ることも類似の薬も存在していない、はずだ。


 薬の流出で一番に疑われたのはもちろん薬師一族だった。秘薬の調合ができる者は限られ、すぐにそのうちの一人が行方不明になっていることが分かった。


 どうやらその人物は薬学に関しては非常に優秀であったが、賭け事に興じて多額の借金があることが判明した。さらに、評判の悪い、けれど最近どうにも羽振りが良いと噂の中級貴族との関連も浮上した。


 諜報部の調査の結果から、薬師がこの中級貴族に囚われていることは間違いなく、証拠を固めての家宅捜索が決行された。


 薬師は無事に保護され、関係者の捕縛や売却先リストの押収もされている。


 薬師は聴取で借金の為に薬の調合をしたものの怖くなって逃げようとしたところ、薬の有用性が証明されて逃してもらえず監禁されたと語っていた。


 自分のしでかした事に今更ながらに震えあがっているが、まあ、彼の将来がもうないことは確実だろう。


 薬の材料が希少な為、大量生産とはいかなかったことや調合された薬の管理がしっかりされていたことは幸いだったというべきだろうか。また、犯罪組織ではなく貴族個人を相手にしていたことも。


 リストの購入者については厳しい取り調べが行われている。が、これがなかなか厄介だった。


 自然死に見せかけることができると言っても、自分で直接手を下そうという者は少ない。


 まず薬の購入に偽名を使ったり代理人をたてたりと表立って行動はしない為、首謀者に辿り着くことが非常に難しかった。


 さらに薬の混入も別の者に実行させたり、巧みに誘導して毒とは知らされずに殺人を犯した者もいたし、実行犯を特定することも難航した。


 薬の有用性を知って一時の金に調子に乗って広めなければ、一生知られることもなく、ただの突然死で終わっていたかもしれないと考えると薬師を監禁して薬を売りさばいた貴族が莫迦で良かったと言うべきなのだろうか。


 こんな薬の存在が広まれば世間はパニックになるだろう。恐ろしくて何も口にできなくなってしまう。この事件は迅速に処理されなくてはならなかった。

お読み頂き本当にありがとうございます。設定等ゆるっゆるなので、あまりつっこまずに温かい目で見ていただければと思います。あと少しでさらっと終わる予定です。

評価・ブックマークありがとうございます。大変励みになっております。嬉しいです。

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