表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

アニスの場合 1

 私のお母様は美しい人だ。私は小さい頃からお母様に似ていると言われてきた。きっと美人になるだろう、と。だけど私は可愛いと言われる方が嬉しい。


 可愛いと皆が優しいのだ。美味しいお菓子をくれるし、お願いをすればなんでも聞いてくれる。お父様だってお母様より私を大切にしてくれる。


 お父様とお母様は仲が悪い。あまり一緒に居る所を見ないし、話もしない。お父様もきっと美人より可愛い方が好きなのだと思う。


 お母様はお父様が何のお仕事をしているか知らないと言っていた。だけど私はちゃんと知っている。お父様が内緒だよと言って私にだけ教えてくれたのだ。


 お父様のお仕事は領地経営とお金に困っている人へお金を貸してあげること。貸してあげるには沢山お金を持っていなきゃいけない。お父様はとってもお金持ちなの。


 あともう一つはお城の書類を直すお仕事。


 お父様は前にお城で働いていたんですって。お城って王様のいる所よ。お父様はすごいの。で、その時していたお仕事の続きをこっちでもしているんですって。


 だからたまに王都からお客さんが来たりする。お仕事の仲間だったり、お仕事を依頼してくるお客さんだったり。色々お仕事をしているから、お父様はとっても忙しいの。


 でも、ある日お父様は死んでしまった。


 病気だったって聞いたけど、違うって私は知っている。お父様が亡くなる前の日、お母様が久しぶりに帰ってきたんだけど、その時お母様がお父様の寝室にこっそり入っていくのを見たの。


 それにね、聞いてしまったの。お母様とお父様の弟のラルフっていう人の話。お母様があの人に騙されてお父様に白い粉の毒を飲ませたって。


 私、あのラルフっていう人大嫌い。だって私にすごく冷たいのよ。いつもにらんでくるし。それなのにお母様はあの人と仲良くしていてとっても嫌だった。


 私がお母様達の話を聞いてしまった日、お母様は私を連れて家を出た。


「あの人に騙された。ここに居たら殺されてしまう。逃げなくては」って。本当に莫迦みたい。


 結局お母様の実家のある王都に行ったけど、あんまり歓迎されていなかった。初めて会ったのにお爺様もお婆様も伯父様達だってみんな冷たいのよ。ひどいと思わない?


 しかも家は古いし使用人もほとんどいない。食事だってひどいものだったわ。


 私はこんな所に居たくないって言ったけど、お金がないから駄目だってお母様に言われたの。お父様だったらすぐに私を助けてくれるのに。本当に使えないお母様。


 だけどそれからしばらくして、ここから出られるかもしれないってお母様に言われた。その為にはこれから会う人をお父様って呼ばなきゃいけないって。


「お父様って何人もいるの?」って聞いたら、「これから会うのはあなたの本当のお父様よ」ってお母様は言った。


 よく分からなかったけど、私は言われた通りにしたわ。だってあの家にはもう居たくないもの。


 初めて会った男の人は、前のお父様よりずっと若くて少しだけ恰好良いと思った。私を見てすごく喜んでいたし、私のことを可愛い可愛いって何度も言ってくれた。だから私はこの人のことがすぐに好きになったの。


 それから私達は新しい家に引っ越した。少し小さいけど素敵なお屋敷だったし、使用人も何人もいる。お父様はドレスや宝石やお菓子をたくさん買ってくれてお母様も私もとっても幸せだった。


 お父様の話によると、私にはお姉様がいるらしい。私は会ってみたいと言ったけど、それは難しいって会わせてもらえなかった。


 どうしてって聞いてもなかなか教えてもらえなかったけど、色んな人に聞いて分かったのは、お母様がお父様の正式な奥様じゃないかららしい。


 お父様には奥様が別にいて、お母様は愛人って言うんだって。私やお母様は外聞が悪いから表に出てはいけないって。そっれてひどくない?


 しかもお父様の奥様は侯爵様で、とっても身分が高い人。お姉様はその後継ぎで次期侯爵だから、そのお勉強とかですごく大変らしいの。


 私はお勉強はあまり好きじゃないけど、家庭教師の先生にはいつも褒められているわ。お姉様はきっとお勉強が得意ではないから大変なのね。お可哀そう。


 お父様はね、あまり奥様とお姉様のことが好きではないみたい。家同士の政略結婚だから奥様に愛情はないし、奥様似のお姉様も好きになれないんですって。


 好きでもない人と一緒に居るなんて苦痛よね。


 私は結局、その後もずっとお姉様に会うことはできなかった。


 だけどね、だいぶ後になってだけど偶然見かけたことはあるのよ。王都中の貴族が参加している式典で、噂をしているご婦人達がいたの。


「あら、メルドーク家のリゼリア様よ。お見かけするのはめずらしいわね」って。


 その人達の視線の先にはお姉様が居たわ。初めてみたお姉様は、何というかすごく冷たそうな印象の人だった。だって全然笑わないのよ。可愛くないわ。


 だけど、隣にいる男の人はとっても恰好が良かった。背も高いしすごく優しそう。


 どうやらその人はお姉様の婚約者らしくて、私は婚約者がいるなんてお姉様ずるいって思ったの。私も素敵な婚約者が欲しいってすぐにお父様にお願いしたわ。


 お父様は「探してみよう」って約束してくれた。


 それからしばらくして、侯爵様が病気になったっていう噂が流れたの。お父様に聞いたら本当だって。


 なんでも一時は命も危うかったんだけど助かって、今度療養のために領地に戻るってお話だったわ。


 お可哀そうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ