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第一話 告白スパイラル

澄玲なりにすみれという存在についてここ一週間調査した。


まず、すみれは、桜とお隣さんだった。そして、幼馴染らしい。また、すみれには兄がいて二つ上で優斗(ゆうとというらしい。姿は、この一週間の間で数回しか見ていない。


優斗は野球部の部長で朝練や放課後の練習に精を出しているらしく、そんなこともあって生活リズムが合わないらしい。



この世界の今は、澄玲がここに来る前のような猛暑が振るう夏ではないようだ。



夏服のかけてある壁のほうを見てみると、カレンダーには律義に終わった日が赤で消されている。その線が止まっている日を見ると6月のちょうど日曜日。その日に、澄玲がこの世界に来たのは明確だった。そこからまた、今日までの日にちまでカレンダーを赤で消していく。こちらの世界に来てから一週間たったが、あまり事態は進展してないみたいだ。澄玲は、そのことをまだ使っていない日記帳に書き写して整理した。



ゴンゴンと強くすみれの部屋をたたく音がした。澄玲は、返事すると日記帳を即座に引き出しにしまった。


「あ、ごめん。なんか、お取込み中だったか?」



頭を少し掻きながら入ってきたのは、すみれの兄の優斗だった。優斗は少し居心地悪そうに部屋の隅に立っていた。


「大丈夫だけど……何?」


「そのさ、こないだ頼んでた……あれ、どうなったか聞きに来ただけ……」

(頼んでた?あれ?って、なんだろう?当番?いや、この家ではそんなことなかったし学年も高校一年と高校三年じゃ何も接点ないよね?)



「あーなんだっけ?」

澄玲は、少し注意深く顔色を見ながらすっとぼけた。だが、優斗の顔は赤くなるばかりで首筋に手をまわして顔を背けている。



「その、さ。こないだ言っただろ。告白されたって」




「うん。うん?へっ?今なんて……」



「だから!桜に……」

澄玲には、一拍遅れて衝撃が全身に走った。告白されたところまではよかったが、予想もしない名前に鳥肌が立った。



「はあ?」


その声は上ずりまた、家全体を包み込むほどの大声だった。



「おまっ」

静かに、とすぐさま口を押えられ、澄玲は息苦しさに手をじたばたさせた。



「あ、ごめん」


申し訳なさそうに手を澄玲の口から手を離した。

「いや、私こそごめん」



「今日は、素直なんだな」

何よ。と言って私は膨れて見せた。


が、この状態がいつものことらしい。澄玲の表情も態度も入れ替わる前のすみれそのもので合っているみたいだ。今のところ優斗にも指摘されていない。もちろん、最初のころは桜にだけ不審がられたが、風邪をひいていてテンションがおかしかった。と、苦しい言い訳ではあるが、あまり詮索もされずに一週間の学校を乗り切った。


そんなことを片隅で冷静に澄玲は観察していたが、そのことに至っては考えが思うように巡らせないでいた。


「それで、どうするの?兄貴は?」

(兄貴、呼びで合ってたか?)少し肝を冷やしながら澄玲は言った。


「いや、どうするも……お前がアドバイスするから回答は待ってくれって言ったじゃないか。覚えてないのか?」



「いや?そう、だっけ?」

(私の答えで付き合うも付き合わないも決まるのか?鈴木すみれ!なにしてくれとんじゃ!)



澄玲は心でつぶやきながらどうするか頭をフル回転させていた。このまま、何も言わなかったら二人は付き合わないかもしれない。けれど、そんなことはできない。性に合わない。



でも、澄玲は、未来を知っていて、桜と彰が付き合わなきゃいけないのは重々承知だ。



「なら、兄貴の思うままにすればいいじゃん」

そう、思考を巡らしている途中に出てしまった。澄玲は、はっとして、必死で口を押えたがもう間に合わなかった。


「それもそうか、こんな話してすまん」



「あ、いや、そうじゃなくて……いや、なんでもない」

澄玲は、一度言いかけたことをやめた。これはあの時と一緒かもしれない。澄玲はいろいろ考えながらうつむいていた。



はっとしたときには、もう優斗は部屋から出ていた。


多分、このまま付き合わなかったら多分大丈夫。そう思う心と嫌な予感が当たって二人が付き合ったら……そう考えるだけで自分は地雷を踏んでしまったと思い一人反省会が頭の中でぐるぐる回っていた。


大丈夫、大丈夫。


そう、何度も澄玲は繰り返し心の中でつぶやいた。桜が澄玲の小さいときに教えてくれたおまじないだ。そこには、かすかに母のにおいがした気がした。


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