プロローグ
耳の奥まで響く大音量の目覚まし時計は、じりじりと自分の耳を破壊する。
しょうがなく、生温かい布団から手を伸ばし探り当てるとスイッチを切り、勢いよくベッドに座る。
一度、いい眠気覚ましになるだろうと思って立ち上がったが、これでは立ち眩みが起こって一瞬だが気分が悪くなるうえに目の前が真っ暗になってしまう。
典型的な貧血になるため、しょうがなく一回座ってから立つようにすると気分もよく、早起きした朝のように清々しいのだ。それから、カーテンに手を伸ばして、勢いよくカーテンを開けるとさっきまで漏れていた光の何倍もの光が体を包み、より晴れやかな気分にさせる。
立ったついでに壁にかけてある夏服の制服に手を伸ばした。去年から制服が変わり、セーラ服と学ランから、男女ともスカートズボンを除けばブラウスやジャケットは同じになった。
この制服が、この後三十数年着られるなんて生徒たちの大半は考えてもないし、そんなことすら考えている人なんていないのだろう。
だが事実、私もまったくデザインの変わらない制服に10年前袖を通したのだ。鏡の前で身なりを整え、髪の毛を軽く後ろに縛ってニコッと鏡越しに笑いかける。
その顔は、私じゃない。いや、正確に言えば私だが私じゃない。
私は、柏木澄玲だが外見は、鈴木すみれ。そして今の私は、母の同級生であり幼馴染になったのだ。