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或る文学作品

ひとめぼれ?

作者: 柴と平和(栄啓あい)

 今日もあの子がいる。同じ教室にあの子がいる。

 

 爽やかな風の中、あの子と二人きりでいる。



 混雑がひどい電車を降り、改札を降りると、後ろにあの子がいた。


 なぜか、できるだけ近づかないようにしてしまう。


 近づいたら、好意がばれてしまいそうな気がして・・・。


 でも、話したい。


 「おはよう」の一言くらいは言いたいのだが、なぜかやはり足を速めてしまい、どんどん距離が遠ざかってしまう。


 あと少しで学校に着いてしまう。

 

 せめて、そこまでには何か言いたい。


 信号に引っかかった。


 そうすると、あの子が隣にいた。


 何か、何か一言だけでも・・・


 そう思っていると、信号はすぐに青に変わってしまい、追い抜かされてしまった。


 僕も、少し早歩きになりすぐ後につく。


 学校の校門をくぐり、階段を昇ると、もうあの子の姿はなかった。


 朝は教室の中で一人でぼーっとしていた。



 学校から帰るのは楽しい。


 風景がいろいろと変わり、人々が行きかう道路を歩いて、時には発見もできるからだ。


 木の葉っぱが落ちてくるのを受け止めたり、公園の花のにおいをかいだりしながら、いつも下校をしている。


 でも、今日は用事があってあの子と一緒だった。


 あの子は、先に前を歩いていた。

 

 僕も、後ろから続く。


 あの子は、隣にいたが、イヤホンをしていた。


 だから、話しかけづらかった。


 しばらくそのまま歩いているが、何も状況は変わらない。


 話しかけたいなあ。でも、話題はどうしようかなあ?


 今日のことについて色々思い出してみる。


 明日は何があったか?


 明日、そういえば物理のプリント提出だったなあ。


 そのことについてきいてみようかな?


 でも、今イヤホンしてて相手にしてもらえないかもしれない。


 そうなると、邪魔になるだけだ。


 そんなことを思いながら、進んでいく。


 そうだ!


 明日ってテストあったっけ?とかきいてみよう。


 明日は英単語テストがあるのはわかっているが、この子と話したくて、そんな無意味なことをしてみる。


 突然、ある信号に引っ掛かったとき、その子はイヤホンを耳から離した。


 そして、スマホをポケットに入れ、素の状態になった。


 話しかけるなら・・・今だ!


 そう思い、その子に話しかけた。


 「明日ってテストあったっけ?」

 「うん。明日は英単語テストだよ」

 「あ!そうだった!範囲どこだっけ?」

 「えーっと、そこまではちょっとわからないなあ」

 

 ん?この子、意外と抜けてるところがあるのかも。


 私は、思い出そうとしているふりをして、そうだ、と手を叩く。


 「明日は121~150番だ!」

 「え!?そうなんだ!ありがとうー」

 「うん」

 「物理のプリントってどんな風に書いた?」

 「え?なんか力学的エネルギーがどうのこうのって・・・」


 そして、僕が書いたものをちょっと説明した。


 楽しい・・・楽しいなあ。


 気になっている人とこんなにも話せるなんて、楽しいなあ。


 こんなに色々と話してくれるのなら、もっと早くから話しかけて笑い合っていれば良かったなあ。


 そして、すぐにその会話は、歩きの障害が妨げる。


 駅についてしまった。


 その子は逆方面の電車だから、逆なのに一緒に行くのはさすがに気持ち悪いだろうと気遣い、方面が分かれる階段で、また明日、とその子と分かれる。


 その日は、その余韻に浸ってばかりだった。



 次の日、僕はまた一番に来てしまった。


 でも、次に来たのは、あの子だった。


 「おはよう」と、なんとなく挨拶を交わし、席でぼーっとする。


 すると、その子は僕に向かってきた。


 そして言った。


 「昨日は、ありがとうね」

 「え?あ、うん」

 「一緒に帰るの、楽しいね」

 「う、うん」

 「また一緒に帰ろーね」 


 はあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!


そんなことを言われるなんて思ってもいなかった。


とてつもなく嬉しかった。


 「うん!」


その返事は、嬉しさに満ちていた。


 「でも、秋からは寂しくなるなあ」

 「え?どうして?」

 「私、今年の夏休みから冬まで留学するの」

 「そっか・・・えええ!?」

 「そう」

 「留学って、すごいね。どこ行くの?」

 「デンマークだよ」

 「北欧かあ。いいなあ」

 「私が留学したら、遊びに来てよ!」 


 彼女はそう言って大きく笑った。


 「うん!」


 こうして、私のいつものつまんない朝の時間は、今日は、忘れられない至福の時間となったのであった。



 あの子が留学して四ヶ月がたった今、僕には他に好きな人が出来て、そちらの恋に焦がれている。


 しかし、今でも、あの子のことを時々思い出して、あの日のことを懐かしく感じながら過ごしている。


 やっぱり僕は、あの子のことが好きだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さりげない朝の一シーンなのに、とてもとてもきゅーんとしてしまいました。 結局ふたりは恋人にはならなかったところ、でもやっぱり好きだった、てところ、余韻があって素敵でした!
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