朱色に染まる、染める
私たち二人の影が長く伸びていた。今日は部活もなくて、だから久しぶりに二人だけで帰れる日だ。
私と、青木の二人で。
これといって話すことはない。沈黙がこの場を支配している。けれど、私はこの雰囲気が嫌いでも、苦痛でもなかった。むしろ、心地よかった。
それは彼も同じみたいで、だからたまに私は話を振って、彼が相槌を打つ。それくらい。それくらいが丁度よかった。
この時間が、永遠に……とは言わないまでもずっと続けばいいのにと。そう思った。
太陽が、ゆっくりと一日の役割を終えて地平線に沈んでいく。そのわかずかに黄みがかった朱色の鮮やかな色彩に、思わず目を奪われた。
部活がない日に一緒に帰るようになったのは、いつからか。よく思い出せない。ただ、帰る方向が同じでたまたまその日に帰り道で会ったからだとか、そんな理由だった気がする。それからは、約束をしたわけでもないけれど一緒に帰るのが常となっていた。
いつか終わりを告げられるのではないか。私は勝手に期待していたと同時に、恐怖も覚えていた。だから、聞けるはずもなかった。どうして一緒に帰ってくれるのか、なんて。ただ私に付き合ってくれていただけだったら? そこに何の特別な感情もなかったら?
今の、この心地よい時間を、生ぬるい関係を終わらせたくなくて。ずっと、他愛もない話で繋いでいた。
聞かないように。言われないように。
この感情の名前を、実は知っている。少女漫画のヒロインはどうしてああも鈍感になれるのだろう。
私は痛いくらいに敏感に気づいてしまったのに。
目がくらむような西日が青木の横顔を照らす。
今、何を考えているの?
今日あったこと? 部活のこと? 夕飯のことかな。
――――私のことだったらいいのに。なんて、いつからこんなに強欲になったのだろう。今まで、ただ言葉を交わすだけで満足していたはずなのにな。もっと。もっと話したい。もっと知りたい。あなたの、特別な人になりたい。
もし、この溢れんばかりの想いを伝えたら。
太陽が沈みきるその前に、重ねることができたなら。
「…………」
「……? どうしたの」
不意に足を止めた私に気が付いた彼が、不思議そうに振り返った。
私はそれに気が付かないふりをして視線を上に向ける。空は夕陽が放つ光を吸収するように濃い朱色に染まっていた。
青木は私につられるようにして天を仰いだ。
「……ねぇ、あのね」
夕方から夜になろうとしている空から目を離さずに、私は口を開いた。
私の胸の中の、一番奥にある言葉を伝えるために。
「―――――――……」
口にした途端、忘れていた心臓が慌てたように動き出した。
届いただろうか。こんな、独白のような打ち明けを。
そっと、盗み見た。
「…………」
彼の顔は夕陽に照らされてか、はたまたまた違った因果からか、朱色に染まっていた。
後者であると、確信する。
だって、ほら。
「…………あのさ、」
紡がれた言葉は、私が一番聞きたいと切望していたものだったから。