夜の街に
今日も私は夜の街をふらふらと歩く。ちかちかとフラッシュのような明かりが目に入る。街行く人は忙しそうに歩いている、まるで生き急いでいるかのように。そんなに急いで歩くことはないだろうと思うがまあ、赤の他人のことだ、私には関係ないと割り切ってしまえばそれまでだ。仕事もプライベートもそれなりには充実していると思う。でも私は毎日が単調に思えて仕方がない。朝起きて朝食を済ませ、職場へと向かい自らの仕事をする。仕事中に談笑もするし、特段人間関係が悪いわけではない。夕方、職場から家へと帰路につく。夕焼けを電車の窓から眺めながら帰る時が癒しだ。マーブル模様に混ざり合った色はどこか哀愁を漂わせる。昼と夜の境目が空にあるように。
家につけばあったかい食事に掃除が行き届いた部屋、そして「お帰り」と迎えてくれる人。・・・実際は誰もいない乱雑に物が置かれた冷たい部屋があるだけ。「ただいま」といってももちろん返事はない。一人とはさみしいものである。いや、そうではない時もあるけれど。スーツから部屋着に着替えささっと夕食を作り、食べる。そのあと風呂に入って一日の疲れを取った後、私は部屋着からノースリーブのワンピースに着替えて化粧を軽くし、髪を直して夜の街へと繰り出す。まぶしい明かりの中にはいろいろな人の生き方が混ざり合っている。居場所を求める人、欲に溺れて自分を見失う人、救いの手を差し伸べる人・・・昼の街にはない別の顔が夜の街にはある。私は昼の街に居場所があるが、刺激が欲しくて夜の街に来る。ここに来れば昼とは違う、夜にしかないものが多くあり、私としては歩いているだけで楽しい。今日は金曜日、明日は仕事が休みだ。
さて、今日はどんな刺激があるだろうか。私は夜の街に刺激を求めてふらふらと歩く。居場所を探す人を見つけた。私は道端に座り込む若い男性に声を掛ける。「今日、私と過ごしませんか?」と。相手も了承してくれた。二人は夜の輝かしくも怪しげな街へと吸い込まれるように消えた。
夜の街は何者でも受け入れる。私のような単調な生活に刺激が欲しい人も。