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中三病は伝説になる  作者: 山波アヤノ
1.日常の崩壊
9/9

リミッター・オン・リミッター(2)

「え、ちょっ、あんた誰?」

「通りすがりの魔術師です」


 そう名乗った彼女は、突然オレの胸のあたりを触りだした。かと思えば、なにやら不思議な光のようなものを出した。これが微妙にくすぐったい。思わずにやけそうになったが、ドMとは思われたくないから必死にこらえた。

「なにしてるんっすか?」

「ちょっと、話しかけないでください」


 なんか微妙に怖い。そう思わずにはいられなかった。


「あの……」

「──よし、オッケー。もう大丈夫だよ」

「……なにがですか?」

「決まってるじゃない。あんたの拘束を解いたのよ」

「……え?」

 試しに、そっと指に力を入れてみる。すると、さっきまでの拘束が嘘のように動いた。

 体のいたるところを動かしたが、よく動く。オレは興奮して大声を出してしまった。

「すごいよ!ありがとう、助かった!」

「ちょ、声がでかい!」

「あ、ごめん」

 どうしても興奮が抑えきれずにいた。ああ、動けるって素晴らしい。動物、万歳。

「でも気をつけてね。次また同じ技を受けたら助かる保証はないから」

「……それって、オレに戦うなと申してらっしゃる?」

「自己責任よ」

 彼女は吐き捨てるように言い、指を鳴らしてからすぐにどこかに消えた。

「瞬間移動を使える少女ってことは、トップ級の魔術使いか……」


 ──あれ、よく考えてみれば、彼女は移動する前に何か呪文のようなものを唱えていただろうか?

 確か何も言わずに瞬間移動をしていた。

「どういうことだ?」


 * * *


「きっと、時間転移だ」

「時間……ですか?」

 すぐに理事長に聞いてみたら、空間ではなく時間だと言う。

「そう。空間を移動する場合と違って、時間の場合は指を鳴らして時間を止めてから呪文を唱えるのが一般的だ」

「ほぼチートですね」

「ああ。だから、この世界でそれが使えるのは十人しかいない」

「そんな狭き門なんですか?」

「実際、私は使えない」

 いよいよあの少女が何者なのかわからなくなってきた。

「何はともあれ、君が無事でよかったよ」

「ご心配をおかけしました」

「いえいえ」

 向こうが電話を切るのを待ってからスマホをロックする。

 丁度そのタイミングで祐斗が帰ってきた。

「ただいま〜」

「おう、おかえり」

「なんだ、動けるのか……え!?動けるの!?」

「驚き過ぎだ」

「よかったぁ。めっちゃ心配だったんだぞ」

「すまんな」

 祐斗は久し振りにに落ち着いた表情を見せた。その顔を見てオレの緊張も一気に弛緩した。


 しかし、なぜだろう。とても気持ちの悪い違和感がある。

 拘束されていた理由が思い出せそうで思い出せないこと感じは、とてもじゃないけど気持ちがいいとは言えなかった。


 * * *


 同日の夜。学校の前に揺らめく一つの白い影があった。

「そこで何をしているんだ」

 そこに学生服らしきものを着た男性が一人。白い影に声をかけたら、案の定、不気味な声を発した。

「……アノ男ヲ、コロス」

「はぁ……やれやれ。君もよくアイツを殺そうとするよな。なぜそんなに固執するのか、聞いてみたいもんだね」

「我々ノ、『ボス』カラ、命ジラレタ。アノ男ヲ生カセバ、世界ガ滅ブト……」

「君たちのボスもいい加減だね。彼はそんなことにはならない──」

「ナルノダ。『ボス』ハ、世界ノ全テニシテ、絶対ノ──」

「しつこいな。違うったら違うんだ。それよりも──」

 その男性は不敵に笑って言った。

「君は固執しすぎた。それが君の敗因だよ」

 言い終わるや否や、彼の手首より先が剣に変わった。

「──ヤルノカ」

 白い影は釜を持って構えた。

「サア、カカッテコ──」

 直後、白い影は自身の体が真っ二つに切れていることがわかった。

「──ナ、ナニヲ…シタ」

「俺の頭で、お前が真っ二つに斬れる姿を想像しただけだ」

 なおも白い影は斬られ続けている。いよいよ頭にも切れ目が及んできた。

「オマエ、マサカ、人間デハナイ……?ソンナ能力、普通ハ使エヌ」

「さあ、どうだろうね。とりあえず──」

 どこからか剣を取り出し、白い影に刃先を向けた。

「ヤ……メロ……」

 男は悪戯が成功した子供のように笑って呟き、剣を下ろした。


「──お疲れさん、悪役くん」


 白い影は霧散した。

 そこに訪れたのは嵐の過ぎた後のような静寂だった。


 * * *


 目覚ましが静寂をかき乱す。朝六時、起床の時間だ。

 昨日の金縛りが軽くトラウマになってしまったオレは、恐る恐る手を動かし、安全を確認してから起きるのが日課となってしまった。

 ──今日もしっかり動いた。

 あれから一週間ほど経つが、あれ以降謎なことはただの一度も起きていない。逆に怖くなるほど平和だ。

「……実は、俺に背後霊がついていて、それに気がついていないだけとか」

 いや、そんなわけないんだが。

「そんなこと、ないヨ」

「だよな」

 ほら、誰かさんも肯定している──

「誰!?」

「焦ることはないヨ」

「何者だ!?」

 ベッドから飛び降りてドア近くに避難する。念のため、ドアをロックされないように開けておく。

「怪しいものではないヨ。ただ、()()()()()()()()()ためにここに来ただけだヨ」

 影になって見えなかったが、この怪物は人なのだが、顔の皮が剥がれていた。


 目の前にいたのは、思いっきり怪しい者だった。

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