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中三病は伝説になる  作者: 山波アヤノ
1.日常の崩壊
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崩壊の兆し(3)

 祐斗の父親は『正当魔術推進委員会』──魔術を使った悪質な犯罪を防ぎ、治安を守るために置かれた最高組織の委員長だ。

 無論、その組織の委員長──春樹の魔術はこの世でトップのレベルだ。勝てる人は、多分いない。

 だから、自分よりも強い人、又はその素質がある人にしか強いと認めない。

 逆に、彼に強いと認められた人は間違いなく大物になっている。……過去に認められた人は片手で数えられるほどだが。


 だから、祐斗は衝撃を受けた。若干16歳で認められた啓太は強いのだろう。

 でも、証拠も何もないから反応の使用に困った。

 そんな祐斗の心情を(魔法を使って)察したのだろうか。続けて春樹は言葉を紡いだ。

「まあ、今はわからなくてもいい。あと数日したらわかるはずだ。彼の素晴らしさに」

 言葉を発した直後、まるで最初からそこにいなかったように錯覚してしまうほど静かに消え、先程のように空調の音がうるさく響く空間に変わった。


 * * *


 講堂に一瞬でついた。周りにいた人はビックリして腰を抜かしていたが、気にしないことにする。

 講堂を見渡してみれば、講義に集まった人数は30人くらい。心なしか、少々増えたように感じた。

「気のせいか」

「何が?」

「いや、なんか人数が多いような──って、陽奈!?お、お前、何でここにいる!?」

 オレの横には陽奈がいた。

「自習室の帰りに理事長先生に『君の師匠も講義に参加するが、どうするかね?』って聞かれたから『はい』って返事しちゃった」

「断っとけよ!ってか、なんで理事長、俺が弟子を持ってるの知ってるんだ?」

「……さあ?」

 すごいゾッとしてきた。

 気を取り直して、入ってきたドアから近い一番後ろの席に座る。陽奈はちゃっかりオレの右に座った。

 チャイムが鳴り、何人が猛ダッシュで部屋に入ってきた。もうすぐ始業なのに先生がいない。

「先生来ないね」

「おかしいな。いつもなら五分前にいるんだけど……」

 始業のチャイムが鳴り終わっても先生は現れない。


「時間だな、講義始まるぞー」

「──っ!?」

 先生──理事長の声がした。

 ()()()から。

「ちょっ、理事長、どっから湧いてきたんですか!?」

「見ての通り机の下だが」

「いや、そうではなくて」

「まあ、とりあえず講義始まるぞー」

 今度は前方の教卓のあたりから理事長の声がした。オレの前に理事長はいなかった。

 こんな短時間で魔法を使っても息切れしていない。

「……マナはどうなってんだ」

「いい質問だね」

「だから湧いてこないでください!」

 また目の前に理事長がいた。毎度のことだが、理事長は魔法の講義になるとテンションが相当上がるのだ。


「んじゃ、最初はマナに関する勉強をしよう」

 また前方の教卓に戻って、前方のスクリーンに「マナ」の二文字を大きく映し出した。

「マナってのは皆さんもご存知、魔法を放つのに必要な物体のことだ。君らは『潜在型異能力症候群』だから、タイプB──君らの体に寄生したマナ=スピーリトゥスが脳の電気信号の一部をいじって魔法を発動している」

 今度は、解説に必要な画像をスクリーンに映し出した。

 ──そういえば、理事長はプロジェクターの類を使っていない。これも何か関係があるのだろうか。

「我々は魔法を放つ前に、これから何をするのかを言葉にするだろ?例えば、瞬間転移をする場合は『瞬間転移魔法を発動する。我を○○まで転移させ給え!』とか、そんな感じのことを言う」

 オレもさっき使ったからわかる。それ以外の魔法でも、火系統なら「炎よ燃え上がれ、《技名》!」とか、雷系統なら「雷鳴よ痺れさせろ、《技名》!」とか。挙げればきりが無いが、いろいろとパターンはある。

「さて、ここで私から問題だ。なぜ技名を叫ぶ必要があるのか、考えたまえ」

 これはわかる。オレは手を挙げて──

「そんなの、脳の電気信号を増幅させるために決まってます」

 答えようとしたが、前の方から割り込んで来た女子の声によってオレの解答権は奪われた。

「やはりわかりますか。ですが、答えを知ってるならば他に人に回答権を譲ればよかったのでは?ほら、後ろの少年が手を挙げていましたよ」

 なぜ言うんだ理事長!注目浴びせるんじゃねぇ!

 しかし、そんな会話にも構わず、その女子は「ふん、時間の無駄ですわ」と吐き捨てて座った。その後、獲物を横取りされた獣のようにオレを睨んでから前に向き直った。

 横取りされたのはこっちだというのに。


 ──というか、あなたに何かしましたっけ?


『アナタ、災難ネ』

「ああ、そうだな……ん?」

 女子の声が聞こえたから反射的に返事をしたのだが、この声に聞き覚えはない。声の主を探そうとその辺を見渡したが、右に陽奈が、前に生徒が三人くらい座っているだけだ。

「どうしたの?」

「いや、今なんか声がしたから」

「声?なんのこと?」

「いや、大丈夫。多分、幻聴だから」

 前に教わったが、異能力保持者はたまにマナの暴走で幻覚・幻聴の類の症状が現れることがあるらしい。

 その原因は、精神的な疲れによるものらしいが、別段疲れてはいない。

『幻聴デハナイ。ワタシハ、アナタノ脳二直接話シテイル』

「──っ!?」

 流石に怖くなって辺りをもう一度見渡す。右側には陽奈、左側には貞子みたいな長髪の少女────


「ギャァァァァァ!!」

 オレは椅子から転げ落ちて精一杯叫んだ。何をして欲しいわけではなかったが、叫ばなかったら頭がおかしくなりそうだった。

「どうしたんだ?」

 理事長も瞬間移動でこちらにやってきた。

「そ、そそそ、そこに……さ、さささ、さだこ……」

「藤倉君、落ち着きたまえ」

「冷静に……なれないっすよ」

「師匠、貞子なんてどこにもいないよ?」

「……マジで?んじゃあ、やっぱり今のは幻覚か」

「そうだな。多分──」


『何度モ言ワセルナ……ワタシハイルゾ』

「「「っ!?」」」

 三人一斉に後ろを振り返る。そこには、さっきと同じ、真っ白い貞子みたいな少女がいた。

 教室内にいた全生徒が冷静を失っていた。

「全員に見えるってことは、幻覚ではないな」


 理事長が分析した通り、異能力保持者は幻覚を見る。しかし、その幻覚で現れるものは人によって千差万別。同じにはならない。

 つまり、全員が同じものを見れているということは、正真正銘の実態である。


「貴様、何をしにきた!」

『理事長、アナタ二、用ハナイ』

「何が狙いだ!」

『ワタシハ、マスター二命ジラレ、ソコノ男ヲ、殺シニ来タ』

「藤倉君!瞬間移動でも何でもいい!早く使って逃げるんだ!」


 勿論、そうするつもりだ。

 ────そのつもりだったんだよ。


「理事長……すみません。もう遅いんです」

「なっ!どういうことだ!」

「オレの周りだけ、魔法が使えない無力化地帯なんです……」

「そんな、バカな!」

 電撃でできたドームのようなものが覆いかぶさっている状態になっている。

 このドームこそ、無力化地帯。マナ=スピーリトゥスを半殺し状態にする空間。

 すなわち、完全にアウェイ。

「クソっ!こうなれば!」

 理事長は謎の少女──化け物に向き直って呪文を唱えた。

「全て無に還れ!デストロイ────」

「────!」


 しかし、間に合わなかった。

 理事長が魔法を発動するわずか前に、オレの体に音速の空気弾が命中した。


 ────オレの腹のあたりに、大きな穴が空いていた。


「し……師匠!?」

 どんどん、陽奈の声が遠のいていくのがわかる。


 こんなところで、死ぬわけにはいかない。

 しかしどうすればいいのか、皆目見当もつかない。さっきよりもドームが強化されて、いよいよ自由に動くことも叶わなくなった。

 よく見れば、腕や脚のあたりに鉄の鎖が繋がれていた。


 ──本物の金縛りだ!


 完全に動作を封じられたが、首だけは動かせた。前を見ると、貞子みたいな化け物が日本刀のようなものを持っていた。

「おいおい、ちょっと待ってくれ!」

 化け物はこちらに歩いてくる。

「じょ、冗談は止せ!やめろ、おい!」

 まるで聞く耳を持たない。

 化け物は一気に速度を上げてこちらに飛んで来た。

 そして、刃物を振りかぶり、仰向けで縛られているオレの心臓に狙いを定めて、振り下ろして来た。


「やめろぉぉぉぉおおおお!!!!」


 * * *


「……きろよ。おい、起きろ!」

「……んぁ?なんだ、どうしたんだ?」

「もうすぐで魔術教室だぞ」

 オレは顔を青くして祐斗に聞いた。

「……今何時?」

「6時の五分前」

「うわ!ヤバい!遅刻する!」

 オレは急いでソファから起き上がり、部屋に入って制服に着替えて準備をする。

「なんで寝ちまったんだよオレは!」

 そう愚痴っても仕方がない。カバンを背負ってから前に練習した転移魔法を使う。あのときは陽奈がいたから実際に発動しなかっただけで、多分、使える。


「瞬間転移魔法を発動する。我を講堂まで転移──」

 その瞬間、激しい胸の痛みに襲われた。

 なぜだかわからないが、体がそこに行くのを拒否している感覚に陥った。

 何かがおかしい。

「瞬間転移魔法を発動する!」

 しかし、何も起こらない。本来であれば、この言葉を言い終えた後に魔法陣が発動する。例え発動に失敗したり、噛んだらしても、マナがある限りは小さな魔法陣なり、その前兆みたいなものが必ず発生する。

 つまり、発動しないということは────


「おい、エリサ!起きてるか?」

 マズイと感じたオレはまず、エリサを呼び出すことにした。

 これで何も反応がなければ、オレはなんらかの原因でマナを失ったことになる。

「頼む!反応してくれ!」


 しかし、そんな思いも虚しく、いくら待っても反応はなかった。

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