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中三病は伝説になる  作者: 山波アヤノ
1.日常の崩壊
6/9

崩壊の兆し(2)

「……弟子か」

 まだ誰も帰っていないのか、うるさいほどの静寂にオレの声が響く。

 帰ってきて手を洗ったあと、すぐリビングのソファーに横になり、さっきの出来事を回想していた。

 まさか、中三病を患ってこんなことになるとは思っていなかった。

 人生初の弟子。しかも、可愛い女子だ。

「どうしたんだ?馬鹿みたいに顔を赤くして」

 視界に突然どアップで祐斗が割り込んできた。

「え、顔赤かった?」

「真っ赤だった。しかも『ぬふふふふふ』とか気味悪く笑っていたし」

「貴様、どこから見ていたんだ?」

 最初からと言われたらまずい。オレの面目丸つぶれだ。

「ああ、お前が帰ってきた瞬間からずっと、スマホで撮影してた」

 祐斗が見せてきたスマホの画面には、オレがにやけながらソファーの上で右に左にゴロゴロと転がっている動画が映されていた。

「馬鹿はお前だ!」

 オレがそんなことをやっている動画を撮影する奴は、もう馬鹿だと言っていいのではないだろうか。

 すると祐斗はスマホを操作し始めた。

「よし」

「おいお前、何をしたんだ」

「ネットにアップした」

「──は!?画面見せろ!」

 SNSの画面だった。タイトルは『僕のお友達(笑)』。再生時間は2分。多分、フルサイズ。

「やめろぉぉぉ!オレの面子丸つぶれや!」

「あ、いいね来た」

「消せ!今すぐ消せ!」

「はいはいわかったよ」

「……おっと」

「今度はどうしたんだ」

「『師匠さんが面白いんで保存しました』ってお前のクラスメイトさんが言ってるぞ」

「愛弟子ぃぃ!」

 どこからツッコミを入れればいいのかわからない。

「愛弟子?どういうこと?」

 うっかり言ってしまった。こういうときは、適当に言葉を濁しておけば追求されないはずだ。

「愛弟子?違う違う、マナティーって言ったんだよ」

「マナティー?なにそれ?」

 マナティーが通じない。

 終わったな。多分、追求地獄が始まるだろう。

「ん?愛弟子……弟子……師匠…………そういうことか」

「どういうことだ?」

「お前、まさか、あの「師匠」とか言ってる女子と秘密の関係にあるのか?」

 流石に誤魔化せない。ピンポイントすぎる。

 オレがビクッと肩を震わせたのが見えたのか、祐斗は口調を優しい刑事のように変えて言った。

「お前さんよ、気持ちはわかるぞ。確かに俺も()りたくなるときもある。でもよ、流石に高校一年生でそれはアカンぞ」

 あれ、なんだろう。違和感を感じる。特に「ヤりたくなる」の部分。

 おそらく祐斗は盛大に勘違いしてらっしゃる。

「お前、すごい勘違いしてるぞ。オレとその女子は異能力を伝授するってことで師弟関係になったんだ」

「え、えっちな感じじゃないのか?」

 右手で作った丸に、人差し指を立てた左手を抜いたり刺したりする動作をしてらっしゃる。

 やっぱり変態だ。

「……コホン。俺は変態だが、そんなことはどうでもいい」

「いや、よくないだろ」

「そんなことより、時間は大丈夫なのか?」

 二人して時計を見る。現在の時刻は午後5時55分。何か大切なこと忘れている気がする……。

「──っ!今日、魔術教室だ!」

 スマホのカレンダーアプリを起動する。6時からだった。

 寮から学校まで、少なくとも10分はかかる。

「間に合わないかも……」

 すると、祐斗が俺に向き直って言った。

「お前、仮にも魔術師だろ?瞬間移動ならできるんじゃないのか?」

「……プロセスは全部クリアしている。でも、まだ実際に使ったことは……」

「それでも師匠か?弟子が悲しむぞ」

 そうだった。こんなオレだが、あの人の師匠になったのだ。こんなところで挫けるわけにはいかない。

「……そうだったな。悪い、心配かけた」

「気にすんな」

 さて、時間はあと4分くらいしかない。

 魔術を使うため、深呼吸をして脈拍を整える。プロになればどんな状況でも使えるのだが、素人だとそうはいかない。興奮した状態で使ったら、魔力が暴走し、人的被害が出る可能性がある。

 冷静になったところで、手から魔法陣を形成する。


「瞬間転移魔法を発動する。我を《講堂》まで転移させ給え!」


 * * *


 祐斗が瞬きをした瞬間、啓太の姿は魔力共々なくなっていた。

 先の啓太のように、祐斗もソファーの上に横になった。

「やっぱり、あいつは強い」

 祐斗は独り言をこぼしていた。

 中三病について色々調べたからわかる。瞬間転移の魔法は、中三病患者の中でも二人ほどしか使えないのだ。すなわち、上位の人間しか使えない、超高難易度の魔法。

 今までも何人かが挑戦していたが、大体は魔力を暴走させてしまっている。

 それを、自分が使えないから周囲よりも弱いと思っている啓太がとても不思議に思えてくる。

「『常に自分が弱いと思いながら戦い続ける者は強い』とはよく言ったものだ」

 横から突然声がした。そこにいたのは、南谷春樹──理事長だった。

「勝手に心を読むなって言ってるよね?」

「いや、すまない。実の息子が困っている声がしたもんでね」

 察した人も多いだろうが、説明しよう。南谷春樹と南谷祐斗。決して偶然同じ名字なのではない。正真正銘、父と息子、親子の関係だ。

「……それはそうと、授業はいいのか?」

「あと30秒後に戻る予定だ。瞬間移動をすれば問題はない」

「……なんで、ここに来たんだよ」

「一つ、アドバイスをしに来た」

 祐斗はあたまに「?」を浮かべながら、父親に話の続きを促した。

「藤倉君とは絶対に仲良くしなさい」

「そんなの、今も既に──」

「今、仲がいいのはわかっている。そうではなくて、今後、たとえ何があってもだ。約束してくれ」

「あ、ああ。約束するよ」

 約束はしたものの、まだ頭の「?」は消えない。しかし、続けて父親が発した言葉に強い衝撃を受ける。

「彼は強い──いや、強すぎる」

 それは、父親が今まで()()()()()()口にしなかった言葉だった。

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