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中三病は伝説になる  作者: 山波アヤノ
1.日常の崩壊
5/9

崩壊の兆し(1)

 唐突な話だけど、私は時間と空間を操ることができる。多分、『中三病』とか言われている例の症候群が原因だと思う。

 発症したのは中学三年の頃。あの事件の直後だ。

 この前調べたんだけど、私が巻き戻せる時間の限界は三日。

 まだまだ遠く及ばないけど、頑張れば、いつか二年前くらいまで遡ることができるようになるのかな……。

 ちなみに、未来ならば三年先までならいける。

 何度も未来に行っているのだけど、不可解なことが起こっている。

 過去にも未来にも、私の人生に携わる人物の中に、彼は一度も出てこなかった。

 でも、今目の前で私に手を差し伸べてくれている人物は、紛れもなく彼だ。


 ーーわからない。私の時間軸や空間軸に何が起こっているのか。


 だからといって、ここに立ち止まっているわけにはいかない。


 私は、いろいろなメリットが生じると判断したから、彼の手を握った。


 ###


 朝のニュースで、気象台のお偉いさんが梅雨入りを発表していた。無駄に意識をしているからか、ジメッとしたあの気持ち悪い空気が肌に触れているのが気になる。そろそろ雨が降りそうだ。

 だからこそ、今日は絶好の魔法日和だ。結構な人がすでに帰っているか、部活に励んでいるか。講義室に残っている人は、ほとんどいないだろう。

 そう踏んだオレは、講義室棟の陰で、瞬間転移魔法を完成させようと努力していた。


 魔法陣を展開して、必要な三つのプロセスをクリアする。

「今日こそいける!」

 前回はお邪魔が入ってしまったが、今回はいけるだろう。

 ーーあれ、これってフラグ立てたことになるのか?

 まあ、いい。問題ないと、オレの直感が告げている。

「よし、いくぞ!瞬間転移魔ーー」

「何してるの?」

「ひょい!?」

 ひょっこりと時川さんが現れた。フラグ回収してしまった。驚いて噛んでしまったせいで魔法陣が薄くなっていく。

 もうあんなこと言わないと心に決めた。オレが言ったフラグは全て回収されてしまうらしいからな。

「ああ、し、しまった!」

『やってしまった』と魔法陣が『しまった』をかけてみました。

 ーーはい、お後がよろしいようで。

「……ごめん。なんか、二回連続で邪魔しちゃって」

「まあ、気にするな。いつでもできる……はずだから」

「ところで、藤倉君ってやっぱり、中三びょーー」

「はてさて、私は存じ上げませんな〜。なんざんしょうか、その中三病とやらは〜……って誤魔化せないよな……。お前、魔法陣を見てしまったもんな」

「その、なんか…ごめん」

「気にすんな。他言しないって約束できるなら教えてやる」

「私、こう見えて友達がいないから」

「そりゃ安心できる」

 時川さんは別にブサイクなわけではない。恥ずかしい話だが、オレのストライクゾーンにドンピシャで当たっている。決してオレの好みが変わっているのではない。多分、誰が見ても可愛いと思うはずだ。

 だから、友達がいないのは意外だった。


『時川さんがどうしたんだ?まさかお前、告白すんのか?』

『違う違う。あいつが『中三病』かもしれないって話だ』

『……嘘だろ?』


 この前の祐斗との会話がフラッシュバックした。オレ、最近フラッシュバックし過ぎてないか?

 一瞬だが、症候群を予想したーーが、それはないと思い、振り払うように首を横に振る。

 記憶改変までできてしまうのなら、それこそ人類滅亡の前兆だ。あり得ないだろう。


 * * *


 オレらは例のショッピングモールにある喫茶店に入った。

 もし聞き耳を立てている人がいたら厄介なことになるから、ここで話すことにした。ここで盗み聞きしていたらすぐ気がつくだろうというのもある。


 そういえば、時川さんと席が隣だから、それなりに話す機会はあったが、こうやってじっくり話すのは初めてかもしれない。

 オレは改めて時川さんを見る。やはり真っ先に目につくのはライトブラウンの髪だ。彼女の性格の明るさを象徴するような髪だと思った。顔立ちも整っていて、決して飾っていない(オレがそう思っただけ)笑顔や仕草はまるで天使。おまけに、出るところは出てて引っ込むところは引っ込んでる。

 まさしく我々のような、目立たないスクールカースト最下位の人間とは正反対を行く、カーストトップに君臨する女子。

 まあ、要するに可愛いのだ。だから、友達がいないのは疑問に思えてくる。不思議だ。


 店の喧騒に飲み込まれていたところに、注文していたコーヒーが届き、意識がこちらに戻ってきた。

 さて、そろそろ本題に入らないと。


「それで、時川さんーー」

陽奈(ひな)でいいよ。同級生だし」

「ん、んじゃあ…ひ、陽奈?」

「うん、上出来」

 クソっ、言ってしまった。女子は苗字で呼ぶというオレの(どうでもいい)信念が曲がってしまった。

「っと、これ以上話を脱線させないようにしないと!んで、本題なんだが」

「君、中三病なんだよね?」

「っ!?オレまだ何も話してないよね!?」

 危うく鼻からコーヒーを出すところだった。女子の前でそんなことは死んでもできないし、したくもない。

「だって、この世に魔法が存在しないはずなのに、使えているってことは中三病以外ありえないよね?」

「ごもっともです」

 もう、本題も何もあったもんじゃない。暴かれてしまったのならば何も話すことは……


 ーーある。ありました。


「オレも質問していいか?」

「なんでもどうぞ」

 オレはここで「『なんでも』って言ったね?」と聞くほど汚い性格はしていない。

 ーーこれから聞く質問はブラックなわけですが。


「なんで友達いないんだ?」


 聞いた瞬間、彼女は少々驚いた顔をしたが、すぐ落ち着きを見せて、言った。

「私、魔法に憧れているの」

「……え?」

 オレら中三病が使っている魔法が羨ましい?全く理解できない話だった。

「お前、正気か?」

 オレがそう言えば、彼女は立ち上がった。

 嫌な予感がした。

「ーーまさかとは思うが、弟子入りをお願いするわけじゃない…よな?」

「お!よくわかったね。そういうこと」

「ああ、なんだ、よかっ……なんですと!?」

 オレ、フラグ回収しすぎだろ。何個回収すれば気がすむんだろうか。

「い、いや、でもさ……ほら、もしかしたら、いつか魔法が使えるようになるかもしれないよ?」

「いつかじゃダメなの。あと…一ヶ月くらい……」

「一ヶ月か……。なら、他を当たった方が早いと思うぞ。では!」

 オレは勢いよく椅子から立ち上がり、その場から走り出そうとする。

「ちょっと待ってぇ!君しか頼める人がいないの!」

 ーーが、すぐに手首を掴まれる。逃げ場なし。どうやら引き受けた方が良さそうだ。

「わかったよ。二週間でやってやる。だから、放課後は空けとけよ」

 そんな返事して、とりあえず弟子となる陽奈に手を差し伸べた。このとき彼女は、まるで欲しいおもちゃを与えられて喜ぶ子供のような、屈託のない笑みを浮かべ、オレの手を握った。

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