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中三病は伝説になる  作者: 山波アヤノ
1.日常の崩壊
2/9

束の間の日常(1)

 放課後のチャイムが広大な校舎に鳴り響く。

 幼稚園から大学まで全て揃ってる、特大規模の学園『霽月(せいげつ)学園』が有する『霽月学園都市地区』は、今日も今日とて沢山の学生で賑わっていた。

 もちろん、高等部も例外ではない。部活に勤しむ人も居れば、放課後に学園都市内にあるショッピングモールやゲームセンターに行く人、寮に帰って寝る人、教室で自習をするガリ勉など、多様な過ごし方をしている。

 そんな喧騒から離れるようにオレは、誰も人がいない校舎裏に向かった。高等部の校舎はかなり複雑な形をしているため、渡り廊下と建物の間とか体育館の裏とか、人が滅多に来ない場所がそれなりにある。オレにとっては好都合である。

 オレは精神を統一させ、()()を最大限に引き出す。

 そして、光りだした手を前にかざしてーー


「あれ?藤倉君じゃん。なにしてるの?」

「っ!?」


 まずい、確実に見られた……。

 振り返ればそこには、同じ学校の同じクラスの、しかも隣の席というクラスメイトの時川(ときかわ)陽奈(ひな)がいた。

 一人だけサウナにでも入っているように見えるほど、尋常じゃないくらい汗をかいていたが、冷静さを欠かなかったオレは、しっかりと状況確認のため相手に質問をした。

「……いつから見てた?」

「うーんと、手をかざし始めたくらいからかな?」

「……光、見えた?」

「ううん。光がどうかした?」

「そうか。いや、見えてないならいいんだ」

 良かった。どうやらバレてなかったらしい。『中三病』の秘密がバレたらどうしようか本気で焦ったが、心配無用だった。


 さて、よくわからない単語が出てきて、頭に「?」を浮かべている人も多いだろうから紹介しよう。

『中三病』ーー正確には『潜在型異能力症候群』と言う。

 皆は『中二病』をご存知だろうか。そう、あの中学二年生くらいの時期に流行るアレだ。その中で有名なタイプは邪気眼系だと思う。あの、「闇」とか「魔界」とか「漆黒」とか、とにかくその系統の言葉を使って頭の中で異能力バトルを繰り広げたりするやつ。

 オレも、かつてはただの中二病だった。


 しかし、中二病患者になって間もない頃、中学二年の夏休みも終盤に差し掛かった頃からおかしくなった。

 今まで、話が通じる友達と「闇に飲まれよ」とかいうセリフを用いて空想バトルをしていたのだが、ある日突然、オレが「シュヴァルツ・バーニング!」とか言って手をかざしたら、本当に手から黒い炎が出てきた。

 この状態に、友達は勿論、オレも呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 それから二年が過ぎようとしているが、この症状は治るどころか、徐々に酷くなっている。

 この前、試しに一円玉に向かって「闇に飲まれよ」と言ってみた。すると、一円玉の周りに魔法陣ができて、マジで闇に飲まれて跡形もなく消えた。

 この日以来、オレは「闇」という言葉を封印している。


 閑話休題。

 意識を現実に引き戻し、オレは時川に向き直った。それと同タイミングで時川はオレに質問した。

「さっきのって、一体なんなの?」

「ただの中二病だ。気にするな」

 そう言って誤魔化すことにした。

「あ、うん。そうだね」

 あっさり納得してくれた。無理もない。今のオレの服装を説明すると、片目が隠れるくらい前髪が長い茶色の髪、夏場だから半袖のワイシャツだが、その腕からのぞく白い包帯。それから黒い指出しグローブ。もう、これを中二病と呼ばずしてなんと呼ぶのだ!みたいな服装だ。

「まあ、とりあえずそんなとこだから!んじゃあな!」

 オレは相手の反応を見ずに走り去った。なんとなく、ここにいたら自分が秘密を話してしまいそうだったのだ。


 ###


「ああ、危なかった……」

 寮の自分の部屋に帰るや否や、オレはベットにダイブした。

 霽月寮第1号館の612号室がオレの部屋だ。

 去年に改築された建物らしく、部屋はかなり綺麗だ。広さは八畳一間だから、一人暮らしするには不便はない。

 唯一の不満点とすれば、家賃が割安だからか、食堂は学食を使うしかないところだ。寮に食堂はない。

 とは言えど、リビングやキッチンは六つの部屋ごとに一つ置かれているため、ご飯を食べる時やテレビを見る時とかにここにいると、だいたい誰か来る。そのメンバーで、みんなで作ったご飯を食べるのはなかなかに楽しい。ご近所付き合いもバッチリだ。

 ――なんて回想から現実に戻り、ふと時計を見やると、夜の七時を回っていた。

 もうこんな時間だ。夕食を作る気が失せたオレは外食をすることにした。

 一人で行くのもなんか寂しかったから、仲がいいお隣さんと行くことにした。誘いのLINEを送る。

『まだ食ってなかったら、飯食いに行かね?』

 すると、即座に既読がついた。

 しかし、一向に返信は帰ってこない。

 スタンプを連続で送りつけようかと思った矢先、スマホではなく、インターホンの通知音が鳴った。

 ドアを開けてみれば、そこにはスタンプ連打の刑に処される寸前だったお隣さんがいた。

「準備早くねーか?」

「俺も外食しようか考えてたから。それよか、早く行こうぜ?」

 紹介しよう。とても仲がいいお隣さんの名は南谷祐斗だ。

 入寮した二日後に知り合い、彼此三ヶ月ほどの付き合いになる。

「啓太、今日はどこ行くんだ?」

「夏休みも近いから、あんまり金は使いたくないだろ?」

「そりゃな。あと二週間くらいだろ?それまでは絶賛節約中だ」

「だから、牛丼にしようかと考えてた」

「いいな。決定だな」

 トントン拍子で話が決まり、そこへ向かうことにした。


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