人体実験
再び歩き出して一時間ほどだろうか、森から抜け、その先に村があるのが見えた。
村に行けば水がある、飯がある。思わず村に向かって駆け出してしまった。それほどゴブリンや狼が棲む森を抜けるのは大変であり喉が渇いてしまっていたのだ。
しかし、ちょっと待て。このまま見張りに見つかっては村には入れないどころか面倒なことになるかもしれない。
やはり、時間停止魔法を使ってから村の中へ侵入しよう。
「時間停止っと」
さて、これで安心だ。
早速村の中へ入らせてもらうか。
見張りがいる中、堂々と入り口から入っていく。こういう時程、時間停止魔法を使っていて楽しいことはない。本来、狼や何かから身を守るために使うものではないのだ。
ともかく、村の中へ入ることが出来た。
村の中には農作物が育てられており、住民たちが畑仕事をしていた。
男はあまりいないな。狩りにでも出かけているのだろうか。
何はともあれ、まずは水だ。
井戸を探し出し、水を頂く。
美味い。渇いた体に染み渡るようだ。
そうなってくると肉も欲しくなってくる。
探すと、軒先に干し肉が吊るされているのが見えた。これまた肉も頂く。
美味い。まあ、普通に日本で食べた焼肉の方が美味いのだが...。ともあれ腹が減っていれば何でも美味いというものだ。
喉の渇きも収まり腹も満たされたところで、食べている間に思いついた、いくつかの実験の準備をしよう。と言っても誰か一人を拉致し、刃物を用意するだけだが。持ち運びやすい女の子がいいな。あそこにいる女の子でいいか。
さて、実験のために女の子を森へ連れ込んで来た。絵面が完全に犯罪者だったが、細かいことは気にしないのだ。
肝心の実験内容だがもちろん時間停止魔法についてだ。俺は、もしかしたら停止だけでなく時間を早くしたり逆行させたり出来るのではないかと考えている。
しかも、人間一人だけの時間を操作することも可能なのではないかと思うのだ。
この可能性には願望も多いに含まれるが。
何はともあれ取り敢えず試してみよう。
まずは時間停止解除だ。
「...えっ?こ、ここはどこ...?あなたはだれですか?」
「ここは森の中だよ。今から少し実験をするからちょっとじっとしててね」
「じっ、じっけんって...」
まずは世界全体の時間を早くしてみよう。
「時間加速」
うーん、ダメか。じゃあ、
「時間逆行」
やはりダメか。まあ世界全体を早くしたり戻したりしたくはなかったから別にいいか。
「じゃあ次は人間だな」
「それってもしかして」
「ああ、君だよ」
女の子に手を触れ、
「時間加速」
すると、みるみる内に大人の女性へと変わってしまった。
「おお、成功したぞ!」
時間加速の成功は非常に嬉しい。応用すれば色々な事が可能になるからな。
「えっ、体が大きくなってる?」
「そうだよ、次は逆ね。時間逆行」
すると、みるみる内に子供へと戻ってしまった。
「...えっ?こ、ここはどこ...?あなたはだれですか?」
「ふむ、戻る時には記憶は保持されず、当時の記憶のみしか持っていないというわけか、では怪我や傷はどうなるのかな」
女の子の腕を切り落とすために持って来ていた鉈を取り出す。
「い、いやああああ!!」
「うるさい、暴れるな。時間停止」
世界が止まる。
さて、これで切りやすくなったな。
女の子を地面に寝かせ鉈を左腕に落とし、切断する。腕が切れた状態で時間を戻したらどうなるのだろうか。腕は治らない?腕がくっつく?腕は消滅して新しく生えてくる?
ちょっとその前に時間停止を解除してみよう。解除っと。
「いやああああ...あ?いいい、痛いぃぃぃぃ!!うでがぁぁぁ」
停止。解除。「いたい」停止。解除。「いいい」停止。解除。「ぃぃぃ」
ふふ、ちょっと面白い。さてそろそろ本題に入ろう。これで怪我が治ったら画期的な治療術になるだろう。
女の子に手を触れる。
「時間逆行」
十分ほど時間を戻す。すると、腕がくっつき、元の女の子に戻った。
「...えっ?こ、ここはどこ...?あなたはだれですか?」
良し。この実験は大成功だったな。




