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心臓の踊り食い


「ああ!俺の息子が!......お前のせいだ!俺はこの街から逃げようって言ったのに!お前が、軍も出てるから大丈夫だとか言ったからだぞ!どうしてくれるんだ!」

「はああ⁉︎あなただって、そうだねって同意したでしょ!今更何よ!ふざけないで、あなたのせいでもあるのよ!」


「ごめん......。ごめんな......」


「あうーキャッキャッ、ゲヤッ!ギャギャッ!」


「もう嫌!やめて!やめてやめてやめて......」


 広場は阿鼻叫喚。特に子供持ちの人は悲しみや怒りの感情をこれでもかと発露させている。独身の人は少し余裕があるようだが、いつ自分もなるか分からない、と言った不安は残っている。


 たまらず逃げ出すものも現れた。それを見て、皆逃げ出そうとしたが、そいつを見せしめに壊し、無惨に殺してやると、誰もがその場で動かなくなってしまった。


 人と違うことをしたら死ぬ。特別になってはいけない。あくまで民衆の中の一人に徹さなければならない。


 そういった強迫観念が皆の心を覆った。


 そんなことしても意味ないんだけどね。時間を止め、辺りを見渡す。


 とりあえずそこら辺の大人行っとこう。えーと、ああ、こいつらでいいか。子供も割と原形留めてるし、幼児退行、脳萎縮パターンかな?


 さてさて、父親の過去の行動を掘り起こしてっと、何か面白い行動してないかなー。......おお!何だろう、果物?をもぎ取ってむしゃぶりついてるのがあったぞ。


 じゃ、これにしようか。


 子供の心臓をもぎ取りやすいように胸を掻っ捌く。骨が邪魔なのでそれも取り除く。そして、父親をセットして、完成だ。


 あとはこれをちょっと皆が見やすい場所に置いておいてと。じゃあ時間魔法解除。



「ああ、良かった!娘は無事で!......え?な、なんで!胸が開いてるんだ⁉︎おい!おいしっかりしろ!大丈夫か!」

「うぇひひー!あっはははー!」

「良かった。無事なのか、ん?おい!止めろ止めろ!手が、勝手に!」


 剥き出しになった心臓に向かって父親の右手が、獲物を見つけたかのように素早く伸びる。


「ま、まさか!嘘だろ?」


 本来果物を掴むはずだった手は心臓を鷲掴みにし、血管もろとももぎ千切った。


「ギャッアアアッ!」


「おい......。見ろよあれ、いや、やっぱり見るな......。狂ってる」

「の、呪いじゃああああ!子殺しの呪いがやつにかかっておるうううう!」


「やめてくれ、やめてくれ、おえっ、げぼっ」


 顔や体とは正反対にウキウキで右手はずっと動いている。待ちきれない様子で口へ心臓を運ぶ。


「ガボッ、おごっ、ゴボッ」


 心臓の脈動は止まらず、血を吹き出し続けている。血が喉に詰まって苦しそうだ。


「おえん、おえんあ、おえん」


 ガブリ


 ブシャッ


 ベシャッ


「ゴバッ、ベシャッムシャゴクッゲボッ」


 あー、ついに全部食べちゃった。気持ち悪っ。


「そ、そうじゃ!あいつじゃ!子供の心臓を食べているあいつが呪いの元凶なのじゃ!」

「な、何だって!そうか、道理であんな狂人の所業を!」

「それに見ろ!あいつの子供を!胸は掻っ捌かれているがそれ以外はほとんど正常じゃないか!」

「本当だ!じゃあやっぱりあいつが!」

「ちくしょう!一家全員皆殺しだあああ!」


 人は混乱状態に陥った時、冷静な判断が出来なくなる。それが集団ともなれば確実に愚かな方向へ向かってしまう。


 落ち着いて考えれば、あの一家のせいなわけはないだろう。だが、誰かのせいにしたい、一刻も早く恐怖から解放されたい一心で、根も葉もない誰かの一声で皆の心が一つになってしまった。


 子思いの大人は、心臓を貪り食う父親をなぶり殺すため、責任感の強いもしくは弱い大人は、ただボーっとしている母親を罵りながら殺すため、ロリコンペドフィリアリョナ野郎は、この機に乗じて娘をアレするため、一家の元へ一目散に向かった。


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