妖精くずれに生きる価値なし
すっかり忘れていたが妖精には羽がついているのだった。もぎ取らなければ。
「サレンちゃん、君の羽を今からもぎ取るからねー」
「は、羽......。ぐっ、許してください!羽だけは!羽だけはダメなんです!」
「あ?」
「それ以外は何でもします!何でもされます!だから!羽だけは!」
「ふふ、そんなに言われるとますます羽をもぎ取りたくなってくるじゃないか。一応聞いといてやるが何でダメなんだ?」
「羽が、羽が無いと私が私でなくなっちゃう!やめて、やめて!やめて!」
「お前がお前でなくなる?はは、面白そうじゃん。やってみよっと」
「ううう!やめろ!ラスティ」
「ほい、ブチブチブチっと」
結構力要るなあ。腕とか足を裂くのはそこまで力要らなかったのに。
さてさて、どうなるのかな?
「アアッ、ガアアアア!」
ドクッ、ドクッ、ドクッ
血液だか、筋肉だかが激しく律動している。
グニッ、ベキッ、ムニッ、ゴキッ
体の組織が全て組み替えられているようだ。
「アアアアア!」
そして変化が終わった瞬間、カッと全身が眩い光に包み込まれた。
「おお!どうなるんだ!」
光が消え、露わになったのは特に変化もないサレンの姿だった。
「......は?」
「うええっ、うぐっ。うええええん」
「お前、何も変わってねーじゃん」
「な、何言ってるの!これを見てよっ!」
バッと差し出された細い右腕には青い血管が枝分かれしながらほとばしっていた。
「あー、お前人間になったのか。なんだそれだけ?つまらん」
「はあっ⁉︎それだけ⁉︎人間よ⁉︎あの汚らわしいクズみたいな存在にこの、この高貴な私がっ!」
「はは、なるほどね、こいつはいいや」
「こんな汚い体じゃ、生きていけない」
「大丈夫大丈夫。生きていけるから」
「......いや、しかし私という存在意識は媒体が妖魂から脳へ代替されたもののそれ自体が変化したわけではない。しかし私を定義する境界としての肉体が妖体から人間の体へと変化したことにより
「ああ、哲学に目覚めちゃった」
「......。......。......」
「まあよくあることだよね 。でもいいと思うよ。その内、答えは見つかるから。俺は見つかったからね」
「......。......。......」
「ま、そんな時間は与えないけどな」
ジソンで貰ってきておいた鉄刀を手に取る。
「やめて!サレンを殺さないで!」
「殺さないでって、サレンちゃんも殺して欲しそうだよ?ほら、あっち見てみなよ。絶望的な顔してるだろ?うける」
「っ。うう、そうだけど......」
「な?というわけで殺すわ」
「ま、待って!サレンを、妖精に戻してあげてくれませんか!あなたなら出来るんじゃないですか⁉︎」
まあ出来るよな。時間魔法ならチュルチュルっと巻き戻すだけだからな。やんないけど。
「いやだ」
「なっ!......ならせめてサレンちゃんを妖精の森に帰らせてあげて下さい。私ならどれだけ虐めても構いません」
「そりゃドMのお前ならいいだろうよ。......まあ、でもいいだろ。連れてってやるよ」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
「シーラちゃん。お前もな」
「や、やったー!良かったねサレンちゃん!帰れるよ!」
「......」
哲学の世界から戻ってこれないみたいだな。まあいいや、そのまま連れて行こう。
「じゃあ行くよー」
「はいっ!お願いします!」
「着いたー」
「えっ?えっ?」
「ほら、早く案内してよ」
「わ、分かりました。こっちです」
二人を抱えながら森の中を歩いて行く。
シーラちゃんは軽いけどサレンちゃんは重い!人間になったからかな。
「もうすぐです!」
「おー、あれかーってあれ?何か出迎えられてない?」
巨大な樹の前の広場に、大勢の妖精が集まってこちらを見ていた。
こちらが黙っていると、なんか長老っぽい妖精が話しかけてきた。
「そこの人間。何故シーラとサレンを抱えているのだ」
「ああ、このドM変態雌妖精と妖精くずれのことか?」
「人間、ふざけるなよ」
「ふざけてなんかないさ。見てみるか?ほらシーラちゃん、踏んであげるよ」
シーラちゃんを地面に叩きつけ、踏みつける。
「貴様!シーラに何を!」
「はは、良く見ろよ。この顔をさ」
「あへぇ、きもちいいよお。もっとふんでくださいいい」
「なっ!シーラ!お前は何を言ってるんだ!」
「あっ、ぱぱぁ、わたし、じつはふまれて、きられて、さされてきもちよくなっちゃうどえむへんたいめすようせいだったのおおお」
「うううっ、おっ、おえっ」
「あ、そっちの右らへんにいる妖精、シーラちゃんのお父さんだったんだ。あ!娘さんもう俺の物なんでよろしく!」
「そうなのお、もうわたしはこのにんげんさんのものなのお」
「げえっ、ゆ、許さん!死ね!ラスティ・ウェイン!」
シーン
「もうこのくだり飽きたなあ。もうみんなはやらないでね?効かないからさ」
「何故だ!何故ラスティ・ウェインが出ない!」
「そういうものなんだよ。あとはサレンちゃんか。ほら見て見て」
どさっ、とサレンちゃんを地面に転がしてやる。
「サレン!大丈夫か!しっかり......え?」
「ふふっ」
「羽が、ない?」
「ふふふふふ」
「サレンの羽がああああ!」
「あははははっ」
すると、妖精の皆がサレンちゃんに向かって罵声を浴びせ始めた。真っ先にサレンちゃんに向かった妖精も、素早く離れ、汚いものを見るように睨みつけている。
「死ね!妖精の恥さらしが!」
「なんで帰ってきたの?そのまま外で死ねば良かったのに!」
「サレンが今まで俺と一緒の種族だったなんて!汚らしい!死ね!」
「み、みんな......?うそだよね......?わたしたち、なかまだよね......?」
あ、哲学から戻ってきた。
「はあっ⁉︎何を言い出すかと思えば。死ね!」
「その汚い体で喋るな!早くくたばれよ!」
「何が仲間だよ。ふざけたこと言うな!死ね!」
「うそ......、うそ.......、うそ......」
酷いもんだね、妖精ってのは。
「おとうさん、おかあさん、ふたりなら分かってくれるよね?ね?」
すると、二人の男女が答えた。
「お前みたいなのを産んだのは私の生涯の汚点だよ。もうこれ以上私の目の前に姿を現わすな!」
「お前はもう娘でもなんでもない。早く死ね」
「へへ、はは、あはは、あは......。うっ、うえっ」
ふはっ。親にも見捨てられてる!見てられないね!
「ちょっと!ちょっと待ってください!この人なら!この人ならサレンを妖精に戻すことが出来るんです!だから、見捨てないであげて!」
うん、たしかに。戻れるなら別にいいよね。
「いや、もう戻るとかいいから......。さっさと死んでくれよ」
「えっ?」
「私も同意見だね、一回人間になった妖精なんか想像するだけで吐き気がするわ!」
おっとっと。思ってたよりも厳しい感じか。
「へへ、もういいよ。人間さん、私を殺して」
「あはは、いやだね」
時間魔法で体を妖精の体に戻してやる。
「あ、あれ?戻ってる!」
「やった!サレン!戻れたんだね!」
「うん!シーラ、ありがとう。本当にありがとう」
俺じゃないのかよ。
「皆、ね?普通でしょ?普通の妖精だよ!」
「......おえ!」
「おええっ。ゲボッ!」
「アアアアア!頭が痛くなる!」
広場が、阿鼻叫喚だ。っふふ。面白い。
「許せない!お前のような存在があってはいけない!」
「ダメだ!ダメだ!頭が壊れる!殺してやる!」
「ああ、殺してやる!殺してやる!」
「皆、私だよ!サレンだよ!サレ、ぎゃっ」
「死ね!死ね!恥さらし!」
押し合いへし合い、サレンちゃんの体をみんなで引き合っている。
「ギャアアア!さ、さけるううう!」
「うるせえ!黙ってろ!」
男が、こぶし大の石をサレンちゃんの口へぶち込んだ。
「ガッ、ゴォォォォ」
その間にも体は引っ張られ続け、ついには体に裂け目が出来始めた。
「ムグウウウウウ!」
「おらあ!もっと引っ張れ!裂き殺せ!」
「ムグウウウウ、ウッ」
バツンッ
サレンちゃんの体が、四散した。




