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神話を歩む旅の果て  作者: 粒燕
第一章 感染都市ヴァリエル
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第四話 幼馴染はかく語りき

******


 バイトからの帰り道。今日は給料日だというのにどうにも気持ちが高ぶらない。その理由は考えるまでも無く明白だ。


 「あいつ、化け物かなんかなのか……」


 強いという話を聞いてはいたがまさかあそこまで強いとは思ってもいなかった。不意打ちに自信を持つというのもおかしな話ではあるが、あれは確実に決まる技だと自負していた。それなのにあんな容易く止められるとは……。しかもそんな相手に強いと言わせたレインが遠くに思えてしまった。


 「駄目だ駄目だ。……どうせ家に帰っても人がいるわけでもないから外食でもするか」


 自分の頬を二度ほど叩いて気持ちを入れ替える。こういう時は切り替える事が重要だ。変に引きずっても何もいいことは無い。どこに食べに行こうか、気分を変えようとそんな事を考えていると突然後ろから肩を叩かれる。振り返るとそこにはフードを被った人物が見えた。


 「どちら様?」


 「俺だよ、俺」


 そう言ってフードの人物が顔を出す。何処かの不審人物、という訳でなくフードの中にあった顔は良く見知った幼馴染のものだった。


 「あぁ、バレルか」


 「何だよその反応は……。というかさっきからずっと声かけたのに無視はひどくないか?」


 「そうだったのか? 考え事してたせいで気づかなかった」


 「お前が考え事?」


 随分と失礼な言い草だ。俺だってそういう気分になることだってある。


 「あのなぁ……。それよりもガイルのおっさんがぶちギレしてたぞ。バイトを無断欠席してたとかで」


 「あっ……、あぁ……」


 バレルが目を逸らす。安心した、俺の幼馴染はどうやら危機管理能力はちゃんと作動しているらしい。


 「ったく何でサボったんだよ。こうなる事なんて想定できるだろ?」


 「まあ色々あるんだよ」


 「色々って何だよ……」


 「それはな……っと、ここは駄目だ。ちょっと二人きりになれる所、そうだなお前の家近いからそこで話をしようぜ」


 「はっ? いやこれから俺、晩飯食いに行くからさ」


 幼馴染の目を見れば分かる。あれはとんでもない厄介事に首を突っ込むときの目だ。キラキラとした目は子どもの頃から何も変わっていない。


 「そんなの後でもいいだろ。とにかくほらっ」


 バレルが無理やり俺の腕を掴むとそのまま俺を引きずって俺の家に向かおうとしている。


 「ちょっと待てって」


 「何だよ?」


 「何だよ? じゃねえよ。何をそんなに急いでるんだよ。こっちは働いてくたくたなんだぞ。話を聞いてほしかったらそれなりの態度っていうものをだなぁ」


 バレルはしばらく考える素振りを見せた後、観念したように言葉を吐く。


 「……お願いがあるんだよ」


 「お願い?」


 「あぁ。それで二人で話がしたいんだ。……あまり人聞かれたくないんだよ」


  バレルの見せる表情はいつも彼が見せるそれとは違った。そのせいだろうか、俺は少し話を聞くことにした。

 ******


 家に辿り着くといなやバレルが口を開く。


 「いっしょにヴィルスを倒しに行かないか?」


 「はっ?」


 言いたいことが言えてすっきりしたのかバレルは勝手に食糧庫を漁って食べ物を探していた。あの時、少しでも同情していた俺の気持ちを返して欲しい。それにしてもやはり、俺の幼馴染の危機管理能力はちっとも作動していなかった。


 「もしかして、それがさっき言ってたお願い、なのか?」


 「そうだよ。流石にこんなことを他の人間に聞かれたらやばいだろ?」


 「そういうレベルの話じゃないと思うんだが……、というかどうしてそんな急に?」


 昔からバレルはヴィルス討伐を志していた。確かに病的な部分も見られたがそれは昔の話だ。最近ではバレルの口からヴィルスという単語も聞かなくなっていた。


 「まぁ小さい頃からの夢だったしな」


 「それは知ってるよ。ただ最近はそんな事一言も言わなくなってたじゃねえか」


 「それはまぁ……色々とあったんだよ。現実を見たってのもあるけどさ」


 「じゃあどうして? というかそもそも許可貰ってない俺たちが檻に入れるわけないだろ?」


 「いやいや、実は中に行ける方法があるんだよ、俺たちでもさ」


 まただ、あの少年のようなキラキラした目。

 あれは危ない目だ。あの目をしたバレルと行動して良い方に転んだ事なんかゼロに等しい。脳内で幼馴染に対する警報が鳴る。


 「でもそんな事をしてバレたらどうするんだよ。叱られるとかそんなレベルじゃすまないぞ」


 許可をもらわなければそもそも壁にある入り口にすら近づくことは出来ない。それこそ国家が関わるようなものだ。今までのいたずらのようなものとは次元が違う。


 「そんな事にびびってるのか? 例えバレたとしてヴィルスさえ倒しとけば叱られたりしねえよ、それどころかもう英雄扱いだぜ、きっと」


 「ヴィルスに勝てれば、の話だろ。そんな現実上手くいくわけねえだろ。今までどれだけの人間が立ち向かって敗れて来たと思ってんだよ」


 「だからこそだろ? 英雄になるのがそんな簡単なわけないしな。それに俺の出来る限りの準備は既にしてるんだ」


 「準備?」


 「さっき中に行ける方法があるって言っただろ。まぁそんなこんなでここ数日間ずっと準備をしていたってわけだよ」


 「バイト行ってない原因ってまさか……」


 「その準備のせいだな。まぁ未来への投資ってやつだよ。流石にヴィルスを倒した英雄様にはガイルも怒れねえだろうし」


 「…………」


 「どうしたんだよ、いきなり黙りやがって。もしかしてこの俺の天才的な考えに……」


 「いや、それはない。よくそんな捕らぬなんちゃらの皮算用ってやつで行動できるなって感心してたところだ」


 「褒めても何もでないぞ」


 バレルは鼻を伸ばしつつ照れる。どうやら皮肉を皮肉と理解できないほどには頭がいいらしい。そんな頭の奴の準備など正直信用できない。


 「どんだけ準備したんだよ?」


 「どんだけってそりゃあまあ、寝床の確保もしたし、一週間分程度の食糧も準備した。それに応急手当のセット、後予備の武器とか、後もう少しい雑多なものをちらほらと」


 「……思っていたよりも随分と準備は良いんだな

 「当たり前だろ? 流石に俺もただ死ぬために行くわけではないからな。で、どうするんだ?」


 「どうするって言われてもなぁ……」


 俺もこの街で育って来た人間として、ヴィルスを倒すと言う事に関して憧れを持っているのは確かだ。しかし、国の援助を受けた実力者すら成功したことが無い事を、素人二人で行こうとしているのはまた話が違ってくる。それは無謀な蛮勇に過ぎない。それにこれは師であるレインの教えから最も離れたものだろう。

 それでもどこか、行かなければならないという使命感があった。

 それがどうしてか分からない。

 もしかすれば一時的なテンションのせいなのかもしれない。それでも……。


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