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神話を歩む旅の果て  作者: 粒燕
第一章 感染都市ヴァリエル
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第二十話 回想~修行~

******


 夢だ。

 確か、この時、俺は基本技の練習をまじめにやっていなかった時だろうか。レインは俺の頭を木刀で殴ってこう言った。


 「お前な、基本をさぼってどうするんだ? 基本が出来ないと応用なんて出来るわけないだろう?」


 この時の俺は少し調子に乗っていた事もあって言い返した。


 「でも俺、基本は完全に習得してるし」


 そう言うとレインはにやっと顔を歪ませる。


 「そうか、だったら俺が相手してやる」


 そう言ってレインは木刀の先をこちらに向ける。それなりに経験は積んでいたし、負けはしないだろう、という甘えた考えの俺は一瞬でけちょんけちょんにされた。


 「腰に力が入ってない、握り方が甘い、いなし方が雑だ。こんなんでよく習得したなんて言えるな、お前は」


 大人の力のせいだろ、そんな事は言えなかった。負けた時にそんな事を言う奴は本当の負け犬になる、そんなプライドがあった。


 「いいか、基本ってのは誰でも出来る。誰でも出来るからこそ、戦いの時はその基本、つまり土台で勝敗の半分以上が決まる。つまりな、えーっと、あれだ、基本に習得もくそも無い。そもそも十年ぽっちしか歩んでない餓鬼が習得出来るんだったら俺はとっくの昔に神になってる」


 大人の笑みというよりは完全に子どもの目をして大声で笑っていた。ひとしきり笑った後、レインは俺たちを見て言う。


 「それとな、一つ、一つだけ自分がこれだけは絶対に負けないと思う技を磨け」


レインはそれを言った後、さも名言を言ったかのような態度を取り、バレルも名言を聞いたかのように目を輝かせていた。


 「何言ってるんだよ……」


 真面目な事を言ったと思ったらこれだ。レインの言葉の多くは子どもが語るような夢物語的なものが多かった記憶がある。


 「何って。ようは必殺技を作れって言っているんだ」


 「ひっさつわざ?」


 この時、俺は本気で呆れていたと思う。学校にいる周りの奴らだってそんなものからは卒業している、そう思っていた。


 「そうだ。いいか、とりあえず得意なものを持っていて損は無い。それどころかそういうものを持っていればそれは自信に繋がる。得意なものってのはどんな時でも支えになるんだよ」


 ただ今になってこの言葉を思い出した時、その真意が少し分かった。特定の分野の得意な事というのは、その分野に対する扉になる。逆に言えば、得意なものが無ければ、いつまで経ってもその分野に入り込む事は出来ないという事だ。

 その日から俺たちは必殺技、もとい得意な技を作るという事を目標にしていた。性格こそあれだが、レインの技術、そして教え方は最高の環境であったと言えるだろう。そんな環境のおかげか、俺は自分の得意なものというものを幼い考えからでも導くようになった。

 そんなある日、レインは突然こんな事を言い出した。


 「技名をつけよう」


 呆れる俺の横で、バレルは目をキラキラと輝かせていた。こいつはたぶん、レインの言葉なら何でもいいんだろうなって思った。今でもこの言葉の真意は分からない。確か、その場で尋ねた時は、「その方がかっこいいからだろ」とかそんな感じの答えだった。そんな入りではあったが、休憩中やその他の時間で技名を考える時は楽しかったことを覚えている。もしかすれば、こちらを楽しませるための配慮というものだったのかもしれないな、とかそんな事を考えてみる。

 ともかく、レインはこの時、俺に技術を使う立場を教えてくれたのでは、と思う。この時に体得した必殺技というものは多くの試合において俺の心の支えになったのも事実で、その点においては感謝以外の言葉を思い付かない。

 俺はレインに何か返せたのだろうか?

 多くの物を受け取った俺は、彼に何か一つでも出来たのだろうか?

 その答えはもう聞けない、そう考えるとどうしようもない虚無感に襲われる。どうしてもっと彼と会話をしなかったのだろう、そんな後悔が頭を過ぎる。

 もう考えても無駄なのに、それでも思わずにはいられない。

 後悔は先に立たず、なんて言葉を残した昔の人間がいるが、どうして彼らはそう分かっている筈なのにそうしないための方法を考えなかったのだろう。どうして俺はそれを知らないのだろう。

 せめて一言、俺は最期に話したかった。他愛ないものでもいい、無駄な会話で構わない。

 どうして、俺は?

 目の前にあるかつての情景を前にして、何かが欠けた事を思い出した。

 俺が後悔している事はこれだけなのか、と。


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