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神話を歩む旅の果て  作者: 粒燕
第一章 感染都市ヴァリエル
18/24

第十八話 対戦

******


 どんな生物にも弱点は存在する。そしてヴィルスもその例に漏れない事は、前回の戦いで確認した。俺は先ほどの観戦の間に拾った石を布に装着し、その両端に結んである紐を掴んで頭上で回す。


 そこだ。


 狙いをつけて放った石は、少し曲がって原初ヴィルスの目を穿つ、はずだった。狙い通り正確に放った石は、ヴ原初ヴィルスに当たる直前にあらぬ方向へはじかれる。


 「なっ……」


 あの時のヴィルスの拳の防がれ方と同時だ。そう思ったのも束の間、原初ヴィルスの視線はこちらを向いていた。咄嗟にその場から跳躍し離れる。その瞬間、先ほどまでいた場所の地面が爆ぜる。


 「ど、どうなってやがるんだよ……」


 どう考えてもヴィルスのそれとは物が違う。いや、これはある意味で最悪の予想になるが、


 「力を持ってるって事か……」


あまりこの事については考えたくはない。でも、そう考えるのが妥当な場面が多い。

 一方、アイラは原初ヴィルスの背後に周り、雷を纏わせた槍を背中に突き刺す。が、例に漏れずそれは原初ヴィルスに当たる前に何かにはじかれるような動きを見せた。

 作戦が無いわけでは無い。が、残念ながらそれは最初の時点で躓きを見せている。

 アイラと視線を合わせる。アイラが一度頷く。どうやらこちらの意図に気付いてくれたらしい。アイラはその場を撤退し、こちらに向かう。ただ、そんな隙を原初ヴィルスは逃そうとしない。幸いにもアイラに注目を向けているおかげで、もう一度投擲をする準備は完了した。


 「喰らえ」


 原初ヴィルスの後頭部を狙った一撃。それは当たる事は無かったが、一瞬こちらに注目を向けることが出来た。その間にアイラは近くに来ていた。その場でじっとしているわけにもいかず、走りながら簡易的な作戦会議を始める。


 「どうする?」


 と言っても、何か策があるわけでは無いが。


 「どうする……って。とりあえず弱点を探すしかないと思うけど」

 

 「それはそうなんだが……、弱点が無いというより攻撃がはじかれるんだったら意味が無い。それにあのはじき方はどう考えても力を持っているとしか考えられない」


 「そうね。流石原初ヴィルスって言ったところね」


 どうやらアイラもそれは察していたらしい。


 「関心している場合じゃないだろ……」


 「それでも力だって万能ではない。力を使えばその分体力は消耗する」


 「それまで耐えられれば、って話か」


 あの攻撃を耐える、しかもその時間がいつまでかが分からない。しかもあの力は自動的に発動すると考えてもいいだろう。ようは注目を逸らしつつ、隙を作って攻撃というのも無理だという話だ。


 「同時に攻撃をするっていうのはどうだ?」


 「同時に?」


 「物は試しって言う奴だよ。一回の出せるあの壁は一か所、そうだとすればまだやりようはある」


 「なるほどね。じゃあ私が後方から攻撃するから、ユウトは前方からお願い」


 「了解した」


 俺とアイラはまた再び二手に分かれる。先ほどから俺たちを追っていた原初ヴィルスが動きを止める。どうやらどちらに狙いを定めるかを迷ったのだろう。

 絶好の機会だ。

 アイラは原初ヴィルスの背後に回り込み、雷を纏わせた槍を放つ。それと同時に俺は腰の剣を抜き、突撃する。

 ほぼ同時の連携攻撃。

 アイラの攻撃がはじかれる。が、俺の攻撃は原初ヴィルスの手のひらで受け止められていた。どうやら壁を出せるのは一か所だ、そう喜んだのも束の間、剣が握られそれ事俺は持ち上げられ左右に振られる。頭が揺られ、意識が持って行かれそうになるが、ここで手を離したら最期だ。

 そう思った瞬間、身体から重さが消える。自分の身体が浮いている事に気付く。どうやら原初ヴィルスが剣から手を離したらしい。


 「しまっ……」


 身体が水面に叩きつけられる。速度があるせいか水面は普通の地面と比べても硬く感じた。

 身体中の空気が外に出る。 

 身体が沈んでいくのが分かる。必死にもがこうとするが、痛みのせいか身体が動かない。そのままゆっくりと水の中に身体を沈ませた。


 ******


 意識が曖昧だ。

 水の中、それだというのに苦しさすら感じない。それどころか身体が安らいでいくように感じる。

 このまま目を瞑っていたくなる。

  

 駄目だ。それは駄目だ。

 それをしてしまったら全てが終わってしまう。

 バレルに語ったあの言葉を嘘にするのか?

 倒して英雄になるんじゃなかったのか?

 頭の中にいる俺は必死に俺を鼓舞していた。

 随分と夢を見ているじゃないか、そもそもあれを倒せるような実力を俺が持っていなかった、これはそういう結末だ。

 それにここは神が人間に与えたと言われる由緒正しい泉だ。俺のような凡人が死ぬのならこの上ない死に場所では無いか?

 泉?

 そうだ、ここは泉だ。力が与えられる、力? そうだ、俺は力を手にしていたじゃないか。

 でもどうやって? どうやったら俺はあれを使えることになるんだ? どうせ負けるならせめて力を使って……、いや、力さえ使えればもしかすれば……。

 もう手遅れか……、いや、どうしてそう考える? どうすれば俺は……。

 何だよ、俺、勿体ないな……、というかさ、神がいるというなら今じゃないか? 今こそ力を貸してくれるもんじゃないのか? そんな都合のいいものこそが『神話』じゃないのか?

 まぁ、こんな時に神を頼る俺こそが、都合の良い考えか。

 でもどうしてか、まだ諦めたくは無かった。きっとまだ地上ではアイラが一人で戦っている筈だ。そんなの、一人に出来るわけがない。

 俺に、力があるというなら、今じゃないか?

 

 その瞬間だった。

 身体に力が湧く。どこからかは分からない。活力が全身に満ちる。

 先ほどの曖昧さが嘘のように、思考にかかった霧が晴れた。

 水中を蹴り上げる。その勢いは止まらず水面を越え、空中に飛び出した身体を制御し、何とか地面に足をつける。



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