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神話を歩む旅の果て  作者: 粒燕
第一章 感染都市ヴァリエル
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第十四話 思い出

******


 レインに憧れたのはいつからだろう。

物心ついた時から、俺はあの人の傍にいた。当時は育ててくれる大人、と言ったイメージが強く憧れの念というよりは頼れる人と言った方が近い。

そうだ、あの時だ。

 

 まだ学校に入ったばかりの頃、俺は途中編入と言う事もあって周りに馴染めないでいた。それどころか、俺は暴力のはけ口となっていた。

 それはそうだ。途中編入という異物であり、あの時の俺は何も知らないただの無力だった。そんな格好の獲物を力を持ち始めた人間が逃すわけが無かった。

 歯を食いしばった。涙を流さぬように痛みを堪えた。そんな日々がしばらく続いた。

 でも、俺の心に限界が来た。

 どうして俺が? どうして俺が?

 そんな感情が頭の中で反復し、俺は心配かけまいと話さずにいたレインに遂に話した。全てを聞き終えたレインは何も言わず俺の頭を撫でた。そして、


 「いいか、力と言うのは私利私欲に使うものじゃない。それは弱者を守る盾として、人として使うのが本来の形だ。それだけは忘れるなよ」


 と言ったが、レインも学校の中、子どもが考えている事は理解していたのだろう。もう一度俺の頭を撫で、俺に一本の木刀を渡した。


 「今日から俺はお前の親としてだけでなくお前の師として、お前に知識を伝授してやる」


 それから、レインを師とする時間が増えた。彼の指導のおかげもあり、俺は少しずつ自分自身を磨く事が出来た。そのおかげで自信がついた。

 そんなある日、俺は遂に学校で追い返す事に成功した。一対多数と言う事もありこちらもかなりボロボロだった。が、そんな俺を見てレインは笑顔で、


 「よくやったな」


 と言い、俺を力いっぱい抱きしめてくれた。本来なら褒められる事をしたわけでは無い。それでも、レインは褒めてくれた。

 それからしばらくして、レインの提案もありヴァリエルで開かれる大会に参加することを決めた。その当日、レインは一つ俺に助言をくれた。彼の言った助言はこうだ。


 「いいか、まずは相手の攻撃を確認しろ。相手の癖、相手の動作の前段階を分析しろ」


が、俺はそれを無視した。レインの助言の戦い方は言わば受けの戦い方だ。当時、自分の力を過信していた俺はそんな後手に出るような真似をしたくなかった。こちらが早く相手を倒せばいい、そう思っていた。今思えば、中途半端に力を持った餓鬼の愚かな過ちだが、当時の俺は自分の力を信じていた。結果は一回戦敗退、レインはニタニタとした笑みを浮かべ、


 「次は俺の言う通り戦ってみろ」


 と言った。

 そして次の試合、レインの助言に従うのは嫌だったが、前の試合に負けた手前、それを実行せざるをえなかった。

結果は優勝。最初は自分でも信じることが出来なかった。それでも、当時の俺でもその要因が分かった。相手の攻撃はいつも受けているレインのものと比べれば、遥かに単調で遅いものだった。自分から突進せず、その隙を見つけてしまえばあっさりと勝ててしまった。

 そこから俺は様々な大会に出場していった。そんな時期に、レインを『剣聖』と知っていたバレルが弟子入りを希望してきた。


 そうだ、この出来事だ。

 レインは俺に力を教えてくれた。俺に自信を、生き方を教えてくれた。自分の事を第一に考えてくれる親であり師である彼に、俺は憧れ始めていた。あのヴィルス討伐に行く日のあの場面も、今思えば雰囲気を暗くしないようにした彼なりの配慮だったのかもしれない。……いや、これは考え過ぎか。

 近しい存在で鬱陶しく思う事もあった。反抗したい時だってあった。

 それでも俺は、自分の家族として、自分の弟子として、俺を見てくれているレインに……。



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