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神話を歩む旅の果て  作者: 粒燕
第一章 感染都市ヴァリエル
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第十一話 月の下

******


 それから昼食が終わり、しばらくゆったりとしていると、アイラが今日は泊まっていけばいいと提案してくれた。理由は夜に近づくにつれて危ないという事だ。昨日のあの体験もあってか、真っ暗な檻の中を歩く勇気はない。更にアイラは帰るまで案内を兼ねて護衛もしようか、と提案してくれたが、どうも守ってもらうというのはプライドが許さなかった。と言ってももう既に何度も救ってもらった今の状態でそれは言えるものではない。

 それからしばらく子ども達の遊び相手をし、夕食の手伝いをした。その後、寝室で子ども達が寝たのを確認すると一人、椅子に座り、窓から夜空を見ていた。

 今、こうしている間もレインはこの檻の中で戦っているはずだ。確かに彼の周りには政府の準備した他の人間や機材があるのかもしれない。でも、たとえその場に立ったとしても俺はきっと戦う事は出来ないだろう。自分の弱さ、それを知ることが出来る経験がここ数日で何度もあった。

 それこそガイルに向かって自分は強い、と吐いていた俺が可愛く思えてしまった。あの時の自分は本当に無知だ。それこそ井の中の蛙大海を知らず、という言葉を残した昔の人間を尊敬してしまうほどに。

 ただ、それを少し前向きに捉える事も重要だろう。少なくともこの数日で自分が弱いという事を知ることが出来た。自分が強いではなく自分が弱いと思えることは重要だ。それだけでどうすれば強くなるかを考える時間が増えるからだ。それに、レインの教えを身に染みて感じることが出来た。一歩間違えていたら、それこそレインの教えを聞いていなければ俺もバレルの横で死んでいた可能性だってある。そう考えると、バレルには申し訳ないが生きていて良かったとそう思わざるを得ない。


 「まだ起きてたんだ」


 寝室から出て来たアイラがこちらを見ていた。


 「ちょっと眠れなくてな」


 半分本当で半分嘘の言葉を吐く。いつもと違う経験をしたせいで身体は興奮しているが、その分疲労も溜まっていた。


 「もしかして力の事を考えていたの?」


 「……そうそう。ちょっとね」


 本当は違うがその方向に話が逸れる方が良い。今考えていた事をまだ会って間もない彼女に話す事は躊躇われた。アイラは俺の隣に椅子を運び、それに座った。


 「……最初は悩んだ。まるで自分が化物になったみたいで」


 脈絡も無くアイラは話し始める。少し驚き彼女の方を見る。彼女は月を見ていた。その表情は柔らかかったが、どこか複雑な感情を抱えているようにも見えた。


 「でもね、ある人が教えてくれた。『君はあの化物とは違う。だって君はその力を自分のために使わず、人のために使う事が出来るからだ』って。私はその言葉に救われた」


 「だから私は一生懸命頑張った。でも、でも駄目な時もあった。私も、私も君と同じで、一つ後悔していることがある。だから私は、あの時の君にあんな事を言った。君と私を重ねて、君が癒されるような言葉を吐いた。私は君に、全く関係のない君に許しを得ようとしていた」


 そこまで言うとアイラは立ち上がりこちらを見た。それから何かを言おうとしたが、その代わりに笑っていた。


 「そう言えばまだちゃんとした自己紹介もしていなかったし、君の名前も聞いてなかったよ」


 そう言えばそうだ。俺は自己紹介をしていないし、彼女の名前を知ったのも子どもの口からだった。


 「俺はユウト」


 「私はアイラ。よろしくね」


  そう言って出された手を握る。そこでふと疑問が浮かんだ。


 「そう言えばどうしてあの場にいたんだ?」


 バレルの遺骸があった場所、どうしてあそこにいたのだろう。偶然にしても出来過ぎている気がする。


 「……あの時、店で働いた帰りでね。いつも使う穴の前にあなたがいたから。妙に神妙な顔をしていたからこれは何かあるなと思って、そしたら案の定って事」


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