海辺の町
前回は師父の思いを泰己に伝えていましたが、今回は二人でお出かけの回です。二人はどこに行くのでしょう?
哪吒が訪れた日から、師父は俺をよく連れ出すようになった。俺は暇をしていたし、師父と一緒の時間が増えて嬉しかった。
今日は前に行った街とは違い、海辺の町へと来た。海は見えないが潮の香りを風が含んでくる、俺は久しぶりの海を感じた。
町では多くの子供達が外で遊んでいて、家並み白い壁が多く前の内陸の街とは違う文化を感じる。そして気のせいか全体的に色褪せて見えた。
「もしや貴方は老師様でしょうか?」
柔和で上品そうな男が声を掛けてきた。師父は一瞥を返し、厳かな声で答えた。
「お主か?ここの郡史は。」
男は中央から派遣され海辺の町を治めている官吏だと言う、師父と待ち合わせをしていたらしい。
「この度はご足労いただき申し訳ありません」
「挨拶はよい、件の家は?」
「どうぞ、こちらでございます」
師父と俺は男の後を付いて行く、少し歩いた先に立派とは言えない東屋があった。
「ここでございます」
男は先立って家に入っていく。
「おい、こちらに高名な仙人が来られたぞ、意識はあるか?」
中には夫婦がいた。男は病床なのか床に伏し、目は空を見つめ口元はカチカチと歯を鳴らしていた。女には涙の跡が見えた。
「今年は多く、この家で六件目でごさいます…
官吏の話では、これまで海辺の町は何度か厄災があった。
夜更けに扉を叩くの者が来る、それを開けてしまえば押入られ全員が殺される。遺体は食い荒らされたのか持て遊んだのかわからないほど損傷が激しかった。
始めの頃は名家や商家が襲われており、動物を使った夜盗だと思い、夜間の警備を増やした。しかし今度は普通の庶民の家が襲われるようになる。警備の手を伸ばしても影も形も見当たらない。
事件が重なってから官吏は、民へ厳重な家の施錠を命じ、夜の間の外出と扉を開けさせるのも禁じた。
しかしそれでも夜に出歩き、扉を叩く者がいる。
扉を開けず、中に籠っていると外から声が聞こえてくる。「入りたい入りたい…」子供の声だ。それでも開けずに籠っていると「はぁはぁはぁ…」と大人の男の息が聞こえる。
それは扉を叩くだけでなく壁も叩く、家を一周するかのように叩く。「入りたい入りたい…」「はぁはぁはぁ…」二人の声とドンドンと壁を叩く音も聞こえる。そして家屋の隙間や開けていた窓から入ってくる。中に入ってきたソレは家人を全て殺すのだ。
隠れ生き延びた者が見たソレの姿は、大きな黒い影であったり牙が見えたり爪が見えていたのだと言う。
官吏は恐れをなして町だけでなく海辺も見回りするように命じた、人でない者が海から来ていると考えたのだ。
海の見回りを始めてからわかった事があった。
夜の海で水平線が光るのだ。その光はチラチラと動き人を誘うように見える。
海でその光が出ると必ず化け物が出た。
それが年に二、三度あり、もう何年も続いている。
「町から移転する者も増え、他の者達も夜までに移動し別の町を寝床にする者も増えました。今、伏しているこの男は家で一人でいる時に化け物に襲われたのです」
男は仕事で遅くなり、家を厳重に締め寝た。年に何度という頻度でもあったので油断もあった。夜に化け物が訪れた。
男は話を聞いてたので、すぐさま隠れ、生き延びたそうだ。
「化け物が来た家には、生き延びた者がいても病に倒れ、いく日もせず亡くなります」
官吏は病床の男を見てため息をついた。
師父は男のそばに寄り、男の体の上空に手を伸ばした。師父の袖から素早く黒い影が飛び出た。見えたのは俺だけだったのか、誰も何も言わなかった。
「今、臭いを追わせた。男は助かるであろう」
師父は立ち上がり早々に出た。俺が後ろを振り返ると「あんた!助かるって!死なないって!」女が男に縋り付き叫んでいた。
官吏は師父の後を付いて来た。
「この度はありがとうございます」
「まだ終わっておらぬ、これから終わらすのだ。終わればまた伝えに戻る。」
師父は官吏に言うと俺を抱え雲に乗り、空へ上がる、外はもう夕刻だった。
ここまで読んでくださりありがとうございます、海辺の町で二人は何を見つけるのでしょう?
次回更新も明日の夕方予定です。
ブクマありがとうございます!
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