花の精
前回は妖怪退治に着いていった泰己、今日は家でお留守番していましたが……小説の封神演義や西遊記でも有名な彼が出てきます。
師父と洞穴の件が終わってからも、師父はほぼ毎日のように家を空けていた。
まだ全てが終わってないのだろうか。
せっかくだから一人でいるときに掃除でもしようと思ったが、師父は仙術で終わらせていたし、食事の用意に挑戦しようにも台所が無かった。
いつもの食事はどうしているのかと師父の様子を覗いていると、なにやら怪しい箱から次々と出来立ての食事を取り出していた。
俺と師父が住む家では家事は全て仙術で整えられていて、俺がする事は何もなかった。
師父には言ってないが、俺が麓の村に降りる事は減っていた。俺と遊んでいた子らが成長したらしく遊ぶ事は減り、会えなくなっていた。
もう一つの理由に洞穴での件を知ってから、師父が大変な仕事をしていると察したし、師父を出来るなら手伝いたいと思っていた。
家事は必要がないのなら俺は何をしたらいいだろう?
俺は彼の役に立ちたかった。
道だとか仙人だとかの知識があれば話がもっとわかるかもしれないと、家の中の巻物や本を探して見たが、当然のごとく全て達筆の漢文だった。理系だった俺は達筆過ぎる文字も返り点や書き下し文が付いてない漢字の羅列も解読出来なかった。
そんな俺でも何かできないかと日々探している所だ。
◇◇◇◇
外から声が聞こえてきた、何年も住んでいるが、この家に客が来たことはない。師父がこんな時間に帰ってきたのだろうか?珍しい。
表へ迎えに出ると師父一人では無かった。
師父の後ろ姿の前に息を飲むほど美しい人がいた。今の俺より年上の少女だろうか?薄い桃色の肌に色鮮やかな艶やかな鎧を着ていた。もし花の精がいるとしたら、あんな人なのかもしれない。
俺は思わず隠れた。
「いい加減、会わせろよー」
男の声?彼女は美少女ではなく美少年だったのだろうか?嫋やかな顔からは想像が付かない雑な口調だった。
「うるさい、何度も言わせるな。各々の機があると言ってるだろう。」
「はい、はい、まどろっこしいなぁ!」
「それほど彼が持ち帰ったモノが我らにも世にも大きいんだよ、察しろ」
「わかってるよ」
「あとね、言っておくけど僕の名はここでは清源だからね?呼ぶなよ?」
「へーへー過保護だな、どうせわかりゃしないのに、構いすぎて嫌われたりしてねぇの?」
「するか、馬鹿。」
師父の口調もいつもと違っていた。粗野というか若々しいというか、彼の前と俺の前ではまるで別人のようだった。
「ん?誰だ、そこにいるのは?」
美少年に気づかれた。
「はじめまして、ここに住んでる泰己です。」
見つかって決まり悪かったが、隠れていた所から出て自己紹介をした。師父と仲の良さそうな美少年が気になっていたからだ。師父を見ると虫でも噛み潰したような顔をしている。俺がいては不味かったのだろうか?
俺は軽くお辞儀をして去ろうとすると
「君が泰己?」
美少年がニヤニヤしながら寄ってきた。
「可愛いなぁ、俺は清源と仕事をしてる哪吒だよ」
「ナタク?」
「おい」
師父が間に入ろうとしたが、哪吒はそれを手で止めた。ナタク、どこかで聞いた事がありそうな名前だ。
「まぁまぁ、泰己は可愛いし俺より小さいし!俺の事は兄貴と呼んでもいいぜ!」
期待に満ちた笑顔で俺にグイっと顔を寄せた。
「あ、兄貴?」
俺には兄弟がいないので新鮮な呼び方だった。距離を寄せられた驚きで何度か目を瞬きする。
「くぅーーー可愛いなぁ!こんなの独り占めしてたのか!狡いぞ!」
「うるさい、用が無いなら帰れ。」
「まぁまぁそう言うなよ。」
哪吒は俺を軽々と抱き上げる、少年だと思ったが逞しいようだ。
「折角だしさ、俺と一緒に遊ぼうよ」
「遊ぶ‼︎」
最近、相手がいなくて遊んでない俺は自分でもわかるほど声が弾んだ。
「よし決まりだ!泰己を借りるぞ!」
「おい、待て!」
師父の制止も聞かずに哪吒は俺を抱き上げたまま飛び出していった。
いつもの師父より何倍も早く飛んでいる。哪吒の足には師父のような雲がなかった、代わりに火をまとった車輪が回っていた。
「足痛くないの?火傷しないの?」
「あははは、そんな質問は初めてだな!俺は強いから大丈夫だ!」
強いからと火傷をしない物なんだろうか?仙人の判断がわからなくて、俺はそれ以上の質問をやめた。哪吒は本当に楽しそうに顔を輝かせていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
哪吒初登場です!本当はナタと読むそうですね、ナタクだと漢字が出てきません。前回と打って変わって明るいお話になってます。
次回更新も明日を予定しています。また読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。