白い手の行方
泰己が見た夢の中の白い手、師父はそれで道を出来たと言うけれど…
師父が言うには、俺が夢で見た白い手は魂魄で来ていたらしい。まだ気配が俺に残ってる、と。
「壺と仕掛けを壊した上で泰己を襲って来よったからの、正体を見られたとよほど慌てたのであろう」
行き先は険しい山で、雲にでも乗ってなければ、たどり着けそうもない場所だった。濃い霧がかかり周囲がよく見えない。
師父は額を光らせ目の模様を出した。
跡を見つけたのか、草木を掻き分けて進む。
入り口を木々の根に隠れていた洞穴を見つけた。師父はそのまま洞穴へと入っていく。薄暗い洞穴の中、師父は杖の先に明かりを灯し、奥へ奥へ進んでいく。
俺は師父の服の裾を持ち、後ろを付いていく。怖いなら外で待っててもいいと言われたが、一人でいる方が怖かった。
入り口からの光も途絶え暗闇の中、師父の杖先の灯を頼りに歩く。
俺は益々怖くなって、師父にしがみついて歩いた。
しばらく歩くと洞穴が終わったのか突き当たりになっていた。
「ここじゃな」
師父はそう言うと明かりを灯した杖を俺に渡し、槍を出した。
軽く撫でるように、突き当たりの大岩を切り払う。岩は最初から半分だったかのように分かれ開いた。ズズズズッ
不思議な事に岩がズレても洞穴は崩れず、更に奥へと入る道を見つけた。
「うわっ」
俺は恐ろしい物を見つけて声を上げてしまった。
そこには大きな木箱が立て掛けられており、蓋は縦半分に裂かれ中から干からびた手が見えていた。
師父は俺から杖を受け取り、大きく火を出し、棺桶ごと木乃伊を燃やした。
『ギャァアアアア』
壺を壊した時と同じ、それよりも大きな声が響き渡った。
「終わったぞ、出ような」
俺は雲に乗る師父に抱かれながら説明を聞いていた。
「あれは本来ならば尸解仙と言ってな……
仙人になるにはいくつかの方法があって、その一つに死んでから仙人になる「尸解」と呼ばれる方法がある。尸解は死体になってからも腐らず生き返り仙人になったり、死体が消えて仙人になったりする。その方法をとって仙人となった者を尸解仙という。
「あの死体は干からびていたよ?」
「あれは尸解はしたのだろうが、途中で乗っ取られたのであろう」
「乗っ取り?」
尸解は体と魂魄の境目が見えやすくなるらしく、それを狙って仙人となるべき魂魄を喰い、己の身の内に入れてしまうモノがいる。
「妖怪って事?」
「いいや、アレは妖怪ですら無い」
師父は一度その思考を読み取るため、俺と同じように水の甕に入れたが、出てきたのは溢れるばかりの嫉妬と欲望。その欲もひたすらに欲しがるばかりの喚きで意味を成さないモノだった。
「子供を欲したのは尸解した者であろう」
ここからは師父の想像だと言っていたが、喰われた尸解仙は子供達への愛情があり記憶があったのだろう、と。
それを名もない化け物は欲して子供を殺し続けたらしい。
「妖力を得るために子供の魂魄を喰うのではない、己の欲もそれ以外の者の感情も全てが混ざり、浅ましく醜く濁るのだ。喰らった者が記憶を無くせば記憶を欲しがり、体を無くせば体を欲しがる。そのような妖怪はおらぬ」
師父は珍しく眉間にシワを寄せ口調も厳しかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。クリスマスの深夜にホラー仕様な投稿になってしまいましたが、楽しんでくだされば幸いです。
次回更新は本日の夕方の予定です、次回は明るいお話になります。中国仙界の有名人が登場します、次回も楽しく読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。