壺の中身は
師父が壊した壺から人ではない叫び声と木を裂くような音が聞こえた泰己。師父は不思議な言葉を言っていて……
師父は隣室にいた主人に壺の中身を払った事をいい、俺を連れて外に出た。
「さてさて、これだけでは可哀想だの」
師父はそう言って、俺の手を引いて街を歩き始めた。最初は気後れしていた俺も、村では見れない街並みや珍しい店や珍しい物を見るうちに楽しくなってきた。
「師父ー師父ー!あれなぁに?」
「アレは飴かの、食べたいか?甘いぞ」
「食べたい!あ、あれは?」
「あれは杏じゃ」
「おいしいの?なら食べたい!」
俺はねだって両手にいっぱいのお土産を買ってもらった。俺は笑いが止まらなかった。
「うふふふふ」
「嬉しそうだの」
「うん、師父いっぱい買ってくれてありがとう」
「よいよい、怖い思いもさせたからの」
俺は気になっていた事を訪ねた。
「ねぇねぇ、さっきの壺壊れる時の音、変だった。」
「どのような音がした?」
「バギバキバキ、て」
「まるで木が割れていくような、か?」
「うん…」
壺は陶器で出来ていた。でも俺が聞いた音は師父の言うように、木を無理やりに裂いたような音だった。
「さきほどの壺、黒い靄が見えたと言ったな。他にも何か見えていたのか?」
俺は自分が見たままの黒い靄と無数の白い手を伝えた。師父は髭を撫でていた。師父が考え事をしている時の癖だ。
「ふむ…早めに手を打たねばな…」
師父は色々考えているようだった。
「あの壺はの、さきほどの家にいた方士の家に持ち込まれた物だ。」
「方士?」
「方術を使う者達の事よ」
さっきの家の主人は方術を使う人で、あの壺のような良くない物を払ったり封じたりするらしい。
あの家で見せられた壺は、方士の所に来るまで色々な所を転々とし死人を増やしてきたそうだ。
「死人…」
「お前が気にすることでは無い。そろそろ帰ろうか、日が落ちる前にな」
師父はそう言って俺を軽々と抱え上げた。
◇◇◇◇
街から帰ってきた晩、俺は奇妙な夢を見た。
屋敷で見たうっすらとした白い手が、はっきりとした手となって数を増やし、一つの生き物のように地を這って、師父と俺が住む家の前まで迫ってきていた。
それはまるで川が増水したように荒れ狂って、少しでも高い所へと襲って来るさまに似ていた。
見つかった
俺は夢の中でそう思った。
白く伸びた手が夢の中の俺を捕まえようとした時。
カンッ
高い音が響いた。
俺の隣には鎧を着た青年がいて、彼が何かで床を叩いたようだった。
白い手は引く波のように、ぞわぞわと離れていった。
追い払ってくれた青年は俺の方を向いた。
『何も思い煩う必要ないよ、僕が側にいるから』
青年の顔は見えなかったが、俺は安心して意識を手放した。
◇◇◇◇
朝起きると師父はいつも通り俺より先に起きていた、朝餉を食べながら考える。
昨夜の夢はなんだったんだろう?妙に生々しく夢の中で音や気配があった。
俺は師父に報告する事にした。
「なるほど、また繋がっておるのだな。」
やはり夢は昨日の壺が関係しているようだ。
師父曰く、
壺は元々ある商家に持ち込まれた物で、なんの封もされておらず、中身は古銭が山と入っていた。売りに来たのは身元もわからない男だったそうだ。
その夜、商家の子供が皆死んだ。
最初は夜盗が現れたのかと思ったが、しかし子供の他は誰一人殺されてもおらず、毒に当たった様子もない。昨日と変わった事といえば壺だけで、改めて壺の中身を確認すると、古銭で満ちていたはずの壺は、人の髪と爪がずっしりと同じ重さほど詰め込まれていた。
死んだ商家の子供達は、髪も爪も切られてはおらず、壺の中身がどこから得られた物なのかもわからなかった。
その後、恐ろしくなった商家の主人が方士の所へ持ってきた、という話だった。
方士が調べると似たような話が他にもあり、壺の中身はその度に変わっていた。
商人の家では古銭、農家の家では種籾、雨の降らぬ村では水。一晩経てば別の物になっていた。
そして共通していたのは子供が夜に死ぬ事。
悲しみ怒り狂った親が壺を割ったり捨てたりもしたが、またどこかで壺が持ち込まれ、子供が死ぬ。
何度もそれが繰り返されて来た。
「壺をどれほど壊そうと意味はないのだ。仕組みを作った者がいる、子供の魂魄を盗み喰らい続けている者がな。」
師父はそういうと俺の頭を撫でた。
「泰己、お前を試したような形になってしまってすまなかった。しかし、そのおかげで道が出来た。今から向かうぞ」
師父は俺を抱え上げ雲に乗った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。ブクマすごく嬉しいです!ありがとうございます!
次回更新は深夜を予定しています。
読んでくださる方へのクリスマスプレゼントです、少しでも楽しんでくだされば嬉しいです。
皆さまがハッピーなクリスマスを過ごされますように。