青空
最後の章が始まりました、師父を主人公としたお話です。
僕が産まれた時、天帝も喜ばれたと聞いた。
三清の一人である太上道君から「この子は優秀な将になる」そうお墨付きをもらったそうだ。
◇◇◇◇
僕の母は天帝の妹で、天帝は僕の伯父に当たる。天帝がおわす紫宮は珍しい物や来客も多く、僕にとっては楽しい場所の一つであった。
今日もあの方はいらっしゃるだろうか?共にきた母を置いて僕は庭園を駆け足で探した。
いた。
いつものように四阿に座っている、あの方はよくモテていて、文官、将官、仙人、神々、女仙、女神、常に誰かしらと会話していた。
今日も何かがそばにいる。白い牛の形、腹には目が描かれてる、白鐸様だ。あの図体で遠目からでもすぐにわかる。政治談義にでも花を咲かせているのか。
「おや、小さな随身がやってきた。ふふ、またまた怒ったようなお顔をしている。そろそろ私はお暇しよう」
走り寄ってきた僕を見つけ、白鐸様は白い体を揺らし、宙に浮いた。
「楽しいひと時でした、またお話しましょう」
「ええ、私も楽しい時間でした。いずれまた」
二人は別れの挨拶を交わし、白鐸様は去っていかれた。
「どこにいたのですか!探したんですよ!」
もう離すまいと腰に抱きついた。
「はは、今日も遊びに来たのか。ここはお前の遊び場だな」
腰にしがみついた僕を抱き上げ、顔を見合わせた。スラリとした立ち姿、涼やかな顔立ち、聡明さと慈愛が現れる仕草、穏やかで優しげな声、燐光を放つ白い肌。濃紺と鮮やかな青で彩られたキレイな瞳。彼が僕の大好きな太上道君である。
僕は彼の首に抱きついた。
「ねぇねぇ道君さま、今日もまたお話を聞かせてください」
「さてさて、どんな話をいいか。お前は何が聞きたい?」
「前に聞いた五帝の禹のお話がいい」
甘えてねだる。彼は色々な話を知っていて、どんな話も僕にわかりやすく聞かせてくれる。話し上手な彼との会話を、みんなも楽しみにしているのは知っていた。それでも僕は少しでも長く独り占めしたかった。
「ねぇねぇ白鐸様とどんなお話をしていたんです?」
「三尸の上尸が及ぼす、身体の病について、だな」
「ふぅん」
「ふふふ、お前には難しかったな」
頭を撫でられる、僕は不満そうな顔をしてたらしい。彼は僕が不満だったり不機嫌だと判断すると、頭を撫でてたり抱き上げたりして、いつもあやしてくれる。昔からだ。
「一緒にどこか出かけるか?」
「はい!」
女官に声を掛け、母へ言伝を頼み、道君さまは僕を抱き上げて紫雲に乗った。
「どこへ行きたい?」
「海!」
僕は海が好きだった。濃紺と青が混じった色、空も海も同じ色、大好きな彼の色に囲まれる。
「もっと速く行きましょう!」
「ゆっくり周囲を眺めるのも楽しいぞ」
本当はもっと速く飛べるくせに、彼は僕と一緒だと全てを優しく穏やかにしようとする、子供扱いし過ぎだ。僕だって変幻の術を覚えてきたし、もっと速く雲に乗れるのに。
「どうした?また拗ねているのか?」
「すねてなぞおりません。道君さま、僕はもう大きくなりました。いつまでも子供扱いはイヤです」
「ふふふ、子供扱いは嫌か。ならば私と話してる相手を睨んではいけないな」
「にらんでましたか?」
「ふふふ、無自覚だったか」
自覚のなかった目付きを言われて、決まりが悪かった。
ほどなく海に着いた。
青い海辺でかけっこしたり砂遊びをしたり、道君さまも砂まみれになりながら「童心に返る」と言って、嬉しそうに僕と一緒になって遊んでくださる。僕にとっては道君さまを独り占めできる楽しいひと時だ。この時間がいつまでも続いてくれたらいいのに。
◇◇◇◇
今日は僕の初陣。
青城山の都江堰、その川奥に妖怪が住み着き、利水工事が進まないのだと言う。治水工事の一環でもある妖怪退治だ。
いつもより重く感じる武具。冷えてしまった自分の手足。緊張が無いと言えば嘘になる、初めてなのだ。
大丈夫。一人では無い。
僕と共に手練れの部下達も付いてきている、深呼吸した、後ろから視線を感じる。
振り返り少し見上げれば、青空の中、あの方がいた。
城壁に立ち、僕達を見送ってくれている。目を凝らせば、瞳の色まで見える。どこまでも澄んだ青空の瞳、深く深く全てを受けて入れてくれる海色の瞳。
見送りに来てくださった。
嬉しくて微笑んだ。
もう負ける気はしない、僕にはあの方が付いているのだから。
ここまで読んでくださりありがとうございます、短めの始まりで、師父の幼少期から始まりました。太上道君が大好きな真君、昔はわかりやすく素直な子でした、今も一切ブレてません。この章は三部の予定です。
次回更新は明日の夕方を予定しています。また楽しんでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。




