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爺さんの昼の顔

ゆっくりとした時間を過ごし、村の子供達と遊び、お爺さんとも仲良くなってきた主人公。

主人公は精神的にゆとりができて来ました、彼は次に何をするのでしょうか?

次の日も次の日も俺は村で遊んで楽しい時間を過ごした。雪が降る季節があって、それが二回過ぎた頃、俺はようやく落ち着いてきた。

俺は遊び以外の事にも目が向くようになってきた。


いつも何をしてるんだろう?

毎日、昼間に出かけている爺さんが気になるようになった。


「爺さんはいつもどこに行ってるの?」

「気なるのか?」

「うん」


爺さんはいつも俺の世話をしてくれて、甘えさせてくれて、何かあれば助けてくれる。俺は爺さんの色々な事が知りたくなっていた。


「ほっほっほっそうさな。気になるのであれば、明日は儂に付いてくるか?」

「うん、行く!やったぁ!」


俺はお出かけにはしゃぐ子供のように喜んだ。

一緒に寝る布団の中で俺は浮かれて話しかけた。


「爺さん爺さん、明日はどこに行くの?仙人友達の所?」

「ほっほっほっそれなら楽しいのだがなぁ」

「楽しくないの?」


少し不安になる。


「楽しいか楽しくないか、それはわからんが。どれ、今夜はお前に(タオ)の話を聞かせてやろう。」

「タオ?」

「そう、道は生きる者すべてにあるものよ。そして仙に通ずる道でもある。道は流れであり真理であり(ことわり)だ。言葉で学ぶのではなく己の中に見つける物であり、万物に宿る物だ。仙は道と一体となった者を指す。」

「お前が己を真の意味で知っていけば、仙となるための仙骨も錬丹術も不必要だと知るだろう。」

「……ふーん」


俺は半分以上意味がわからなかったが、俺が仙人に向いてなさそうな事はわかった。

真の意味で俺が俺を理解したら、仙人は目指さないのかも知れない。爺さんは俺以上に俺の事を知ってる気がした。

俺はずっと気になっていた事を聞いてみた。


「爺さんは仙人でしょ?どうしてご飯一緒に食べるの?カスミとか食べるんじゃないの?」

「ほっほっほっ仙人は不老不死と言われておるからな。人から仙になるには色々な法があってな、錬丹術や辟穀(へきこく)というのがあって………


俺は話の途中から寝ていたらしい。朝に起きて同じ質問をすると「お前と食べるのが楽しいから」とシンプルな答えをもらった。

俺はその言葉で爺さんから好かれているような気がして誇らしくて嬉しかった。


「今更ではあるが、お前の名は?人前に出るのに名を呼べぬのは不便だからの。」


爺さんが用意した朝餉を一緒に食べていると名前を聞かれた。


「俺の名前はヤスオカタイキだよ。」

「字はなんと書く?」


指で書いて伝える、手が小さくて書き慣れない。

《安岡泰己》

爺さんは目を細くしていた。


「ほっほっほっ良い名だな」

「へへへ」

「泰は安らかに大らか、己はおのれ…良い名だ。」

「ふふふふふ」

「お前はこれから人前では泰己と名乗るがよい」


名前だけなのに爺さんはいっぱい褒めてくれる


「ねぇねぇ爺さんの名前も教えて?」

「儂は名が多くてな……今は清源とでもしておこうか。」

「わかった。俺、セイゲンさんって呼んだ方がいい?」

「いいや、泰己は人前では儂を師父(スーフ)と呼んでおけ、その方が都合が良いからの。」


仙人にも二つ名があったりするんだろうか?ちょっとカッコいいな。爺さんの事はスーフか。俺は仙人には成れなくても爺さんとずっと一緒にいたいな。


後から漢字と意味を知って、あれ?俺はいつの間に弟子入りになってたの?と聞くのは、また別の話。



◇◇◇◇



お出かけの朝は晴天の空だった、師父に抱っこされて雲に乗り、村を過ぎ山を過ぎた。こんなに遠出をするのは初めてだ。


「どこに行くの?楽しい所?楽しくない所?」


何度も同じ質問をしてしまう。


「ほっほっほっどうであろうな」


師父はそれきり教えてくれない。


街についた。村では見た事もない赤い瓦屋根の二階建ての家や、鮮やかな赤い提灯が数多く屋根からぶら下がっている。歩く人達も多くて着ている服も違う。祭りでもない様子なのに全てが華やかに見えた。身も心も村に馴染んでた俺は少し気後れしてしまった。

街を歩いて大きな屋敷に向かう、門前で人を呼ぶ。


「主人から聞いております、よく来てくださいました。奥で主人が待っております、どうぞ」


使用人らしい男に案内されて中に入ると、奥から恭しく頭を下げて挨拶してくる人がいた。威厳がありそうな大人の男だ。街の人達とも村の人達とも違う服装をしていた。


「よくぞいらっしゃいました、老師」


俺はここにいるのが場違いな気がして落ち着かない。主人が俺に目を向ける、俺は師父の後ろに隠れた。


「こちらの小さき人は?」

「故あって預かっておる、今日はこの子にも見せようと思ってな」

「わかりました」


師父はここでは偉い人らしい、俺は静かに待つ事にした。

更に奥の部屋に案内される。入った部屋は窓も無いのに妙に明るい部屋だった。


「見ていただきたいのはこちらで…お気をつけ下さい、我が家でも封を施しましたが、まだ暴れます。」


見ると、びっしりと札が貼られた人の頭ほどの大きさの壺が机に置かれた。暴れる?俺は益々師父の後ろに隠れた。


「これこれ、そう隠れていては見えまい。泰己も見てみるがよい。」

「だって、それ、黒いモクモク出てる。」


俺の目には、その壺から黒い靄が出ていて、札の隙間という隙間からうっすらとした白い手が無数に動いていた。


「ほぅ見えておるのか?」

「うん……」

「主人、人払いを」

「わかりました、私は隣室で控えておりますので…」


ここの主人は師父と俺を残し部屋を出た。


俺は掛け軸の中に入る前から霊感というか、そういう物は何度か見た事があった。

見えないふりをする、逃げる。怖くてそんな対処しか知らない。そういう物と俺は関わりたく無かった。


「まぁ見ておいで」


師父のおでこの一部が光った。

ビームだ!ビームとか出せるの?仙人すげぇ!

俺はときめいた!

光が終わると、師父のおでこには目の様な模様が描かれていた。

ビームじゃなかったみたいだった。


「ふむふむ」


おでこの目は色々見えるようで師父は一人で頷きながら壺を観察していた。


「潰した方が早いの」


師父は腕を伸ばし、何もない所でクルリと手を回すと槍を出した。

何あれカッコいい!!!俺は今度こそときめいた。

槍は少し変わった形で先の方が三つに分かれていた。その槍で何も無い壺の上を、切るように薙いだ。


『ギャァアァァア』

バギバキバギバキバギバキバキ


俺は耳を塞いだ。

明らかに人の声で無く、明らかに壺が割れる音ではない音が聞こえた。音が止むと、札がべったり貼られていた壺が、札ごと綺麗に縦半分に分かれていた。中身は空だった。


「恐ろしかったか?」

「うん、人じゃない声だった。こわかった」

「人では無かったか?」

「うん、アレちがう。」


俺は師父の服の裾を握りしめた。師父は俺の頭を撫でた。


「シカイセンのナマナリ、これから動くか」


師父は何か難しそうな事を言っていた。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。ちょっとおどろおどろしい怖い話になってきました。楽しんで読んでくださってるでしょうか?

次回更新も明日の夕方予定です。また読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。

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