村娘
仙界にて雲に乗り、番外編の短編です。本編では一切でてこなかった彼女のお話です。
私の住む村の山には仙人様がいる。
子供が好きな仙人様だから、山の麓で騒いだり遊んでいても叱られたりしない。でも悪さしてはいけない。
親からはずっとそう言われてきた。
◇◇◇◇
「どこからきたのー?小さい子ねぇー」
「あっち!」
ミーファンが私達より小さい子を見つけた。
「あー向こうの村?」
「どうしてここに来たの?」
「あそんでこいって」
「じゃ遊ぼ!」
みんな知らない子が来ても気にしない、一緒になって遊ぶ。今日初めて見た子は、真っ黒な髪に利発そうな顔をしていた。みんなに可愛らしい笑顔で愛想よくニコニコ話しかけている。人見知りしない子だなぁ。
「キャーーー!」
「あははやったなぁぁ」
落ち葉で葉っぱの掛け合いをする。
木登りしたり、木の実を集めたり、石蹴りしたり。たった一人が入っただけなのに、同じ遊びがいつもより楽しい。この子がとっても楽しそうに大声で笑うから、喜ぶ顔が可愛らしくて、ついつい嬉しくなって、みんな張り切ってる。
「そろそろ夕方だね、おーしまい」
私が大声をあげる、年長者の私の仕事。遅くなりすぎると私が怒られちゃう。
「レイレイ、きょーもうおしまい?」
あの子が可愛らしく首をかしげて聞いてくる。
「そうだよ、もう帰らなきゃ。真っ暗になっちゃうよ」
この子はまだ遊びたかったみたい、しぶしぶだったけど笑顔で私達に手を振って、私達とは反対の道に帰って行った。
あれ?私の名前なんて教えてないし、間違えてる。私の名前はリンファなのに。
「変な子だったねー」
「いっぱいお話ししてくる子だったね」
「オレのことトーファって呼ぶんだぜ、オレはタオリーなのに」
「そうだね、私のこともレイレイって」
みんな顔を見合わせた。
「「でも可愛い子だった‼︎」」
みんなハモった!大笑いして家に帰る。今日は楽しい日だったな。またあの子と一緒に遊びたいな。
◇◇◇◇
家に着いてご飯の支度を手伝う。今日あった事をお母さんに話した。
「今日、山向こうの村から子供が来たのよ、変わってたけど可愛い子だったの」
「あらそれは良かったわね」
「私の名前をね、レイレイって呼ぶのよ」
お母さんの手が止まる。
「山向こうの村?レイレイ?」
お母さんの顔が険しくなった。
◇◇◇◇
美味しい晩御飯のはずだったのに、お父さんお母さんとおじいちゃんが集まって小声で話してる。
「そんなはずないだろう?山向こうの村には子供はいないはずだ」
「レイレイって私のお母さんの名前よ?たまたまかしら?」
「わからん、山の妖怪か?」
「それなら仙人様が退治してくださるはずだ。今は悪さもしてないようだし」
私はあの子の事を好きになってたから、みんなからあの子は妖怪かもしれないと言われて、どうしたらいいのか、わからなくなってた。
下の変な空気に気がついたのか、上の階から杖つきながら、ひいばぁちゃんが降りて来た。足が悪くてめったに降りて来ないのに。
「その子は山の妖怪なんかじゃないよ」
みんなに断言して私に振り向いた。
「真っ黒な髪で賢そうな子だったかい?」
「うん」
「その子はね、仙人様の子だよ。わたしゃ昔、仙人様が子供を抱っこして雲に乗りなさるのを見たからね。リンファ、お前のおばぁさんはね、その子と遊んだ事があるんだよ、とても素晴らしい巡り合わせなんだよ」
仙人様の子!あの子すごい子だったんだ!
ひいばぁちゃんは私の頭を撫でた。
「お前も素晴らしい巡り合わせに会えたね。お前がおばぁさんに似てるから、間違って親しくしてくださったんだろう。他にも名前を言っていたかい?」
「うん、トーファって…」
「懐かしいね、トーファは三軒向こうの子だったよ、もう随分と前に村から出て行ったけどね」
今日、間違われてたタオリーは、三軒向こうの家と親戚だ。そうか、あの子は私達を前に遊んだ子達だと思って、仲良く話かけて来たんだ。
「天界の一日はわたしらの一年と言うからね、生きてる時間が違うのさ」
少しだけ切なくなった。もういない人達と間違われたからか、あの子ともう会えないと分かるからか、両方なのか。私にはわからなかった。
◇◇◇◇
念入りに髪と肌の手入れをする、いつもより高めの香油を差して丁寧に塗り込む。
「昨日はしっかり眠れたかい?そろそろ着替えないといけないよ」
お母さんが声を掛けてくる。毎朝聞いてた声も、もうすぐ聞けなくなる。
「うん、大丈夫よ。そろそろ着替えるわ、お母さんも手伝って」
何年も前から色とりどりに刺繍してきた着物に腕を通す。村の女の子が一度は憧れる花嫁衣装。
17歳になった今日は私の結婚式だ。
結婚相手は隣村の人で親同士が決めた。
仙人様の村から嫁が来ると、向こうでは評判らしい。私は何も出来ないんだけど、変な事を言われなきゃいいな。
相手の顔は一度だけ見た、真面目そうな優しそうな人だった。タオリーが彼に話しかけて私のためにどんな人か調べてくれた。
「悪くない奴だと思うぜ、ちょっと緊張してたよ。奥さんになった子は大事にしたいって、昔からそう思ってたんだってさ」
タオリーったらお節介。でもそんな風に言ってくれる旦那さんなら、きっと大丈夫なんじゃないかしら?
◇◇◇◇
着飾った馬に乗って、村の人達と一緒に旦那さんの隣村まで移動する。出発前から楽器をかき鳴らし大声で歌って踊ってお祭り騒ぎだ。ミーファンが泣いてる、隣村に行ったら毎日は会えなくなるもんね。
「見ろ!仙人様だ!」
青く高い遠くの空に、雲に乗った仙人様が見えた。腕に小さな子が見える。
その子と目が合った気がした。
「おお!見ろ!手を振ってくださるぞ!」
あの子が小さな手を私達に振ってるように見えた。
「すごいな、リンファ!仙人様が見送りに来てくださったのだ!お前は幸せになれるぞ‼︎」
多分違う、私をおばぁちゃんと間違えるくらいだもの。でも、胸がいっぱいになった。
遊んだのはたった1日、だけど宝物になったあの日。可愛いらしいあの笑顔がまた見たい、嬉しそうなあの声が聞きたい。そう思って以来、遊んだ場所に毎日出かけては待っていた。
とてもとても寒い日、私が生まれてから初めて村に雪が降った『もう、ここに来てはいけない』誰かにそう言われたようで、もう本当にあの子に会えないんだと雪の中で泣いた。
もう一度会えるなんて。
涙が溢れた。
「幸せな涙ね」
同行してるお母さんが涙を拭いてくれる。
私より少し幼く思えた可愛いらしい彼は、誰にも言えない私の初恋だったのだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。本編と全く関係ない彼女ですが、雪の中で聞こえた言葉は、通い続ける彼女をあわれに思った何かが伝えたんだと思います。
次回更新は明日の夕方を予定しています。次回は本編にほんの僅かに出てきた人が主役です。
またよろしくお願いします。