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開戦

泰山府君としてだけでなく太上道君としても目覚めた泰己。仙界の最高仙、三清として決断を下す。

そして、兵を動かし開戦する。

紫宮から雲で急ぎ自分の持ち場に戻る、地獄である。

かつて真君と共に連れ立って向かった道とは異なり、泰山府君でもある私の道を使い向かう。十王の出迎えもそこそこに、先に来ているであろう真君を探した。

真君は鎧兜を身にまとい、今すぐにも出陣可能に見えた。


「用意は?」

「既に」

「軍議を開く、将を集めよ」

「御意」


真君は一礼し身を翻した。



◇◇◇◇



室内には私を中心に、天帝から集められた将、十王、十王達の配下の将がズラリと円卓に並ぶ。私は立ち上がり声をあげた。


「集まってもらったのは他でもない、今から一つ話をする、その後に指示を出す」


空に指を滑らせる、私の指の跡は空中に光の線となって残る。


「始まりは一人の女であった」


女は親に打ち捨てられ、頼りにした男にも捨てられ、人を捨てた。山の洞窟に入り、一人で暗闇の中、子を産んだ。

そして産んだ子に全ての恨みをぶつけた。

なぜお前なのか?なぜ私から産まれたのか?なぜ私だったのか?

母親が死ぬと同じく名もない子も死んだ。


死後、子はなぜ己があるのかわからなかった、

子は飢えた、全てに飢えた。

そして死霊となって彷徨ったのだ。


「ただの死霊であれば我らは動かぬ」


皆黙って話を聞いていた。指を動かし、話を続ける。


その死霊は偶然にも光を求め外に行き、一人の男に取り憑いた。男となったソレは男の意思を読み、惚れていた女を喰った。ソレは女の意思を読み、親を喰う。親を喰って……延々と続いた。

人を喰っては人になり、動物を喰っては動物になり、妖怪を喰っては妖怪になる。

ソレは喰った者を読んでそれになりきり、なりきった者の喜びや望みを潰す。

ソレは食わなくなった。

読むようになった。

街中で人を読む。読んだ者になり、その者として愛する者を潰す。


「我らはここまでであれば動かぬ」


ソレの歪さは、己が読んだ者、殺した者、触れた者、関わった者、全ての魂魄を離さないのだ。魂魄を溜め込み膨れ上がって、大きな塊のソレとなって増えていく。

共に食われ閉じ込められた三尸の虫達は、役目上の存在であるために、捕らえられたまま地獄にも帰れず、消える事も無く食われ続けていた。


「数百年間、三尸と魂魄が減っていたのはコレが原因である。私は魂魄が減らぬようになった時期を見、調べた」


分裂を止め、生者への侵害を辞めた時期があった。抱え込んだ帰さぬ魂魄をどうするのか?

己の中で飼い殺し、愛する者、大切にした者、それらを潰した景色を延々と見せるのだ。

自分と同じ者になるように蹂躙し続ける。

そしてばら撒く。

己を無くした魂魄が輪廻に戻るのだ、周囲を染めるため。


「私はソレの行く末を見てきた」


遠い未来まで私はソレがどう世に影響するのかを見た。

人々は表面上は幸せを願いながら、疑心暗鬼の塊で、何よりも他人を潰す事を望んだ。

喜びを持って産み出すのではなく、潰すために産み、時間と労力を使うのだ。己よりも優れていると思えば嫉妬し潰す、己より劣っていると思えば嘲り潰す。血眼になって他者を見る。


ソレに染まらない者もいた。

ならば周りを囲み、時期を伺い潰すのだ。

己を楽しむ者を、己を研鑽する者を、ソレは嘲り罵り潰す。または策を講じ孤立させ己を見えなくさせる。


「私が見た、日本という国の未来では自己と他者が曖昧であった」


自己肥大し、己を見る事を極端に嫌う。依存し合い潰し合いを繰り返す。己以外の者になろうとする。

ソレは時限爆弾のように時を計る。機と見るやそのものに成り代わり、喜びを踏み躙る。


「私は潰そうと思う」


指で空中に描き続けた絵は模様となり紋章になっている。

私は最後の点を手で握りつぶした。


「先程話した未来。私が今、消した」


「始まりを潰せ、他から産まれたかもしれない全ての可能性を潰せ。そして全ての次元、時空に置いて、ソレの存在を消せ、痕跡を消せ。ソレがわずかでもある先なぞ要らぬ、全て消せ」


「紋章を見たな、掲げ、胸に持て。全てを示してある」


全員の顔を見回す。皆引き締まり、次の言葉を待っている。


「これより殲滅戦を行う。我らが天帝の名に置き、三清道祖から拝命された戦である。挙兵せよ!」

「「「おぉぉぉぉ」」」


皆、一斉に立ち上がった。



ここまで読んでくださりありがとうございます、次回更新で泰己編の最終回です!

その次からは別視点からの「仙界にて雲に乗り」を書くつもりです。


最後までお付き合いくださると嬉しいです、よろしくお願いします。

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