決断
ついに目覚めた泰己、真君と共に紫宮に向かい天帝と話します。泰己はそこで何を話すのでしょうか。
姿が変わった私を見ても、天帝の態度は何ら変わらなかった。私の隣の椅子に座る。
肉厚な彼の手でそっと私の頬を撫でた。
「起きたのか……前の姿も愛らしかったが」
「今の姿はご不満ですか?」
「はは、不満なぞない。お前はどんな姿でもお前だ」
彼は頬を撫で続ける。濃紺の瞳が探るように深く私を見る。
「お前は泰山府君としてだけで起きたのではないな」
「はい」
「そちらも起きたのか」
「はい」
「決断を下したのだな」
「はい」
「それで儂に会いに来たのは、三清での話になると言うことか?」
「はい、それと兵を貸していただきたく」
「大きく動くのか?」
「はい」
三清、三清道祖とも呼ぶ、仙界の最高仙の三柱である。
私は彼の濃紺の瞳を見た。
彼との記憶を思い出す。彼は清廉潔白な若々しいの姿で言った『貴方が全て決めれば良いのです』そう私に言ったのだ。
「わかった、動く者を全て貸してやろう。真君、お前ならわかるな」
「言われましたら、直ちに」
真君は立ち上がり、天帝のそばに片膝をつき頭を垂れる。
「我勅命す、兵をまとめ府君の下に行け」
「御意」
真君は一礼ののちに部屋を出て行った。くっくっくっと天帝が喉で笑った。
「あいつはお前から離れるのが片時でも嫌だろうな」
「わかってて言いましたね、意地の悪い」
「儂もお前に会うのは久しぶりなのだ、少しくらいは二人の時間があっても良かろう」
「昔は永らくご一緒しましたが」
「昔は昔よ」
「またこれから、ご一緒する事もあるでしょう」
「そうだな、今からは三清として話そうか」
彼の冠の玉が揺れる、天帝は立ち上がり鈴を鳴らし人を呼んだ。
「太上老君へ伝えよ、これから三清での話があると」
そう告げた後、彼はゆっくりと霞むように存在を変えて行く。
天帝の姿を解き、彼は若々しい姿へ変わって行く。施政者たる清濁併せ持った老獪さは消え、清廉たる元始天尊としての姿を取り始める。
一番初めに存在を始めたのは彼だった、始まりである太元、それが神格し、自我を持ったのが彼。三清の一柱である。
「この姿に戻るのも幾千幾万ぶりか」
「そうですね、天帝としてのお仕事永らくされてましたゆえ、その姿お久しゅうございます」
「お前は常に変わらぬな」
「はい、貴方様が私の願いを叶えてくださいますから、気楽に好きな姿を取っております」
「ふ、ふ、ふ、ふ、良いのだ。我ら仙は全てお前のためにある、お前と一体となるのが我らが本望なのだ」
「はい」
私は生と死を司る泰山府君でもあり、陰陽を表す仙界の真髄が神格となり、己が意思を持つ道、三清が一柱、太上道君なのである。
全てに通じる道は、私なのだ。
◇◇◇◇
残る三清の太上老君が紫宮へ訪れた。私を見つめ嬉しげに微笑む。
「お久しぶりになりますかな、師父」
私はかつて彼の師であった。
「貴方は今の姿になってからのほうが随分永くなったのでは?」
「ほっほっほっ初心忘れずですよ」
変幻の術で老人をしていた真君を思い出す。老子の笑い方や仕草を真似てたのだな。
彼はいい見本だったのだろう。
他の仙人たる代表の元始天尊は天帝をし、太上道君たる私も泰山をしていた。仙格の職務よりも神格の職務に専念していたから、仙人らしさは薄かったのだろう。
太上老君が髭を梳きながら口火を切った。
「このように三清として集まったという事は大きな決断が下るのですな」
「そうですね」
「太上道君の判断ですな」
「はい、我らはこれまで在るがままを根に置き、見守って参りました。栄えるも滅びるも在るがまま」
「それは一重に生まれ出ずる全ては我らが土台から産み出された愛子である、という事実から。闇も死も病も戦も、全ては生たる光に対応し産まれた愛子です」
太上老君も元始天尊も何も言わない。この話は今更であった、三清の我らには共通の認識なのだ。太上道君である私は言葉を続けた。
「私は断じます」
「アレは道に非ず、非道です」
二人とも、何がとは言わなかった。
私が判断を下すまで二人は五千年を待っていたのだ。
◇◇◇◇
太上老君と元始天尊に見送られ、雲を呼ぶ。
「随分と駆け足ですな」
「事を動かすと決めましたゆえ」
「また会おう、どんな姿であっても」
元始天尊が嬉しげに話す。
「いずれ碁でも打ちましょうぞ」
太上老君も和やかに話す。
私は笑って頷き、紫雲に飛び乗った。
ここまで読んでくださりありがとうございます、ここ数日アクセス数がすごく伸びていて、物語が動いてきたからかしら?と友達に話したら、主人公達がイチャイチャし始めたからじゃないの?と言われました。
あれ…割と始めの方から師父と泰己は仲良くさせてたつもりだったよ?
みなさん、イチャイチャが読みたいのかな?
次回更新も明日の夕方を予定しています、また楽しんで読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。




