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向かうは紫宮

ついに目覚めた泰己、師父と共に紫宮に向かって…

私が子供の姿であった時と同じように師父が朝餉を用意する。泰己であった頃の着物は着れず師父が用意した服を着た。

これまでと同じつもりで椅子に座る、足が入らない。


「その椅子は泰己用ですよ、子供が一人で座る椅子です」


彼は楽しげに笑う。恥ずかしかったがすぐに別の椅子に座った。


「わた、いや俺は起きたのか?」

「言いやすい方でどうぞ、姿も戻られましたし、しっかり起きられたようですね」

「うん、体や声が違うのはわかる」

「僕、前の貴方も大好きでしたし、甘えてきてくれるのも好きでした、無理なさらなくてもいいんですよ?」

「必要があるから起きたんだ、茶化すな」


師父は朝からずっと機嫌がいい、私が起きた方が嬉しかったんだろうか?


「今さらではあるが、やはり私が起きて嬉しいか?」


彼はこれまで見た事がない程に嬉しそうな顔をする。


「起きる起きないじゃありません、貴方の新しい一面を知るのが楽しいんですよ、僕はワガママですからね。貴方の全てを知りたいですね」


朝の爽やかな空気の中、彼は水が流れるように極々自然に、熱烈な告白をしてきた。


思い返せば泰己であった私に、彼はずっと穏やかに愛情を示してくれていた。泰己はその愛情で癒されていた。彼は泰己である私も癒し続けてくれていたのだ。

アメジストが煌めく横顔を見ながら、古い私の記憶を思い起こそうとする、凝らすように視界を探ると微かに見える景色がある。


今よりもずっと幼さが残る彼が、鎧兜に身を固めて緊張した面持ちで前を見ている。初陣だ。私の視線に気がつき振り向く、私と分かると花がほころぶように笑った。


昔から真君は私へ真っ直ぐだったな。

泰己であった時は関係の変化に不安こそあったが、真君は変わらないのだ。これまでもこれからも、きっと彼はずっと私を見て嬉しそうに微笑むのだろう。


「もう師父とは呼べないな」

「読んでくださっても、ちゃんと返事しますよ?」

「師弟関係も元々は無かっただろう?」

「ふふ、お世話係ですかね、幸せでしたよ」

「……どうして口調が丁寧語になってるの?」


私の中の泰己の疑問だった、真君は少し黙った。


「起きた貴方の立場を(おもんばか)ってですかね」


それから記憶の中と同じ花がほころぶような笑顔を見せた。



朝餉を終わらせると、真君はいそいそと私の外出着を用意する。


「紫宮に向かう」

「御意」


私の雲を呼ぶと薄紫の雲が来た。一人で乗る事に少しだけ緊張する。


「僕の雲へどうですか?前のように抱えますし」

「要らない、この姿で抱えあげられるなんてごめんだ」

「非常に残念です」


真君はちっとも残念そうに見えない、嬉しそうに答えていた。


雲で勢いよく進む、真君は何事もなく付いてくる。泰己を乗せている時はもっとゆっくり移動していた、彼は常にきめ細やかな配慮して私を扱っていたのだ。彼に関してはまた後からわかる事も出てくるだろう。

私自身も泰己から徐々に覚醒している途中だ。

今は天帝に会うべく、さらに速度を上げた。



◇◇◇◇



前回と同じように上空に高く上がる、今回は宮殿の前に降り立った。当然のように真君も付いてくる。


「前はわざと庭園を歩いたな」

「好奇心旺盛でしたものね、周囲をたくさん見回して愛らしかったです」


返事はせずに宮殿内に入る、恐らく前の場所なら天帝に会えるはずだ。

扉を開け、室内を確認するが誰もいなかった。椅子に腰掛け待つ事にする。


「真君、別について来なくても良かったんだぞ?私はもう大人になった。記憶も思い出したしな」

「そうですね、念のための護衛という所でしょうか」

「護衛が必要な場所ではないし、私自身も多少の心得はある」

「ふふふふ、庭の木、枯らしてましたね」

「……すまなかった」


記憶を取り戻しても真君には勝てない、師父として接してもらってた時の方がまだ手綱が緩かったかもしれない。

庭木枯らしたのバレていたんだな、彼の家なんだから当然といえば当然だった。

そう言えば哪吒が地面に焼き付けていた文字は、帰ってきた時には消えていた、彼が消していたのだろう。いたずらっ子な哪吒の笑顔が浮かんだ。


「哪吒は今の私の姿を見ると残念がるかもしれないな」

「そうですね、弟分が出来たとはしゃいでいたようですから」


優雅な仕草で口元に指を運んで微笑む。


「貴方は哪吒を気に入っておられましたね」

「わかりやすい英雄に見えていたしな」

「悟空もお気に召してましたね」

「そうだな。彼も好きだ。活き活きとして目が奪われる」

「やんちゃな子がお好きですものね」


全てを見透かすように真君が笑う。


「お前もやんちゃな時があっただろう?」

「さぁどうでしょう?」


和やかに会話をしていると扉が開いた。


「またお前達か。いつも連絡を寄越さんな」


苦笑しながら天帝が入ってきた。



ここまで読んでくださりありがとうございます、今回は大人になった泰己です。書いていて泰己は割と天然だと思います。


次回更新も明日の夕方を予定しています。また読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いします。

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