地獄の事情
元職場である地獄に帰ってきた泰己と師父。十王達と会い、泰己が未来で日本にいた理由、そして今この仙界に戻ってきた理由を聞くことに。
地獄の壁も扉も城も真っ黒で、城内も味気なく真っ黒だと思っていたが、壁や床は磨かれ黒光りして、天井は白く塗られて開放感があった。庭園に面した廊下を歩く、庭園には池も水もなく、砂で描かれていた枯山水があった、枯山水と石から少し離れて緑が多く周囲に繁っていた。
黒と白にまとめられた内装はシックで、華やかだった老子の宮殿とも、極彩色で圧倒された天帝の紫宮とも違って見えた。
一つの部屋に通される、室内には大きな机があり、師父ともに一番奥へ座らされた。
まず、秦広王が口火を切った。
「数百年ではありますが、三尸と魂魄の巡りの異常がございました。災害、飢饉、戦、増える理由は数あれど一定数から減少は異様と言えます」
「私は最初の審議を担っておりますので、他の十王達に連絡し会議致しました」
閻魔王が頷き話を続ける。
「私の審議では六道に落ちる者も多く、人を辞める者が増えたのかと調べましたが、以前と変わりなく寧ろ減っておりました、ならばと妖仙に尋ねましたが変動はありませんでした」
師父が口を開いた。
「妖怪も動物も増えてないのに、人の魂魄が減った。という事かな?」
「左様でございます。永らく死後の世、地獄を管理してまいりましたが、このような事は珍しく。我らが王の泰山王様が御身からお調べに降臨されたのです」
変成王が受けて答えた。
俺が人をしていたのは魂魄と三尸の減った理由を調べていたのか。それなら、なぜ俺は未来の日本に?どうして過去であろうこの仙界に戻ってきたんだ?
あと、地獄で一番偉いのは閻魔大王だと思ってたんだけど、彼らが俺を王と呼ぶのはなぜだろう?俺は聞いてみる事にした。
「地獄で一番偉いのは閻魔大王じゃないの?」
俺の質問に閻魔王が破顔した。
「後世では、そのようになっているのですね、我らは泰山王、貴方様に言われ今の任に付いているのです。貴方様が天帝から任され、私達を任命されたのです」
だから俺を王と呼び、お帰りなさいと言われたのか。俺の職場なるほど。
「貴方様は死後の地獄だけでなく生も司っておられます、陰陽と同じく生死は表裏一面、貴方様の職務は全てに通じるのです」
五道転輪王も俺に微笑みながら話してくれた。
残る疑問は俺が生きていた時代と場所、そしてなぜ過去であろうこの仙界に戻ってきたのか、だ。
「俺はどうして未来で日本という国にいたの?」
十王達が顔を見合わせる、彼らにもわからないのだろうか?初江王が話し出す。
「これは私の推測ですが、人の存在する時間全てを調べたのでは無いでしょうか?それこそ過去からその未来に連なるまで。泰山王様は永らく不在にするとおっしゃってましたので」
「俺がいなくなってから何年経ってるの?」
また十王達が顔を見合わせる。
「ざっと五千年ほどでございます」
変成王が教えてくれた。
俺は過去から未来まで、五千年で色々な時代の人をしてきたって事だろうか。話が壮大になってきて気が少し遠くなる。しかし、それとは別に必要な時間だったという認識もあった。
「どうして日本に?」
「恐らく、時代時代において調査に適した環境と場所を求められたのだと思います」
「なんで、今ここに戻ってきたんだろ?」
十王達が黙ってしまった。師父がゆっくり口を開いた。
「僕が君の中を最初に見た時ね、君が生まれ育った環境に僕達仙界の気配は無かったよ。君がいた未来の人界は、仙界と神界から切り離されていたんじゃないかな?」
「今は思い出せないにしろ。未来の日本という場所で三尸や魂魄が死後に戻らない理由と何かの判断があったからこそ、まだ仙界と繋がりが強いこの時代に戻ったんじゃないかな?」
師父が十王達を見渡す。
「彼は僕達に何かを伝えようとして、戻ってきたんじゃないかな?」
そう言ってアメジストの目を細めた、何かを射るような鋭い視線だった。
視界にチカチカと光の粒子が舞う。
笑顔の幼子が私に向かって走ってくる、何かを見つけて鋭い視線になる、射るように見つめる。それは吸い込まれそうなほど深いアメジスト色。
ここまで読んでくださりありがとうございます。物語が進み佳境になってまいりました、表題のほのぼのどこ行った?そんな内容になってます。
このまま走り切りたいと思ってます。
次回更新も明日の夕方を予定しています。また読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。