十王
泰己の職場である地獄に向かった二人、地獄で何を見て誰に会い何を話すのか。泰己の職場兼家が出てきます。
目を開けても閉じても変わらないほどの暗闇を、凄まじい速度で移動しているのはわかった。時間を長く感じる、何分?何時間?どれだけ経ったろうか。何も見えない闇の中は自分の輪郭もあやふやに感じて来る。ただ俺を抱きしめている師父の温もりだけは確かだった。
視界が開ける、急に明るくなって目が慣れない。師父が降り立ったのはわかった。
「「お帰りなさいませ、泰山王様」」
大勢の声で聞こえてきた、慣れない目を凝らすとズラリと黒い服を着た人が並んでいた。
ここは地獄なんだろうか?洞窟の中だと思っていたが、天井は高く黒い雲が覆っている、もしかして空に繋がっている?
師父が俺を下ろした。
「さぁ、みんなが待ってるよ、君の部下達だね」
師父は優雅に微笑む。彼らは泰山王と呼んだ、俺の事だろうか?並んだ人達は十五人ほどで、ここの制服なのか皆が同じ服を着ている。黒い官吏服の中に襟元の赤いラインが鮮やかだった。一人が進み出て俺に話し掛ける。
「お久しぶりです、十王が首を長くしてお待ちしておりました。成果はいかがでございましたか?」
俺の代わりに師父が答える。
「迎えご苦労。成果については彼はまだ思い出している途中でね、今はこうして縁ある場所に連れて記憶のお手伝いをしている。」
「記憶……そうでしたか、我らはてっきり…」
「彼が持ち帰る手はずの成果について聞きたいのだけど?」
「わかりました。どれほどお役に立てるのは確証がございませんが、十王達であればわかる事もあるかと思います。ご案内致します、どうぞ奥に」
師父に手を繋がれ大勢の出迎えとともに、俺は地獄の奥へと向かって歩いた。
そう言えば天帝の所で地獄の管理を任されていたって聞いたな、思い起こせば地獄が職場なのも妥当に思える。
空は黒い雲で重苦しい、周囲も風も無く岩ばかりでゴツゴツとしていた。緑のない荒れた場所だ。地獄らしいといえばらしいけど、でもここは血生臭くも無ければ叫び声や悲鳴も聞こえない。
職場だったそうだが見覚えもない。
「泰己どうしたの?君の部下の前だからしなかったけど、抱っこしようか?」
キョロキョロと見回す俺に師父が小声で話しかけてきた。歩き疲れたと思われたんだろうか。
「大丈夫」
俺はよそ見を止め早足で歩いた。師父からの子供扱いも慣れているが過保護だと思う。
真っ黒な壁が続き、進んでいくと黒い扉が見えてきた。大きな門だ、黒檀の門扉は大人が五人が並んで手を伸ばしても届かないほど大きかった。
「開門ー!」
大きな声が聞こえ、内側からゆっくりと扉が開けられた。曇天の空の下、横に長い漆黒の宮が見えてた。
「泰山王様、ご帰城ーーー」
正面には広く真っ直ぐな石畳の道、その両脇をびっしりと人が並んでいる、何百人、何千人いるんだろう?みんな真っ黒な官吏服をきて俺に向かって立礼していた。俺はすっかり驚いて、繋いでいる師父の手を握りしめた。師父は慣れた風に石畳の真ん中を歩いていく。
宮殿の入口に他とは違う赤い服装の十人ほどが並んでいた。手前まで進むと一人が進み出てきた。
「我ら十王、ご帰城お待ちしておりました」
「た、泰己です!」
俺は大きな声で挨拶をした、場の空気が固まる。俺は対応を間違えたのだろうか?俺の職場なのに師父に挨拶させてしまったから、今度は頑張ろうとしたんだが。師父が改まって話し出す。
「私は二郎真君、天帝が甥である。泰山王は戻られたがまだ記憶が定まってない所がある、それゆえ私がこちらにお連れした」
「定まっておられない?」
「そうだ、こちらに参ったのは何ゆえ泰山王が人界に降りたのか、その話を聞きたかったからだ。彼の記憶の一助になればと思ったからである」
彼らは納得したらしく自己紹介をし始めてくれた。右から、秦広王、初江王、宋帝王、五官王、変成王、平等王、都市王、五道転輪王、泰山王が紹介され、最初に進み出てて話しかけてきたのが閻魔王だった。
泰山王、俺と合わせて二人いる?師父の袖を引っ張り耳打ちする。
「師父、泰山王って俺の事じゃないの?二人いるの?」
「直接聞いてごらん、彼らは怖い人達じゃないよ」
師父は優しく俺を前に押す。
「あ、あの、ぼ、僕も泰山王だと思ったんですが、泰山王は二人いるんですか?」
一気に十王達の表情が和んだ。クスクスと笑い声も漏れ聞こえる。俺は恥ずかしくなった、頬が熱くなる。
「失礼、お可愛いらしい姿に、つい…」
泰山王と名乗った彼が説明し始める。
「ここにいる十王はそれぞれの役職を担っております。泰己様、貴方様の『泰山王』は任でもあり、貴方様そのもの名でもあるのです。貴方様が降臨されてる間、私が任を賜ったのでございます」
十王は役職の名前だったのか、俺は納得した。そしてやはり泰山王は俺の名前だった。
「人界に降臨された理由でしたな、どうぞこちらへ」
閻魔王が皆を部屋へと促した。
ここまで読んでくださりありがとうございます、泰己の部下達登場です。
次回は泰己が人界に降臨した理由が明かされます、次回更新も明日の夕方を予定しています。また読んでくださると嬉しいです、よろしくお願いします。
ここからは余談です
仏教だと泰山王は十王の一人として合祀していて地位はそんなに高くないです、ここでは天帝を最高神としているので、泰山府君である彼の地位を高く書いてます。
ついでに師父の部下は鍾馗様です、彼は二郎真君の家の門番でもあります。
鐘馗様は本文中に説明できなくてちょっと悔しいですがダラダラ書くよりいいかな?と思ってココで補足しました。




