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爺さんと俺

仙人の爺さんから、なぜ来たのか?その理由を探さないと帰れないと言われてしまった主人公。しかも仙人になる才能が無いとも言われてしまいました、

幼児姿の主人公、見知らぬ世界でどうなってしまうのでしょう?

「お前は己を見つけよ。」


そう言うと爺さんは俺を一人にした。毎日の食事は用意してくれていて、昼間に出かけて夜には帰ってくる。俺は何もせずに家のそばで滝を眺めたり空を眺めていた。何もかもが穏やかで時間すら静謐に感じた、気がつくともう何日も過ぎてた。


「山を下ると村がある、子供らが遊んでるはずだ、混ざっておいで。」


爺さんは俺をどうしたいんだ?

今の外見は知らないが中身の俺は2◯才だ。今更知らない子供と一緒に遊ぶとか…



暇すぎる俺は山を降りた。



◇◇◇◇



「どこからきたのー?小さい子ねぇー」

「あっち!」


俺は爺さんと住んでる山を指差した。村の子供達から俺はかなり小さい子供に見えているようだ。


「あー向こうの村?ならマオさん所の孫かな?」

「どうしてここに来たの?」

「あしょんでこいって」

「じゃ遊ぼ!」


バシャバシャ!


「キャーーー!」

「あははやったなぁぁ」


水浴びなんて何年振りだろう?


「そろそろ夕方だね、おーしまい」


年上の子が言い、最後の水遊びでビショビショになった俺の服を脱がされる、服をギュッと絞ぼられ、また着せてもらう。


「びちょびちょだねぇ、お母さんに叱られない?」

「だいじょーぶ!」


俺は胸を張って答える。

あの爺さんが勧めてきたんだし、いっぱい遊んだ俺を叱らないだろう。


村の子供達は新入りの俺に、初日から張り切って遊んでくれた。水遊び以外にも木登りや石蹴りやかけっこ、俺は楽しくて楽しくて堪らなかった。

みんなから別れて、帰り道を一人で歩く、夕陽が世界を鮮やかな赤に染めている。

全てが赤く輝いていて、全てが俺を歓迎していて、世界が俺を見つめてくれているようだった。


「随分と遊んで来よったな」

「うん!しゅごいたのしかった!」


家に帰ると爺さんが俺を迎えてくれた。

俺の濡れた服を脱がせ、乾いた新しい服に着替えさせる。


「ひとりできれる!ひとりでぬげる!」

「ほっほっほっ」


爺さんは勝手に笑って手伝ってしまう、俺の尊厳は無視されてる気がする。

夕餉はもう用意されていた。

俺は今日の遊びが楽しくて嬉しくて興奮して話し続ける。


「あんね、レイレイね、きでね、てがね」

「そうかそうか、楽しかったか?」

「うん!でね!トーファね、かわでね」

「そうかそうか、たんと食えよ」


爺さんはニコニコしてた。

まだまだ話し足りなかった、延々と話し続ける。風呂に入れられホクホクして寝床に入る頃、やっと落ち着き、あれ?俺は言語能力が退化してる?

やっと冷静に自分を見れた。


また次の日も、その次の日も、日が高くなると麓に降りて、村の子供達と遊び、日が落ちれば家に戻り、爺さんが用意してくれた夕餉を食べ、風呂に入れてもらい、寝床に入る。満ち足りた毎日だ。

今夜も師父が干してくれていたであろう暖かな布団に入る。


俺、幸せだ。


ここに来る前は、家族も亡くして、仕事も失くして、家族で住んでた家に一人でカップ麺ばかり食べて、何もする気が起きなくて、時間の感覚も日付の感覚も無くなって、世界に一人で取り残されたような気分で。


目がじわじわする、ほっぺたに暖かい物が流れてる。


「うっふぐっふっうう…」


聞こえていたのか、別室で寝ていたはずの爺さんが様子を見にきた。


「どうした?」

「ふぅううっうわーーーーーーーーん。ヒック、ヒック、ヒック」

「よしよし…」


爺さんの優しい声に耐えきれず、俺は声を上げて泣いた。爺さんは俺を膝に乗せ、しゃくりあげる俺の背中を一晩中撫でてくれた。爺さんの手は優しく暖かった。


俺はずっと寂しかったのだと気がついた。



◇◇◇◇



次の日の朝は恥ずかしくて気まずくて、爺さんと顔をなかなか合わせられなかった。でも爺さんは何も言わず何も聞かず、いつも通りに接してくれた。

俺はそれも嬉しかった。


その日の晩から一緒に寝るようになった。



ここまで読んでくださりありがとうございます、次回更新は明日の予定です。次回もよろしくお願いします。

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