砂漠からの帰り
憧れの悟空と会えた泰己、幸せいっぱいの帰り道。哪吒は少し不満そうで……
哪吒に抱きかかえられ、砂漠を過ぎ家路までの空を飛ぶ、俺はうっとり夢見心地だ。絵本や漫画で憧れた孫悟空に会えたのだ、悟空の手を握りしめた俺の手、もう洗わない。
「そんなに喜ぶとはなぁ」
哪吒が呆れたような声を出した。
「俺がいた場所だと孫悟空ってめちゃくちゃ有名だったんだぁ……」
「なぁそれって俺は?」
「あー哪吒は、哪吒はね、ちょっと有名だった」
「なんだよそれ!俺だって妖怪退治しまくりだし悟空とも戦ったぞ!」
「そうは言っても…」
未来の日本だと漫画かゲームか何かに出てた気がする。
「物語とかオモチャとか?哪吒も有名だったよ」
「真君は?」
「あー」
悟空に勝ったらしい師父だけど、哪吒より劣るか、似たり寄ったりな知名度だったと思う。
「真君もそんな有名じゃねぇの?なーんだ、報われねぇなぁ」
同類がいたとわかって哪吒の機嫌は直った。
「あの猿が人気者なのわからなくもねぇよ、俺もアイツ好きだもん」
「かっこいいよね!」
「そこじゃねぇよ、アイツむちゃくちゃするけど面倒見良い時もあるし、仲間になったら助けようとするし、やりあってたら楽しいし、口は悪いし頭も悪いけどな」
褒めているのか貶しているのかわからなかったが、哪吒が悟空を好きなのはわかった、喧嘩友達なのだろう、楽しそうな関係だ。
師父の家に着く。
哪吒は俺を置いて前のように早く去ろうとしたが。
「哪吒!」
師父がいた。
「哪吒、こっちへおいで」
哪吒は口を大きく「へ」の字にして師父の方へゆっくり歩いて行った。師父は大きなため息をつく。
「お前は泰己を連れて、どこに行ってきたの?」
「泰己が喜ぶかなー?て、用事もあったし」
「どこに行ってきたと聞いてる」
師父の口調が違う、子供を叱りつける親のようだ。哪吒も気まずそうに下を向いている。
「泰己が真君がどのくらい強いか知りたいって言うから、詳しい奴に聞いてきたんだよ」
「誰?詳しい奴って」
「言わないとダメ?」
哪吒がへへへと笑いながら言ったが、師父の目は笑っていなかった。
「…悟空だよ」
「ゴクウ?三蔵法師と旅をしている孫悟空?」
哪吒が頷く。
「はぁあーお前はどうしてそう……」
「でもさ泰己すっごい喜んでたんだよ!な!」
「うん、すごい嬉しかったんだ!だから哪吒兄ちゃん叱らないであげて!」
哪吒が突然に話を振ってきたが俺は臆せず哪吒をかばった。師父が俺を見てから哪吒を見る。また、ため息をついた。
「彼は贖罪の旅の途中、修行中だよ?邪魔してやるなよ」
「お釈迦様から様子を見に行くようにも言われてたんだよぉ」
「わかった、わかった、もう帰っていいよ」
哪吒は師父の前では殊勝な顔をしていたが、俺の目の前に来ると、してやったとばかりにニヤリと笑った。
「今度の事は李天王に言っておくからね」
「ええー!そりゃ酷いよー」
師父の言葉に哪吒は悲鳴をあげた。
李天王は哪吒のお父さんだと師父から後で聞いた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。哪吒と二郎真君の関係は、やんちゃな末っ子としっかり者の長男を目指しました、哪吒がいるとコミカルになって楽しいです。
次はまた少し物語が進みます。次回更新も明日の夕方を予定しています。また楽しく読んでもらえたら嬉しいです、よろしくお願いします。