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共演の一匹と一人

師父の強さを知りたい泰己、哪吒は泰己を連れて砂漠にやってきた。砂漠を歩くのは馬に乗った三蔵法師、孫悟空、猪八戒、沙悟浄。哪吒は腕試しだと孫悟空を誘い出して……

黒い雲が空を覆い尽くす下、はるか俺の頭上、上空で孫悟空と哪吒が向かい合っている。


「はぁーーーーーーー!」


哪吒が大きな声を上げ、背中からバギバキと音を立てて四本の腕を生やした。六本の手を組み、頭の両側からググッと顔も出す、三面六臂の姿になった。


「最初からかっ飛ばすじゃねーか‼︎」


笑うように悟空が話す。哪吒と同じように目がギラついてる。


「相手が三蔵法師様のお供をしてなさる方だからな!気合いを入れたんだよぉ!」


吼えた哪吒が槍を構え、他の腕には円盤のような物を回し始めた。悟空は如意棒を構え頬を膨らませプッと息を吐いた。大量の猿が現れ哪吒に襲いかかる。哪吒は円盤を投げ猿達の胴体を斬り分けていく。次々と消えていく中、本物の悟空が猿の大群から飛び出した。


ガンッ


大きな雷が落ちたような光が走った。哪吒が張った膜と木の後ろに隠れているのに、まだビリビリと衝撃を感じる。

悟空の如意棒を哪吒は槍で受け止めていた、その隙に空いてる手で如意棒を掴む、悟空は察して如意棒を回転させ離れた。

ジリジリと間合いを測るように向かい合う、二人とも楽しげに不敵な笑みを浮かべていた。


ガチッ

ガリ

ガッガッガッガッ


一撃一撃が重く早い、こちらまで何度も衝撃が響いてくる。

哪吒の円盤が何度も悟空を襲う、悟空の速さときたら!目で追えなくて何度も姿を見失う。見えたと思えば円盤をギリギリで避け、哪吒を打ち続ける。哪吒が槍から火を放つ、それを避けプッと息吐きまた猿の大群を出す。哪吒が猿に応戦してる間にまた姿を消し背後から打つ、哪吒は槍を背後に回し受ける。槍の先から悟空ごと大群の猿に向け火炎放射器のように火を放った。

そこからまた何十合と打ち合う。


ガチンッ

ガリガリガリ

ガキンッ


一匹と一人は歌い合わせるように筋肉が反応し跳躍する、舞うように無駄なく動く、哪吒も悟空も輝いていた。戦いで会話をしてるようだ。いつ手足が切られてもおかしくないほど肉迫してるのに嬉しそう、心から戦闘を楽しんでる。


もう哪吒が疲れてきたようだ、動きが鈍り始めた。悟空は隙を逃さず攻め立てる、何度も重い打撃を打ち込んで行く。


「ううっ」


押された哪吒が姿を戻した。


「もう終わりかぁ?お前が鈍ってんじゃねぇのか?」


悟空は歯を剥き出して笑った。哪吒は俺を振り向き見ながら


「今日はこのくらいにしてやるよ…」


負けたと思ってない言葉を使った。



◇◇◇◇



二人とも俺の近くに降りてきた。俺はもう頭がクラクラとしていた、動きに目が付いて行かなかったし、二人の熱量に当てられた、脳に酸素が足りない。


哪吒が悔しそうな顔で俺に話しかけてきた。


「コイツ無茶苦茶強いんだよ、認めたか無いけど」

「は!俺はもう一度やってやってもいいんだぜ?」


悟空は機嫌良さげに応える。哪吒が言葉を続けた。


「でもな、泰己、お前の師父の二郎真君はこの悟空に勝ってんだぜ」

「うそ…」


俺は驚きのあまり咄嗟に「うそ…」と言ってしまった。信じられなかったからだ。


「だって、だって、二人ともめちゃくちゃものすごく強かったよ?すごくすごくすごくカッコよくて強くて!師父は二人より強いの⁉︎」


悟空が顎を上げ首元をガリガリと掻く。


「ふん、俺はアイツに負けた訳じゃねぇ。が、勝ってもねぇかもな。まぁいい、俺様がカッコいいと言ったな!なかなか見所あるじゃねぇか」


悟空がクフクフと含み笑いをしだした、褒められると嬉しいらしい。わかりやすいタイプなんだろうか?


「泰己、あんま褒めんなよ。すぐに調子に乗るからな」

「はん、負け犬に何言われても悔しくもならねぇや」

「なんだとぉ!」


今度は俺が割って入った。


「あ、あの天竺に行くんですよね?」

「あ?なんで知ってんだ?あー聞いたのか」

「あの、えと、手ぇ!手を出してください!」


訝しげにしながらも悟空は手を出してくれた。手のひらは長くて白くて、甲は毛がびっしり生えていた、猿らしい手だ。俺はその手を握りしめる。


「す、すごくすごく憧れてました!俺の世界だとめちゃくちゃ強くてカッコいいって物語になってます!お、応援してます!」


言いたい事だけ言って手を離した。俺は手を洗わないと決めた。悟空は手をヒラヒラとさせている。


「は、ガキに応援されるとはな、焼きが回ったな!」


そう言いつつ尻尾がクニャクニャ動いている。


「おいおい、そうつれない態度してたら損だそ。今はこんなのだけど、こいつの本質は泰山府君だからな」


あっさりと哪吒が話す。悟空は「ゲッ」と声に出した。尾は直立し逆立っている。


「ま、まぁいい。俺様もう不老不死だし地獄で会う事ねぇだろ」


ちらっと俺を見た。


「なぁお前に会いたくなったら、どこに行きゃ会えんだよ」

「え?会いに来てくれるの?」

「気が向きゃな」


悟空はツンデレって奴かもしれない。俺の声は弾んだ。


「お、俺きっと二郎真君の所に居るから!あの人だったらきっと、どうなっても俺の居場所分かると思うから!」


俺は早口で答えた、胸がいっぱいになっていた。


「ほら、そろそろ休憩も終わってんじゃね?戻るぞ」


哪吒が俺を抱えようとすると、悟空が俺を先に抱きかかえた。


「俺が送ってやる。お師匠様の所に行くんだろ?」


そういうと筋斗雲に飛び乗り上空に浮かび上がった。


「お前、名前なんていうんだ?」

「泰己!」

「字は?」

「えとね、泰山の泰に己だよ」

「まんまの名前してんのな」


悟空はキッキッと歯を剥いて笑った。絵本や漫画で読んだ筋斗雲に悟空と一緒に乗っているのだ、誰が感動しないだろう。まるで夢のようだ、逞しい猿の手に抱かれ俺はうっとりしていた。


「お前はなかなか見所がある奴だ、俺様の格好良さが理解できるとはな。仙人のくせにやるじゃねぇか、俺様が暇になったら舎弟にしてやってもいいぜ」

「本当⁈」

「ただし、俺は仏門に入ってる三蔵法師様の一番弟子だ。その時はお師匠様の許可も得なくちゃな!」


悟空の筋斗雲は速かった、すぐに三蔵法師達が休んでる傘まで戻ってきた。哪吒が後から追いかけてきて、三蔵法師、猪八戒、沙悟浄、孫悟空、それぞれに水袋を渡した。

三蔵一行とはここで別れたが、最後に悟空は俺を見てウィンクして離れた。


俺は哪吒の足元に隠れながら、砂漠の中を歩いて進む一行を見送った。



ここまで読んでくださりありがとうございます、書いててすごく楽しかったです!哪吒と孫悟空は、昨日の敵は今日の友、お互いを喧嘩(遊べる)友達だと思ってる。そんなイメージで書きました。皆さんにも楽しんでもらえたらいいですが。

今更ですが弻馬温(ひっぱおん)は天馬のお世話係で悟空の天界での役職です。


次回更新も明日の夕方を予定してます、また読んでくだされば嬉しいです。よろしくお願いします。

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