強敵(笑)、出現です!
『クロノブラック』登場・・・っ!
白乃と黒乃だから『シロノホワイト』と『クロノブラック』
その圧倒的ネーミングセンスに岳たちはどう立ち向かうのか・・・っ!?
「私の名は『クロノブラック』……妹が世話になったな」
フードの女は短く名乗る。
「ふぅん。あなたが『賢者の会』のトップなのね。ということは、ここであなたをヤれば、全部解決ってことなのかしら」
岳が挑発的に言う。
「待て待て! 岳、落ち着け。相手は瞬間移動でここまで来るようなヤツだぞ……絶対ボクらより強いって!」
ボナペントゥーラが耳打ちする。
「大丈夫よ。ここで負けても修行イベントの後で絶対勝てるから」
岳は言い返す。
「ふん。『賢者の会』に仇をなす者は全て排除する……」
『クロノブラック』は臨戦態勢に入る。
「来るっ――」
岳とボナペントゥーラが身構えた時、カグヤが申し訳なさそうに手を挙げて言った。
「あの、すみません。今から最終決戦みたいな時に空気を読まずに発言してしまい、大変恐縮ではあるのですが……どうしても気になってしまって……」
一同がカグヤの方を向く。
「どうかしたの? うさみん」
岳がカグヤの発言を促す。
「その『クロノブラック』『シロノホワイト』という名前ですが……少々、控えめに言ってもダサすぎるかと……」
カグヤは遠慮がちに指摘した。
「……」
場には沈黙が走る。
それ、今、指摘することか……? そう思ったのはボナペントゥーラであった。しかし、彼女がツッコミを入れるよりも先に、これをチャンスと考えた岳が追撃を加える。
「ええ。確かにダサいわね。小学2年生が考えたようなセンスよね」
「ですよね! あまりにもダサすぎてちょっと逆にオシャレ的なヤツかと思ってしまいました!」
同調する二人。両手を握り合い、キャッキャッと騒ぐ。
「……っ!!」
ギリリと歯ぎしりをする『クロノブラック』。
「お、お姉ちゃん? も、もしかして気にしてるの? わ、私はすごいカッコイイと思う! この名前、気に入ってるし! そりゃあ確かに『賢者の会』の中でも『クソダサすぎワロタww』 とか『クロノブラックさまダサかわ女子萌えww』とか言う人もいるけど……わ、私は大好きだよぉ!」
フォローしているつもりだが、無意識に煽りに参加してしまう『シロノホワイト』。
「……大丈夫だ。私は特殊な修行を受けているからこんなことで平常心を失ったりはしない」
感情を必死に押し殺すような目で二人を睨みつける『クロノブラック』。この隙に攻撃の一つでも加えればいいものの、それをしないところが彼女の甘さを体現していた。
「あー、こんな名前考える人の顔が見てみたいわね。ファッションセンスとかも多分ヤバイわね。黒いフードとか着てそうなイメージあるわ」
「わかります! たぶん、中学生の時とかに『私の考えた最強の武器』とか授業中にノートに描いてそうなイメージありますよね!」
煽る岳とカグヤ。
すかさずフォローに入る『シロノホワイト』。
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん! 高校生の時、現代文のノートにラクガキしたまま提出しちゃって、しかもそのノートに名前書くの忘れてて、クラスメイト全員の前で先生に『こんな剣? 槍? みたいなダサい武器のラクガキ書いてノート提出したヤツいるか? 名前書いてないからわからんかったぞ。あと、ノートの取り方もダサいなw』って言われた事件はもう昔の話だから忘れて!!」
「………………当然、そんな事件は気にもしていない。なにせ私は特殊な修行を受けているのだから」
『クロノブラック』の声が震えはじめた。
しかし、彼女への追いうちはまだ終わらない。この煽り作戦に感づいた煽りの達人ボナペントゥーラが参戦してきたのだ。
「あー! いるよなそういうダサいヤツ! 『GEKAI NO MOAI』とかにハマってそうなイメージあるわ。ぷぷぷ」
と言った瞬間、特殊な修行を受けていることで定評があるハズの『クロノブラック』の中で何かがブチ切れた。
「おい!!!! 『GEKAI NO MOAI』のことを悪く言うヤツは――」
「誰だい!? 『GEKAI NO MOAI』の悪口を言っているのは!?」
『クロノブラック』の言葉をさえぎり急に割り込んで来たのは、バトル展開になる前の能力説明以降、一切のセリフがなく、存在を忘れられつつあるオコジョちゃんであった。
「何者だ!?」
『クロノブラック』が警戒心を露わにした。
「オコジョちゃんの名前はオコジョちゃん。たった一匹の『ゲカモ輪』……さ」
オコジョちゃんは渋い目つきでそう名乗る。
ちなみに、
『ゲカモ輪』……『GEKAI NO MOAI(外科医のモアイ)』のファンの名称。
類似語『嵐』→『アラシック』、『田村ゆかり』→『王国民』
「『ゲカモ輪』ってなんだよ!! オコジョちゃんお前どっちの味方なんだよっ!」
ボナペントゥーラがプンスカ怒って言う。
それに対し、『クロノブラック』は冷静さを取り戻したようであった。
「……そうか。オコジョちゃんとやら。お前も『ゲカモ輪』か。しかし、お前は私の敵だ」
「うん。そうだね。オコジョちゃんと君はどうやっても分かり合えない。でも、『GEKAI NO MOAI』の名曲『MOON LOVERs TRAP』の歌詞にもあったよね」
「……ああ。あれか。いいよな」
「……うん。いいよね」
本来であれば敵同士……決して交わるはずのない二人の宿命が交わった。これが『GEKAI NO MOAI』の……そう。音楽の魔法なのかもしれない。
「ちょっと待てよ!! 歌詞気になるじゃん!! なんだよそれっ!! 重度のオタは多くは語らないってヤツか!!」
彼女らの通ぶった会話はボナペントゥーラをこの上なくイライラさせた。
「ふん。『GEKAI NO MOAI』に免じて今日は見逃してやる……次が命日だと思え。神の手先ども」
『クロノブラック』はそう言って、『シロノホワイト』をかかえたままテレポートで帰って行った。
過去の悪役たちが、主人公パーティがまだ弱い序盤にトドメを刺さなかったことを後悔して最後にやられしまう光景を彼女は見たことがないのだろうか。またも彼女の甘さが露呈してしまったと言えよう。
「……逃げられたわね」
「ええ。わたくしたちの煽りテクニックに恐れをなして逃げましたね」
「ああ。最後完全に泣いてたよあれ。オコジョちゃん来なかったら勝ててたよこれ」
三人ともかなりポジティブな解釈をしているようだ。
「ていうね。オコジョちゃんなんで入って来たの? 私たち勝てたんだけど?」
岳はオコジョちゃんを見下すようにして言った。
「いやいやいや。オコジョちゃんは感謝こそされても憎まれ口を叩かれる筋合いはないよ!」
オコジョちゃんが不服そうに言う。
「まぁまぁ。済んだことを言っても始まりません。次こそあの『ダサダサブラック』を調教できるように、わたくしたちも精進いたしましょう」
「だな! さすがうさみんはポジティブだなぁ!」
カグヤの言葉にボナペントゥーラが同意した。
岳は、二人が言うのなら仕方ないかと、オコジョちゃんとにらみ合うのをやめた。