シロノホワイト、ボッコボコにします!
指定校推薦もとってこれない使えない害獣だと判明したオコジョちゃん。
そのオコジョちゃんのスマホには神様からのメールが・・・!
オコジョちゃんのスマホは天界のものとだけあって謎に高性能で、『シロノホワイト』の現れた場所をGPS的な感じで示していた。
表示された場所は、地元のガソリンスタンドだった。
「うわっ。すごい人集まってるじゃん! これじゃ様子わかんないよ!」
現場付近には、野次馬が大量にいて肝心のガソリンスタンドに近づけない。
ボナペントゥーラは小さな身体をぴょこぴょことさせながら言う。
「……かわいい」
その姿は愛らしく、意図せずカグヤを萌えさせてしまった。
――ウゥーーー! ピーポーピーポー!!
そうしているうちに警察と消防が到着する。
「危険ですので離れてください!」「犯人に告ぐ! 今すぐ火を消しなさい!」「人質を解放しなさい!」「お前はもう包囲されてる!」
メガホンから聞こえる声をもとに、岳が推測する。
「万引き……かしら」
「ちがうよ! なんでそんな小さな犯罪だと思ったんだよ! ガソリンに火をつけるって言って立てこもってるんだよ!!」
「……『マンビキ』って古代アイルランド語で『ガソリンに火をつけるって言って立てこもること』の意味なのよ?」
などとボナペントゥーラと岳は緊急事態にそぐわない平常運転なやりとりを交わす。
そのやりとりを横目で見てやれやれと言った雰囲気のオコジョちゃんが言う。
「警察が来たから、これでオコジョちゃんたちも現場に近づけるよ」
「え、どういうこと?」
ボナペントゥーラは問うたが、オコジョちゃんはそれに応えず、近くにいた警察官に話しかける。
「あ、どうも。オコジョちゃんです」
「あ! オコジョちゃんさんですか! どうぞどうぞこちらへ」
オコジョちゃんは警察に顔が効くらしく、岳たちはバリケードの中に簡単に入ることができた。
「どうなってんだよ……」
ボナペントゥーラはこの国の警察のあり方に疑問を抱いた。絶対的な正義と思われがちな警察、それについて疑問を抱くということは、この国の司法を考察する上で、ある意味重要なことかもしれない。
「来ないで! 来たら火をつけるわよ!! この娘がどうなってもいいの!?」
バリケードの中に入ると、刑事ドラマなんかではお約束すぎて逆に新鮮味のある光景が広がっていた。
「びえぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇえぇっぇぇえええんん!!!!」
泣き叫ぶ幼女。
地面はガソリンの海。周囲を包囲する警察官。ガソリンスタンドの中央で左手にライターを持つ女性。その女性の反対の腕には、泣きじゃくる小さな女の子を抱えていた。
しかし、その景色には一つ異常なモノの存在があった。
「……ひ、火をつけてください! は、早く!」
犯人の女性に対し少し離れたところから指示を出す少女。
「あの娘、誰……?」
岳は目を凝らす。
少女は、小柄で、ミディアムヘアの茶髪。クリクリとした小動物のような瞳。大人しそうな印象を抱かせる。
服装は、黒のフード付きコートだ。いかにもな悪役といった雰囲気で、岳は厨二心をくすぐられた。
「気が付いたみたいだね。彼女が『シロノホワイト』だよ。あの黒いコートを着ているときは、一般人には見えないし声も聞こえない。君たちは魔法少女だから見ることができるのさ」
と、オコジョちゃん。
「まずいじゃん! 『シロノホワイト』は犯人を操れるんだろ!? 早く止めなくちゃボクたちも、人質の子も、犯人も……みんな火だるまだよ!」
ボナペントゥーラはオコジョちゃんをせかすように言う。
「時間がないわ。オコジョちゃん、私たちに魔法の杖でもなんでもいいから戦えるものを」
岳も続く。
「君たちにはもう神さまから力が与えられているよ。杖はなくても魔法が使えるはずだ。能力については、それぞれのスマホを見てみて。神さまからメールが来てるはずだから」
オコジョちゃんが言い終わると同時に、三人同時に着信音が鳴った。
急ぎスマホを取り出しメールを確認する。
「なになに……300万円が当選しました! 以下のURLにアクセスして――」
「岳! ボケはいいからさっさと確認!」
「そ、そうよね」
岳はノルマのボケをこなしたあと、メールを読む。
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岳
能力『聖なる雫』
対象に「おもらし」をさせることができる。
量、尿の成分も調整可能。
ボナペントゥーラ
能力『女神の心臓』
対象の胸の大きさ、固さ、重さを変えることができる。
カグヤ
能力『百合革命』『薔薇革命』
対象を同性愛者に変えることができる。
カップリングも自由に設定できる。
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「こんな能力でどうやって戦えって言うんだよ!!!」
メールの確認が終わり、一番に声を上げたのがボナペントゥーラだった。
もっともな意見である。しかし、世の中正論だけでは回らない。大人は皆、こんな能力(コミュ障、低学歴、非イケメン、非リア、髪の毛少なめ……etc)でどうやって戦えばいいんだよ! と思いながらもなんとか生きてゆく術を身に着けているのだ。
「いえ。なんとかなるかもしれませんよ?」
ここで案外冷静な反応をしたのがこれまで若干空気気味だったカグヤだった。
「刑事さん。わたくしたちに、犯人の方との交渉役、まかせていただけませんか?」
「……わかった。俺は今日非番だったのに呼び出されてんだ。お嬢ちゃんたちに任せて競馬でも行ってくるわ」
現場責任者の刑事はメガホンをカグヤに渡して帰って行った。
「うさみん!! 警察に任せた方がいいよぉ! ボクらに何ができるってのさぁ! 岳もなにか言ってやってくれよ!」
ボナペントゥーラは涙目で訴える。
しかし、岳にとってそれは逆効果であった。なぜなら、岳はボナペントゥーラの言ったことと逆のことをするのが大好きだからだ!
「ボナペントゥーラ。気をしっかり持ちなさい。私たちが集まれば不可能なんてない。そうでしょう……?」
岳が諭すように言う。
「じゃあ今度の数学のテストで赤点回避してみろよ! できるのか!?」
つっかかるように言うボナペントゥーラ。
「……うさみん。ちょっとメガホン借りていいかしら?」
岳はボナペントゥーラの言葉を完全にスルー。カグヤから借りたメガホンで言う。
『『シロノホワイト』! 私たちはあなたが見えているわ! 今すぐ犯人の洗脳を解きなさい!!』
岳は、事件の根本である『シロノホワイト』に対して交渉することにした。
「わ、私が見えているんですか!? どうしよぅ……でも、やめません! これは使命なんです!」
シロノホワイトは動揺を見せる。だが、決意は固いようだ。
『解かないというの?』
「は、はい! 絶対に解きませんからね! ほ、ほら! は、犯人さん! さっさと火をつけてください!」
犯人の女性は何か見えない力に操られるかのように右手に持つライターを地面のガソリンに近づける。
「ひっ、やっやだぁぁぁっぁぁ!! えぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっぇえっぇん!!!」
人質である幼女の悲痛な叫び。
もうだめか……そう思ったとき――
「岳! ちょっと拡張期借りるよ!」
さっきまで俯いていたボナペントゥーラが急にやる気を出す。
『犯人さん! よく聞いて! このままじゃたくさんの人が犠牲になる! あなたがどうしてそんなことをしようとしているのか教えてよ!!』
ボナペントゥーラは言った。
「ボナペントゥーラ……!」
岳とカグヤは覚悟を決めたボナペントゥーラに関心する。
一方、犯人は動きが止まり、苦しそうに口を開く。
「あ、あんたには関係ないでしょう……っ!」
この様子を見たボナペントゥーラは確信する。
「岳! うさみん! 『シロノホワイト』の催眠は完璧じゃないんだ! 犯人さんにはまだ自我が残ってる!」
岳とカグヤはボナペントゥーラの言う事に同意するというふうに目を合わせて頷く。
「ボクが犯人さんを止める。だから、岳とうさみんは打開策を考えて!」
「ええ。わかったわ。だけど……」
「だけどなにさ!」
岳は少し言いにくそうにして口を開く。
「だかいさくってどういう意味?」